凡人参謀(CFO)の戦略検討の型
はじめに
CFOとして経営を担う立場で、日々CEO/Boardメンバーと「○○の戦略はどうするか/見直すか・・」といった議論をしています。
ただ、戦略を考えてと言われても、何を考えたら「戦略を考えた」といえるのかが瞬時に思い浮かばない事があり、著名な本を参照しながらまとめてみました。
少しませてくるとフレームワーク通り考えるのはダサイみたいな感覚に陥りがちですが、フレームワークは知っているけど、実務で使いこなせている人は少ない認識です。
凡人である以上、まずは先人が考えたフレームワークをしっかり使ったうえで、自分のオリジナリティを出す、守破離が大切と考えてます。
なので、○○戦略という言葉が出たときに、思考停止にならず、何を考えるべきかの参考にしていただければと思います。
また、長いので、必要なセクションごとに参照してください。
1.戦略の型(構成要素)
各種戦略の型に入る前に、そもそも戦略とは何かを整理します。
名著「良い戦略、悪い戦略」では良い戦略とは診断・基本方針・行動の3つから構成されるとしています。
①診断:取り組むべき課題を見極める
戦略を立てる時の作業の多くは何が起きているかを見極めること
②基本方針:大きな方向性と総合的な指針を示す
何をやるのかではなく、なぜやるのか、どうやるのかを示す
それを支える優位性を見出すのが仕事
優位性はその価値を高められ続けることが大事
③行動:基本方針を実現するために設計された一貫性のある一連の行動
様々な行動をコーディネートすること自体が一つの優位性
戦略はコーディネートされた行動がシステムに強制される形で具現化する
2.全社戦略の型
全社戦略は最上流のどの事業でどういう組織で戦うかの決定、
すなわち事業ポートフォリオの選定と組織設計の2つで構成されると整理してます。
グロービス経営大学院では全社戦略は以下のように定義されていました。
①事業ポートフォリオ
事業ポートフォリオ検討時は以下2つのフレームが有名です。
※図はデロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリー合同会社様から引用させていただいております。
①ボストンコンサルティンググループのPPM
②GEのビジネススクリーン
「市場規模」、「市場成長率」、「利益率」という市場の魅力度と「市場シェア」、「コアコンピタンス」といった自社の競争能力を加味して決定することになります。
②組織設計
組織設計は色々良書がありますが、波頭さんの「組織設計概論」から引用します。
組織を作るとは3S(ストラクチャー、システム、スタッフィング)を決定すると同義になります。
ストラクチャー
組織図の作成で各部署のミッション・業務(責任と権限)・部署間関係を明らかにする
組織を司る5つの機能(企画、意思決定、調整、実行、評価)について欠落・脆弱・調整・実行・評価がないかを整理
システム
各部署が機動的に活動できるように、人、金、情報の観点から、①人事制度、②会計制度、③意思決定システムの3つが必要
それを組織全体、組織単位間、組織単位内、テーマ別の4つのレベルで検討
スタッフィング
スタッフィングポリシーの策定(年功序列・実力主義、集中的配置等)
個人名での配置(最終的には個人名で当該組織を担えるかを判断)
型ではないですが、以下の文章が大好きで、あれもこれもにならないようにかみしめておきたいです。
3.事業戦略の型
事業戦略は成長方針と勝ち方があると思っており、それを成長戦略/競争戦略として紹介します。
また若干極論ですが、事業戦略検討のゴールは事業計画を策定すること考えるのがわかりやすいと個人的には思いますので、事業計画策定ステップも合わせてご紹介します。
①成長戦略
成長戦略のオプションを考える時には、やはりアンゾフのマトリクスが良いと思います。
成長するためのフィールドをまずは決めようということで、製品(サービス含む)と市場(顧客)のマトリックスでどこを攻めるか決定します。
市場浸透戦略
スピードと参入障壁形成により、マーケットシェアを高める
一般顧客をロイヤルカスタマーにする(使用頻度・使用量を高めてもらう)
新製品開発戦略
現在の顧客に対して新製品を投入
元の製品に関連するアクセサリー、新規能や全く新しい製品を開発
新市場開拓戦略
現行製品をたの地域/新顧客へ広げる
海外展開等が典型
多角化
要は新規事業。1-3で策がない時に検討
