イメージ・トレーニング

想像する力

中高生の頃に、NBAが好きで、寝ても覚めてもバスケットボールのことやスーパースターのマイケル・ジョーダンのことを考えていました。実際に、考えていたと言っても、理論的なことではなく、もっと感覚的であったり、視覚的なことを想像の世界で描いていたと思います。シュートを決める瞬間、試合で勝つイメージといったことです。当時、見ていたマイケル・ジョーダンのドキュメンタリー・ビデオでもイメージ・トレーニングのことを話していました。改めて、今、振り返ると、スポーツでもアートでもイメージトレーニングの重要性を実感します。

言語習得とイメージ

さて、アメリカ留学の目的の一つに言語を2つ以上学ぶという目的がありました。テキサス州を選んだのは、英語とスペイン語が日常で使われている地域でしたので、好都合の場所だというわけです。確かコミュニティー・カレッジで授業を取り始めて、2学期目くらいにようやくスペイン語初級の授業を学び始めることができました。アメリカのコミュニティー・カレッジですから、授業は英語で行われます。なので、私にとっては、スペイン語を英語で学ぶという状況です。母語の日本語、第二言語の英語、第三言語のスペイン語(実際には、日本の大学時代にドイツ語も学んでいたので、第四言語になりますかね。)と、その言語間を翻訳していては、即座な意見や返答はできなくなりますね。わからないなりにでも何らかの瞬発力でコミュニケーションを進めなければ。以前、語学留学した時に、ブラジルなどの南米の学生達が、文法や作文のテストでは点が良くないわりに、スピーキングではものすごく積極的に自分の意見を発言していたのが印象に残っています。もちろん母語が英語に似ているという有利な点はありますが。逆に、日本人の留学生達は、文法や作文、文章の読解力に関するテストは高得点でも、自分の意見を積極的に発言するというのが苦手だった印象を覚えています。ここで、何の違いが原因なのかなと考えると、もしかしたらコミュニケーションはロジックではなく、感覚やイメージが優位なのではないかということです。日本語で話していても、文法や単語が間違っていたり、曖昧だったりしても、比較的、内容が伝わることが多々あります。第二言語でもそれが言えるのではないかと思います。

Visual Thinking

ということで、コミュニケーションにもイメージ・トレーニングはとても有効な手段だと思います。「いつ、だれが、どこで、なにを、だれに、どのようにする?」みたいなものをイメージして、単語を選び、過去か現在か未来かに気を付けて話せば、ある程度は伝わるはずです。話して伝わらなくても、ジェスチャーや図を描いたり、実際にものを指し示したりすることで、相当の意思伝達ができます。実際に、授業中はイメージを図示して、ノートに書いていたことがあります。アートの授業を受けていた時、先生が想像力のことについて話された時に、国語などの言語の授業中にノートの端に落書きをすること、または英語ではドゥードゥリング(Doodling)とよばれるのですが、これが案外、言語を頭の中で無意識に整理したり、イメージ化していたりという作用があるのではと教えてくれたことがありました。これは、アート作品やアイデアなどを考えるときにもとても役に立つ手法の一つだと思います。実際に、アートのクラスでは、イメージやアイデアが浮かんだら、すぐに描き止められるように、いつもスケッチブックを持ち歩きなさいと教えられました。後に、この他にもアートの領域では、Visual Thinkingという視覚的思考という考え方があることを知り、かなり納得したことを覚えています。

もう一つイメージ・トレーニングに関するお話として、当時の私に衝撃を与えたのは、「思考は現実化する」というタイトルの本でした。当時、建築やアートの作品などを隈なく見たかったので、時より図書館や本屋に行って図録を見ていました。英単語が分からずとも、写真、絵、図などを見ていれば、いつの間にか関連する単語にも触れることができ、語学習得にもつながっていたと思います。ある時、確か、ヒューストンのライス・ビレッジというエリアにあった古本屋にたまたま行って、色々な本を見ていた時、日本語の本のセクションで、上述の「思考は現実化する」という自己啓発本のバイブルのような本に出会いました。当時は、英語で意思疎通をする毎日でしたので、日本語の本で、かつ、とても興味を引く内容だったので、しばらく立ち読みをしたのを思い出します。最終的には、購入しましたが、この本には偉業を成した人物達の成功哲学がまとめられていて、その共通点として、「思考できるものは現実にできる」という強いメッセージが、まさしく中高生の頃から憧れていたマイケル・ジョーダンが実践していた「イメージ・トレーニング」と合致する思考で、人類にもたらされたとても重要な能力の一つだと思いました。

スポーツ、アート、事業、実はどの分野でも「イメージ・トレーニング」、または「想像力」という人間が持っている能力の活用が大事なのが実感できると思います。その想像力を育てるのに、アートという分野に身をゆだね、制作したり、鑑賞したりすることは、とても有意義なことではないかと思います。最近では、「アート思考」とか「MFA(美術修士)」と言ったことが話題になっているように、人間の感性や想像力に関するアートの有用性が、さらに希求されているように思います。

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