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ベンチャー投資とバイアウト投資の違い

同じPE(プライベートエクイティ)に分類される、ベンチャー投資とバイアウト投資ですが、その違いを徒然なるままに書いてみたいと思います。

ちなみに私はベンチャー投資とバイアウト投資の実行をそれぞれ一回づつしか経験しておりませんので、素人に毛が生えたくらいの者の戯言としてお聞きいただきますと幸いです。

ベンチャー投資とバイアウト投資とは

話を進めていくにあたって、それぞれの定義を設定しておこうと思います。
※本記事の説明のための、私個人の理解になります。

ベンチャー投資とは、圧倒的に優れた技術・アイデアを基にかなり高い成長を実現する可能性がある設立まもない企業に対して、その高成長実現による株価向上に伴う売却益獲得を目的とした投資と設定します。

バイアウト投資とは、比較的成熟した事業を営む企業に対して、対象企業の経営権を獲得し、企業価値向上の施策を行うことにより、株価を向上させ、それに伴う売却益獲得を目的とした投資と設定します。

①投資家としての儲け方が違う

ベンチャー投資はホームランを狙う(当たればデカいが中々おきない)の投資であり、バイアウト投資は確実なヒットを狙う(当たりのインパクトはホームランほど大きくないがミスはしない)投資になります。

一番不幸だと思うのが、VCでもない会社がベンチャー投資を始めた際に、担当者(キャピタリスト)が1件の失敗で、ダメレッテルを張られることです。
ベンチャー投資はホームランを狙いで、ホームランを打てる確率を高める(これも大事ですがベンチャーだと経営関与が限定的のため限界あり)よりは、どれだけ多くの打席に立てるかが重要になります。
なので、ベンチャーキャピタリストは個人でポートフォリオを持ち、その中で結果1/10の一件でも成功させ、その時の利益で残りの9件の失敗をカバーできれば問題ないはずです。

一方、バイアウト投資はすでに安定した事業基盤があり、その企業に対してバリューアップ余地を見極めて投資(かつ経営権も取得)するため、基本的には100%成功させるつもりで望むべきかと思います。
なお、バイアウト投資には対象企業の事業がすでに安定しているという特性から、LBO(買収資金の一部をデット調達し、買収を実行することが)が可能となり、これが事業の改善・成長とは別に投資の収益性を高める源泉にもなります。(ファイナンス的には資本構成というファクターを使い儲けている。)

ちなみに再生投資については、新ローンが難しい場合がありますが、すでに企業が再生状態にあることから、事業価値に対するデットが大きい(もしくは過剰である)ため、ゼロ円とか、極端に低いエクイティバリューで投資することが可能になります。
これは実質的にほぼフルレバレッジで投資していることになりますので、実質LBOと同じ効果があります。

感覚ですが、ベンチャー投資ではステージにもよりますが30%~40%のIRR、バイアウト投資は25%のIRRが目線感になるかと思います。

②投資判断のための要素が違う

本ノートを書いたきっかけでもあるのですが、ベンチャー投資とバイアウト投資の投資委員会で、投資意思決定のための要素及び優先順位が明確に違うと感じたのが投稿のきっかけです。

以下にそれぞれの投資判断の重要ポイントを書いてみました。
ベンチャー投資
①市場の規模、成長可能性、②マネジメントチーム、③事業・プロダクトの優位性
バイアウト投資
①事業計画の妥当性・蓋然性、②レバレッジ、③Exitプラン

ベンチャー投資は一番は市場規模かと思います。いわゆるTAM・SAM・SOMというやつです。
その次にマネジメントチームで、能力(経歴)はもちろんですが、情熱とか逃げないとか根性的なところをしっかりみる気がします。
で最後がプロダクトになります。