②競争戦略
②-1 ポーターの基本戦略
成長方針が決まった後、競争優位を築くための戦略は、ポーターの基本戦略がベースになります。
コスト・リーダーシップ戦略
競合よりも安価で商品・サービスを提供することにより優位性を構築
差別化戦略
商品・サービスの機能性、品質、技術力、ブランドイメージ、顧客対応等で差別化で優位性を構築
集中戦略(ニッチ戦略)
コスト/差別化を特定の絞った市場で展開
②-2 戦略的思考に基づいた企業戦略
ポーターの類型は素晴らしい整理ですが、で具体的にどうやるのがわかりにくいと思います。
そこで、大前研一さんの「企業参謀」より引用して、より具体の考え方を記載します。
ちなみに「企業参謀」では戦略を以下のように言及されております。
KSFに基づく企業戦略
業界における成功の鍵(KSF)を見出して、この分野に集中的に経営資源を注入する
相対的優位性に基づく企業戦略
直接競合していない製品(別の事業)の技術・販売網、収益などを当該製品における競争に反映させる(競争の条件を同一でなくす)
新機軸の展開に基づく企業戦略
相手がやらないこと(市場/製品開拓の新機軸等)を積極的に開拓する
【参考:持続的競争優位性構築のために】
各戦略ともそれのレバーとなっている強みがあるります。
それがどれだけ持続的競争優位につながるかを確認するVRIOといフレームワークを参考までに紹介しておきます。
③事業計画策定
戦略は事業計画に落とすことで、初めて会社としての進むべき道を、対外/対内に対してコミュニケーションできると考えております。
中期経営計画策定について「企業参謀」の中期戦略立案のstepを引用して、私の考えも含めて記載します。
目標の設定
経営の思いをただの願望でなく現実的かつ定量的に設定する
ミッション実現のために何をすべきか、時価総額からの逆算で利益はいくら必要か、SAM(市場)に対して何年でシェアNo1にするか、ざっくりKPIでどうなるか、等複合的に検討
基本ケースの確立
現事業をあるがままやった際にどうなるか?といった成行のケースを策定する
外部環境を加味しながらも各KPIの実績及び傾向値をそのまま設定する(市場成長率と売上の伸びを合わせる、販売数が減少傾向であればそれを反映する等)
原価低減・改善ケースの算定
2の基本ケースにコスト面での経営努力を反映する
基本的にはコスト構造/時系列変化を把握したうえで、コスト対象項目をしぼり、具体的な削減プランを策定していく(5%削減とかアクションが伴いものは計画としては無意味)
コストの洗い出しは、オペレーションの改善とセットでバリューチェーンごとに見ていくと整理できることが多い
市場・販売改善ケースの算定
サービス/製品が持つ最大の市場ポテンシャルを吸い尽くす方法を考える
企業参謀ではアンゾフの成長マトリックスの検討と後述の営業戦略の検討に包含されていることが多いので詳細は割愛します
戦略的ギャップの算定
3,4の経営努力を2.の基本ケースに反映したうえで、1.の目標となお差がある部分を戦略的ギャップとして算定する
戦略的代替案の摘出
戦略ギャップは現状の延長線上には解はないという事なので、従来の枠にないオプションを洗い出す
企業参謀では以下が例示されている
新規事業へ参入
新市場への転出
垂直統合/水平統合
M&A(合併、九州、事業提携)
事業分離、撤退、縮小、売却
代替案の評価・選定
いわゆるファイナンスの投資意思決定の正解であり、プロコンを整理したうえで、回収期間、NPV等を使用して決定する
中期経営戦略実行計画
最後は実行計画に落とす必要があり、誰がいつなにをどうやってを明確化して、会議体やFMTを設計してモニタリング体制を構築するところまでをゴールとする
4.営業戦略の型
私が一番思考停止になりやすかったテーマで、営業戦略を策定しなきゃ、何から考えようという状況を救ってくれたのが下記2冊でした。
基本的には営業戦略はSTPと4Pを検討すれば良いと整理してます。
①STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
セグメンテーションとは市場を科学することで以下の切り口で分析
現在狙っている市場に限らず、市場全体を可視化
顧客攻略という具体アクションに紐づける必要があり、営業活動で捉えられるプロファイリングが必要
分析の切り口は基本的には顧客特性×ニーズ
顧客特性
