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創作物と応募ネタ

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基本「」がタイトルに付いているのは創作物。小説とか自由詩とか。付いていない応募ネタも。
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記事一覧

「朝ぼらけ 夢の潰える音がして 世界は終わり方を忘れる」

❤️‍🔥 食う 寝る 住む 生きてくことも死ぬことも 何でもできる元気があれば 𓅮 幸せ運ばぬ鳥の囀りにも 指先ひとつで心が灯る 🎂 0時0分00秒 待ち侘び テレパシーしか打てない祝辞 ⛅️ 朝ぼらけ 夢の潰える音がして 世界は終わり方を忘れる

「金木犀に秋を感じる程の情緒で生きていきたい」

 待ち合わせる店までは電車だと却って遠回りなようで、見慣れぬ道をGoogle MAPで確かめながら歩いていく。すれ違いざま、犬は英語で躾けられ、ベビーカーの少年は坊っちゃんカットで笑っている。数年経てば整えられた襟のシャツと膝小僧の出るパンツを履いて近くの私立学校に通うのであろう。一様に塀が高く年季を感じる家々を横目に、高級住宅街と名高いのも頷けるなとひとりごちてみる。金木犀の匂いと銀杏の臭いが混ざり合う道。台風一過の夏日でも秋は逃げたりしないのだ。  知らない街では目に映

「滴」

 お風呂、一緒に入りましょうか。  1ヶ月ぶりに会う彼女の方からそんなことを言うものだから、「うん、いいんじゃない」なんて無表情を保ってみせたが、全然隠れてませんよ、と余裕綽々で言われた。 「知ってると思いますが……私はすこし、のぼせやすいので」  変なことしたら、わかってますよね?  なぜか後半は心の声。"無言の圧"に怯えながら、先に身体を洗い湯船に身体を沈める。その水音を合図に彼女が風呂場へ入ってきて、身体と髪を洗い始めた。 (……風呂場の鏡って、ほんとすぐ曇る

「戻り梅雨」

 夏風邪をひいたのは、梅雨明けしたくせに湿っぽい日々の続く或る日のこと。鼻水が出始め、徐々に喉が痛くなり、37.5℃くらいの熱が出る。折角の土日が潰れてしまいそうな苛立ちを解熱剤と一緒に飲み込んで、水分と睡眠を摂れば1日で治る「いつもの」パターンだろうと気を鎮める。  長らく遠距離を続けた彼とようやく籍を入れる気になったのは、寂しさを連れて帰ってくることに疲れたからだ。居心地の良い実家を出そびれたまま三十路を迎えようとしているが、気のおけない地元の友人たちがこぞって同級生や

「君が私の東京だから」

誰も見ぬ心の戯言あいのうた 今宵の三十一文字はドミノ 🖋 書きたいと思い入れては思い出す、 いつかの自分が記したことば 🍴💭 賞味期限切れの夢食べて胸焼け 火を入れるのだ腐らす前に 🌞🎐 レイトサマー 残しているのは私の方、 マンゴーキウイのボディクリーム 🕊 あおいとり探し夜な夜なつぶやいて よく見ろそれは白の亡霊 🍼 内祝 弾む話は頬のよう 母にはなれぬ冷えた手と胸 🗓 指輪もサラダも要らない 記念日は366日ぜんぶ 🗼 日帰りどころか5分だったっていい 君

「みらい」

 三ヶ月ぶりの婦人科で、青ざめたのが自分でも分かった。 「は〜い、今日はエコーと、癌検診ですね〜」  エコーだけかと油断していた。否、それだけでも昨夜から緊張して身を固くしていたのだ。それが、もっと痛い、癌検診も今日だって? 「荷物を置いて、お隣の検査室にどうぞ」  にこやかに告げる美人女医に逆らえるはずもなく、涙目で立ち上がった。エコーの冷たい器具も不快だが、癌検診は、擦り取られるから痛いのだ。しかも今日は寝坊して朝食を摂っていなかった。自業自得なのだがコンディショ

「指先ひとつで愛も死も」

 得体の知れない感染症に世界中が毒され、気の滅入る日々。「現場は無いけど、ご飯でも食べようよ」と千秋から美与子へ誘いがあった。半年ぶりの待ち合わせ場所は、二人が好んでよく食べているタイ料理のお店。 「ほら、ご飯きたよー。好きでしょ、カオマンガイ」 「……んー」 「またツイッター見てるの?」  呆れ顔で尋ねる美与子へ生返事をしながらも、画面から目を離さない千秋。 「推しからいいねが来ない……」 「そりゃあんたと違って四六時中見てる訳じゃないんだから」 「まあそうなんだけど

