人間カメレオン
(少々ネタバレあり)
村田沙耶香の短編集『生命式』から
「孵化」という作品をご紹介します。
多重人格を扱った小説は今までも読んだことがありますが、この小説の主人公ハルカは、それとはちょっと違います。
相手によってキャラクターがコロコロ変わります。
同一人物と思えないほど。
子供の頃はこんな人、高校ではこんな人、大学時代、バイト先、勤務先。
委員長、アホカ、姫、ハルオ……
あだ名も変わります。
婚約者の前でも、真の姿を見せません。
いえ、そもそも真の姿がないのです。
自分でも「性格がない」と自覚しています。
相手に合わせて、過剰適応してしまう人間を少しオーバーに、ユーモラスに描いています。
狭い集落の中で暮らしていた、古の人にはこんなことはなかったと思います。
地元の学校から、知人のいない学校へ電車通学する。
親元を離れて遠方の学校へ進学したり、勤務したりする。
こんなときは、過去の自分を変えるチャンスです。
所属する集団の中で、求められる役割になり切って別人格を演じることもあります。
そのまま新しい人格が上書きされることもあります。
相手によって、それぞれの人格を演じ分けることもあります。
この小説を読んで考えたのは、SNSの世界での振る舞い方です。
自分を飾り立てることもできますし、それをしても誰からも咎められることはありません。
わたしのようにこっそりnoteをやっている人なら、なりたい自分を演じることも可能です。
何のためにnoteをやっているのか、目的にもよりますが。
例えば、コメント欄でのやり取り。
フォローしている方なら、記事を読み、どんな人かを予めイメージします。
そのため、こちらの口調も自ずと違ってきます。
親しみが湧いて軽口を叩くこともあります。
時に、自分のキャラクターを見失いそうになります。
まぁ、見失うのも楽しいのかなと思える不思議な感覚です。
相手から愛されたい。
自分の居心地がよい。
しかし、あまり無理をすると自分で自分の首を絞めることもあります。