イノベーション度合、意思決定方法、バーゲニングパワー、価格への敏感度、チャネル重要度(業界/業種でみると上記特性が似ていることが多いからであり、業界/業種で区切ることが必ずしもゴールではないと理解)
顧客ニーズ+洗練度/高度化レベル
ターゲティング
無限にリソースがないからこそ、優先順位をつける必要があり、優先順位の軸及び点数化をすることによってターゲティングが可能になる
点数化の軸としては、成長性、収益性、競争優位性、切り替え障壁が主なものとなる
ポジショニング
ターゲティングに対する訴求メッセージ/ブランディングを検討する
注意点として、顧客ニーズを以下に自社が満たせるかのみではなく、競合に対して何が優位なのか(why自社)を明確にする必要があり
②4P(製品、価格、チャネル、販促)
STPと全く別のということではなく、整合性が必要で、顧客攻略方法の具体化の手法と私は整理してます。
5.財務戦略の型
こちらは手前味噌で恐縮ですが、以前の私のnoteを参照します。
基本的には以下4つの項目になります。
①投資意思決定(含むM&A、新規事業投資)
将来のFCF増加につながる投資なのか?、数あるオプションのなかで最も良い投資か等を判断する
②キャッシュマネジメント
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)のマネジメントに等しい
利益をしっかりキャッシュに変えることが必要
③最適資本構成/資金調達(ペイアウト施策含む)
事業リスクに鑑み、デットとエクイティの比率をどうするか?(財務レバレッジをどこまで効かすか?)が重要なポイント
④IR(流動性創出/WACCの低減)
IRのミッションは究極WACCを下げること
詳細は元記事をご覧ください。
流石に自分の記事だけだと客観性に乏しいので、財務戦略とはという文脈で一番参考になったのは以下書籍です。
6.採用戦略の型
スタートアップにおいては採用が事業成長をレバレッジすることが多く、採用戦略についても記載しておこうと思います。(一応現在HRも管掌しているので)
本来は最適人員構成の実現がミッションで、中採用のみならず、新卒採用→育成や配置転換も考えるべきですが、一旦中途採用に絞って、かつ今の実務での学びから記載します。
※ただいま勉強中の身であり、体系化できたら更新したいと思います。
①ターゲティング&ポジションニング
事業戦略/計画に対して必要な人材要件を明らかにします
但し、事業部から出てる人材要件要望は得てして高く、そのままだと結局採用できないということになるので、人材マーケットに鑑み適切な要件にする必要があります
また各Teamの採用人員について優先順位をつける必要があります(採用リソースも有限なので)
それぞれの職種ごとに、転職ニーズ及び競合を考えした訴求ポイントを明確にしていきます
②アプローチ(母集団形成)
ターゲティングが設定できたら、まず選考母集団を形成します。
母集団形成は認知×メッセージ×チャネル選定で理解しており、認知は企業そのものの有名度やスタートアップだとTwitter等は影響度が大きいです
チャネル選定はターゲットごとに「メディア」、「エージェント」、「スカウト」、「リファラル」のチャネルをうまくmixするのが頭の使いどころで、チャネルハックの方法をそれぞれ検討します
③選考マネジメント
母集団形成→エントリー→選考→内定→内定承諾→入社という選考フローで、それぞれのKPIをマネジメントします
以下各要因ごとに検討ポイントをまとめてます
エントリーしてもらえない
メッセージが訴求できていない → ポジショニング/採用広報見直し
アクセスしている母集団が間違っている → チャネル選定見直し
リソースが足りない →HRリソース補充、RPO検討
内定が出せない
採用基準が社内で曖昧(面接間でブレブレ)→採用基準の明確化
採用基準が高い(誰も内定出せない)→採用要件の軟化
候補者側が要件にマッチしない →ターゲティング、母集団形成の見直し
内定承諾がもらえない
年収/業務内容が魅力的でない →採用要件の変更
そもそも魅力が伝わっていない →採用広報/選考体験の改善
採用戦略を体系化した本はあまり見つけられなかったのですが、以下はかなり参考になりました。
参考)ChatGPTにも聞いてみました。普通に参考になります。。。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?