いやいやプロダクトが一番大事でしょと思われるかもしれませんがベンチャー投資は壮大なチャレンジ(新規事業)に投資することになります。
シード期やアーリー期だと、全くの新規事業で特定のソリューション仮説であるプロダクトが成功するなんて、正直誰にも分かりません。
実際に解決したい課題は同じでも、ソリューション自体はドンドンアップデートされて、プロダクト自体が全然違うものになったりしてしまいます。
なので、困りごとがちゃんとあり、それを解決すると大きな売上高になる(=市場)と、それに立ち向かう人達を評価する方が、わからないものを評価するよりは評価しやすいということになります。

バイアウト投資は事業計画の妥当性、蓋然性とレバレッジの優先順位は実はほぼ同列かと思います。
対象会社の堅い数値を見極め、そこに実現可能性が高い施策を織り込めるかがポイントです。ここではの施策は爆発的な成長をさせるわけではなく、実現可能性が高く、少しでも改善させ、ローンを引っ張ってこれることに意味があります。
経営者がイケてなければ新しい経営者を連れてきてちゃんとマネジメントを行うだかでも企業価値は上がり、合わせてレバレッジをかけることにより、事業成長以上の投資リターンを生み出します。
バイアウト投資において、バリューアップは投資採算を高める一つの手段に過ぎません。


最後にExitプランを入れました。これはベンチャーと違い爆発的に成長している市場でないので、IPOできなかったり、買いがつかないリスクが高いためです。なお、この際には目先の改善だけではなくて、長期的な成長戦略を見据えていないと、いい売り手を発掘できなかったり、売り手から高く買ってもらえなかったりするので、長期的な成長戦略の検討も必要になります。

ベンチャー投資の財務モデルがおもちゃみたいだと感じていたバイアウト投資の友人がおり、上記前提理解すればベンチャーはモデルの精緻化は必ずしも重要でないこと、逆にバイアウト投資では確実なクイックヒットを積み上げることに意味があったりとその違いが理解しやすくなるかと思います。

③投資契約が違う(ちょっと些末)

ベンチャー投資では株式引受契約が主流になり、バイアウト投資では株式譲渡契約が主流になります。
※バイアウト投資の会社分割とか事業譲渡とかの指摘は一旦ご勘弁ください。

これは対象企業がそもそも資金ニーズを必要としているかどうかが一番大きいと思います。

ベンチャー企業は資金ニーズ(製品開発・人材採用・マーケティング等)があるからこそ資金調達をするので、対象会社が新たに株を発行して投資家のお金は対象企業に入ることになります。
また、ベンチャー投資はホーム狙い(小さい額で多きの企業にと投資する)という性質から各VCには1企業当たりに出せる出資の上限みたいなものがあるため複数のVCが共同で投資を実施したり、そもそも経営者が最大株主として残っているいる場合がほとんどです。
なので、VCは少数株主となるため、少数株主の立場でも一定の関与(取締役の派遣等)を図れるよう株主間契約も合わせて締結します。

バイアウト投資は、経営権の取得が前提のためオーナーや大株主から株式を買い取る形になります。なので対象会社としては株主が変わるだけで、会社そのものにお金は入りません
※もちろんバイアウト投資でも投資後に対象会社に対して必要資金を注入することもあります。

その他

こちらはただの感想ですが、
ベンチャー投資は未公開企業で公開情報が少ない中、VC間で共同投資を行ったり、人に投資している側面があったり、連続企業家がいたり、企業家がVCになったりと中々狭いところでエコシステムが形成されているイメージがあります。
なのでベンチャー投資はバイアウト投資よりもキャピタリストの人的ネットワークみたいなものが大事になるため、VCに所属しながらも個人名で仕事をする/仕事をとるキャピタリストの方が多いと思いました。

バイアウト投資については、案件規模が大きく対象企業にもFAがいる場合も多いため、個人というよりは会社経由での紹介になりかつ、しっかり分析し、事業計画を詳細に作り込んだり、LBOといった金融の側面が強い仕事になるのかと思いました。

取りまとめない形で失礼しました。最後までお読みいただきありがとうございます。

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