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ハーバートを継ぐ者。#7

「応援を呼ぶか?」スコフィールドはパトランプを屋根につけているガレンジーに聞いた。


けたたましいサイレンと共にガレンジーが開口する。「そうだねぇ…行き先が絞れていない以上あまり得策とは言えないかもしれないけど総出で探すのは何か意味があるかもしれない。よし呼ぼうか。」


一人で議論して結論を出すと、早口でトランシーバーに話しかけた。


「州刑務所職員ダンテ・サーチェンスの顔の仮面を被った人物が北の留置場方面へ逃走中。見つけ次第こちらへ連絡せよ。白の食料配達用ミニバン。ナンバー不明。」トランシーバーの電源を切るとガレンジーはふぅ、と一つため息をついた。


オハイオ州では覆面パトカーや、あからさまにサイレンを鳴らしたパトカーが何台も走りだしていた。


悪名高きディリンジャーの逮捕のヒントが豆のようにあっちやこっちに転がっていると思うと、捕まえなければという意識が自然に芽生えたのか運転手のハンドルを握る手には汗が滲んでいる。


ガレンジーやスコフィールドはすこぶる冷静だったがある種の使命感のようなものには駆られていた。それが逮捕の原動力ともなっていた。


どうしてわざわざあんなことをしてまで我々の目を欺いたのだろう。ニオスの町境に差し掛かったところで、スコフィールドの頭の中では最初の疑問が逡巡していた。


「分からんなぁ…」無意識に呟く。


ガレンジーは反応した。「そうだねぇ。スコプッチョの気持ちはわかる。だけどねぇ…」そこまでいうと言葉を切った。すると次の瞬間ガレンジーは弾かれたように、背もたれから体を起こした。


「スコプッチョ。南支部の方に伝えて。オハイオ州の州境を……」



 誰も自分を捕まえられまい。愚鈍な警察共め、せいぜい喘いでいるが良い。死んだ同僚の仮面を被った男はオハイオ州の州境に近づきながら嘲笑った。ナンバーすら瞬時に記憶することのできない馬鹿どもめ。


これからわざわざ裏のルートを辿って州から出るようなコソ泥はしなくて良い。何食わぬ顔で州境から出るのだ。そうすれば怪しまれることもない。


ハンドルを左に切りながらほくそ笑んだ。


横目に映る街並みに別れの挨拶を交わしながら信号の前でブレーキを踏んだ。


ダッシュボードにタバコとダンヒルがあった。無性にヤニの味が恋しくなって、無意識の内にふかしていた。


「ふー……」タバコを吸うとどこか落ち着いた気分になる。ディリンジャーと契約した時もタバコを吸っていた。——逆らえば殺される。そんな恐怖に耳を傾けないためにもタバコを吸った。


もうこの仮面をも必要ない。うなじのところを爪で剥がして仮面をとった。


これで自分が犯人だとはより分からなくなったに違いない。

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