「夜はこれから」

憧れのバンドマンは円山町で女子大生の私を抱いた。「東京って怖い!」と当時は面白がってしまったものだ。定期的に会う訳でもないのに縁は途切れず、今夜も数年ぶりにまた杯を交わしている。好きでもないのに「オトモダチ」だったのはこの人くらいだなとぼんやり思う。行き過ぎたコミュニケーションの手段として、たまに一緒に寝ていただけ。それもすっかり過去の話だ。 「おじさん、繋がってるって何だろうね?」 「おじさんって何だよ、3歳違いだろ」 「あんたはおじさん、あたしはおばさん、現実見てよ」

「午前4時、開かない踏切」

カーテンの隙間から零れる灯りに、死んでしまいたくなる午前4時。明るくなってんじゃねえよ、と理不尽に毒づきながら布団に身を沈める。 「……3件」 先ほどまで確かに『明日』だった今日の、来客予定を思い返す。3件も飛ばすのは面倒だな。観念し、消灯。目を瞑る。 死ぬのは簡単だと思った。 日本で暮らす限りは諸々のしがらみによりハードルが高いと感じているが、単身ふらり所謂「秘境」にでも訪れれば、言葉もろくに通じないまま佇んでいるだけで受動的にも能動的にも死ねると何故だか突然確信し

「無花果の花」

母の日におけるカーネーションのように、父の日を象徴するものはあるのだろうか。 「姉ちゃん、」 「なーに」 「今日、学校で課題が出たんだけど。ゆたかさとは何か考える、っていう」 「ゆたかさ?」 嫌な顔をする美里に、しまった、と焦る宏人。 「好きじゃないのよ、その言葉。私たちがゆたかさと縁遠く育ったの、父親運が無かったせいなんだから」 「あいつの名前が『ゆたか』だったからだろ……。離婚してもう十年以上会ってないのか」 「あんた、そのおかげで来年から奨学金を借りなきゃ大学に行

あの日見た夢の名前を私はまだ知らない

いつか縁のある地で働く時があれば、何かしらの意味を持たせるべきだと入社前から思っていた。しかし予想より早く命じられた異動に、東京生活を手放す勿体無さと、逃げ出してきた街で再び暮らすことへの不安を覚えた。まだ何も成し遂げていないのにと猛省しながら、とにかく何か結果を残したいと動き続けた。成功も失敗も思い出しながら、過去の自分が出来なかったことや他の人がやっていたことも交えて。 初夏の頃、やってみたかった企画で予算以上の実績を上げることができた。他の街でも叶えられたことではある

エンターテイメントの世界で

エンターテイメントの素晴らしさに何度も救われて生きてきた。息苦しい学生生活に夢を与えてくれたのはアイドル、音楽の素晴らしさとものづくりの尊さを教えてくれたのはロックバンド、つまらない日々に彩りを添えてくれたのは数々の展覧会やイベント。 自ら進路を選べなかった時代に明確な居場所を持てず悩んだことが「人を沢山集める場をつくりたい」という気持ちに繋がり、「好きなものを好きになってもらいたい」という気持ちと合わさって、エンタメをお届けする世界(とても広義ではあるけれど)に片足を突っ

「エコーロケーション」

*オンライン文芸サロン「青い傘」内で作成予定のペーパーマガジン『青い瓦版』掲載用作品(詩) *メインテーマ「一瞬に泳ぐクジラ」 *関連テーマ「一瞬、瞬間、時(間)、永遠、有限、無限、海、深海、などメインテーマから連想される物」 ------------------------------------------------- お揃いのスカートと肩揺らしてる18歳の花まっ盛り 私達だけの共通言語なのクジラ同士のエコーロケーション 家族より一緒に居たね授業でも放課後アイス買

「由布院で猫と蛍と」

小説家の一哉は年に数回、温泉街の宿に篭って作品を書き上げる。今冬の目的地は大分の由布院だ。3泊4日、猫を連れて。 3日目の夜、執筆は佳境を迎えていた。 「先生、」 「……未来、私のことばかり見ていないで、何かしていなさい」 「猫は、先生を静かに見つめているものなんですよ。さあ、そろそろご飯を食べましょう」 お宿の人が待ちくたびれて何度も私に配膳時間を聞くのです、と未来は首をすくめた。 鍋の蒸気で眼鏡が曇り、顔を顰める一哉に声を立てて笑う未来。 「……笑わなくても、」