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【読書メモ】ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方

コンサルタントとして様々な会社を見てきています。会社によって組織文化は様々です。わたしは、その会社らしさを理解して、一緒に歩んでいくことを大切にしています。なぜなら「らしさ」こそ模倣できない部分であり、強みの源泉であるからです。

中竹竜二さんも著書「ウィニングカルチャー」で同様のことを述べています。

同書では、組織文化をどのように形成するか、また、形成することを通じて組織を進化させていく重要性や方法論が書かれています。

組織文化は手入れをして作り上げていくもの

組織文化が大切だということを否定する人はいません。しかし、作り上げていこうとしている人はあまり多くないように思います。結果としてできあがる、あるいは、作れるものではないと考える方が多いと思います。

同書の中には、以下のように書かれています。

組織文化を定期的にチェックし、不具合がないかを確認し、課題があればそれを修正していくのです。そのためには前提や常識を疑い、自分たちの組織文化を客観的に把握する視点を持ち、課題が見つかったら、恐れずこまめに組織文化にメスを入れていきましょう。

つまり、戦略や業務同様にPDCAを回していくのです。ただ、戦略や業務のようにすぐに目に見える形になって表れるわけではありません。時間がかかります。このため、こまめに手を入れるということを怠りがちです。

このあたりは、庭の手入れと似ていると思います。毎日手入れをしないとあっという間に雑草が生えてしまいます。でも、それで劇的に庭が素敵になるわけではないので、後回しになりがちです。かといって、雑草が生えないようにコンクリートで固めることもできますが、そうすると、変化のない庭になってしまいます。これでは、わが家らしい庭になりません。

組織文化づくりは、心の土壌を耕すこと

組織文化は、心の土壌にたとえられます。
中竹さんが、早稲田大学ラグビー部のキャプテンになったときのエピソードが印象的です。

続いて、チームの目標を発表しました。
まずはX軸を「徳」とし、Y軸を「勝利」とする座標を描きました。続いて原点からX=Yとなる右肩上がりの直線を描き、その直線の先に「勝者」と書きます。この「勝者」をチームの目標にすると宣言するとともに、「徳」を実現するためのテーマも具体的に伝えました。
「モラル」
「謙虚」
「感謝」
単に勝つことが目的なら、ラグビーに関するスキルや肉体的なフィットネスを極限まで高めれば済むのかもしれません。
しかし、それだけでは限界があると感じていたのです。

実際のところ、この目標は同期の仲間以外からは受け入れられなかったそうです。ただ、それは想定内だったと中竹さんも冷静に振り返っています。何の実績もないど素人の社長が来て、「モラル」「謙虚」「感謝」を今年の方針にすると言っているようなものだ、と。しかし、中竹さんには信念がありました。

正々堂々ときれいごとを実践する姿勢がチームを強くする。そう信じていました。

と書かれています。極限まで練習した選手たちがさらなる高みを目指すとすれば、最後に目を向けるのは心です。それを3年生までの日々で痛いほど分かっていたと言います。大学選手権の直前に行動を改めても勝てない。1年間行動し続けた方が強くなるのは間違いない、そういう思いで実践を続けたそうです。

謙虚に学び、変わる行動をリーダーが実践しないかぎり、組織文化は育たない

カリスマ社長がトップダウンで戦略を示し、社員が徹底的に行動すれば結果は出るでしょう。それもまた、文化をつくるのは間違いありません。もちろん、それを否定するつもりはありません。

しかし、そこで出来上がるのは、カリスマ社長を前提とした文化です。もっと良い方法があるかもしれないのに気付かない、あるいは、世の中の変化に対応できない、結果として永く存続できない会社になってしまいます。

中竹さんは、日本ラグビー協会の初代コーチングディレクターでもあります。全国のラグビーコーチのレベルアップを図るのがそのミッションです。就任当初、協会からはトップダウンでの指導方法の浸透を指示されます。しかし、ボトムアップ型、つまりコーチたちと考える方法を中竹さんは提案しました。

就任当時の協会は、現場からするといつもトップダウン、方針もコロコロ変わります。つまり、信頼関係がありません。そんな中、現場の最前線で結果を出しているコーチたちに「一緒に指導体制を作りたい」と伝えても、賛同を得られません。学生時代と同じです。それでも、中竹さんは信念を伝えます。

「私が『これをやってください』と言えば、みなさんは選手に対して同じように『これをやりなさい』と言うでしょう。そんなことを続けても選手は伸びません。自分で考えて勝てる選手を育てるためには、自分で考えて教えられるコーチを育成することが唯一の方法です。選手より前に、まずは指導者が成長しましょう」

そして、かなりハードなスケジュールの合宿が組まれます。指導者たちは文句を言いながらやり切ったそうです。さすが、結果を出している方々です。最後は心の部分が大きいのだろうと思います。

指導者たちは、実は学びに飢えていたのです。指導者は孤独で、なかなか情報が入ってこないため、自分のやり方しか知りません。地元ではみなさん有名な指導者なので、彼らの存在に遠慮して、フィードバックをしてくれるような人もいませんでした。
だからこそ、合宿の場が指導者たちの学び合う貴重なコミュニティとして機能しました。回数を重ねるほど、指導者たちはこの合宿を楽しみにし、そして前のめりになって学ぶようになりました。

こうした地道な取り組みが変化をもたらします。

私がコーチングディレクターとして実践したのは、指導者の学ぶ姿勢を変えること。指導者の間に謙虚に学び合う空気が広がっていくと、それはそのまま高校ラグビーの選手や関係者にも広がっていきました
その変化を顕著に感じたのが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまでの練習や夏季合宿が大幅に制限された2020年のことでした。これまでにない制約を受ける中、2020年度の第100回全国高校ラグビー大会で勝ち進んでいったチームは、学生たちが自ら考え、自ら学ぶ組織文化を大切にしているところでした。

信念が土壌を耕し、信念を持った人が育つ

中竹さんは、自分のことをカリスマではないとしています。ただ、間違いなく強い信念を持っていることが分かります。

そう考えると、中竹さんがいなければ組織文化が変わるということも起きなかったということになります。ただ、この信念によって耕された土壌は、「謙虚に学び、変わっていくことが大切だ」という信念を持った人を育てます。だから、中竹さんが、いなくなっても問題ないのです。

組織文化の変容は、このような信念を謙虚に問い続ける行動によってもたらされます。経営者に求められるのは、こうした行動です。わたし自身もその土壌を耕せるよう、自分の信念や志を育てたいと思います。

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