四代目 三木表悦

京漆器 漆工芸表悦四代目  作家名としては啓樂としても活動 煎茶工芸や伝統工芸を中心に…

四代目 三木表悦

京漆器 漆工芸表悦四代目  作家名としては啓樂としても活動 煎茶工芸や伝統工芸を中心に展開 京都市「DO YOU KYOTO?」大使 2021年からは京都美術工芸大学特任准教授として後進の育成にも取り組む

マガジン

  • 表悦の事

    150年前、京都に漆の修行に出てきた少年 延 のちに表悦と呼ばれる塗師やさんのお話

最近の記事

11、手入れの気持ち

手入れは仕事終わりにしておきなさい。 延は時々、兄弟子たちがそういうのを聞き 改めて手入れをするようになった。 砥石を使えば減ることはよくわかったが、同時にヘラやハケも使えば減る。 刃物もへたるし全ての道具は使えば減る。 漆の下地を使ったヘラは必ず減るし、仕事上がりに、少し荒れてしまったヘラ先を塗師屋包丁で調整したら5厘ぐらいはどうしても減ってしまう。 もったいない気もするが、そうしておくと何かスッキリして気持ちがいい。 道具の手入れをすると、何か上手くなったよう

    • 工芸家を目指す若者が経験すること⑩使えば減る。

      砥石を使うとへる。 刃物も減るが砥石も減る。 減ったら面が変わる。 砥石の面が変わったら刃物の面も当然変わる。 なるほど。そういういうことか。 絶対というものがないんやな。 真っ直ぐっていうのはまっすぐでありたい。まっすぐであって欲しいという思い出あって、 ちょっとづつ揺れてるんやな。 そーかそーか。 だから、真っ直ぐにしたろうと思えば思うほど歪むんか。 でも真っ直ぐするには真っ直ぐ仕事しなあかんし。 この砥石は真っ直ぐなんやろうか? わしの目にはまっす

      • 工芸家を目指す若者が経験すること⑨ヘラ作り

        京都ではヘラは檜で作る。みかん割りだ。 みかん割りというのは木を割るときに上から見ると中心から放射状に割る方法。ちょうどみかんを横に真っ二つに切った時の断面のような見え方。 その割った木を塗師刀で削る。 この刃物もヌシヤと言ったりヌシヤホウチョウと言ったりヌシトウを読んだり色々するが多分、塗師屋包丁が短くなってヌシヤなのかな? ヘラダチと言ってた人もいたが、ようわからん。 なんとなくはわかるけど。 問題はヘラ作りが上手くいかんこと。 延にとってはそれこそが問題。 あれ

        • 工芸家を目指す若者が経験すること ⑧砥石の形

          漆の修行は研ぐことが多い。 漆は塗るのだが研ぐ 下地をつけるのだが研ぐ しっかり研ぐことが形に緊張感を持たせる。 ただ緊張感があるだけではダメで、そこに柔らかさも必要になる。 と、言われてもなかなか・・。 延の課題のヘラ作りはなかなかに難題。 師がヘラを置いて2階の仕事場から降りて行ったときに 片付けと称して何度か触ってみる。 自分の作ったヘラとは何かが違う。見た目は同じだが何かが違う。 それわわかるのだが、それがなぜかはわからない・・。 材料か?他に何かコツがある

        11、手入れの気持ち

        マガジン

        • 表悦の事
          8本

        記事

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑦刃物も研がんと仕事できるわけないやろ。一歩進んで・・。

          延はヘラを削ることに集中する。 全体に薄すぎるとヘラの腰がなくなって、綺麗に見えるだけでまともな下地なんぞつかないことは、よくわかる。 研いだら答えがすぐ変わる。 分厚くしたら、何にも指先に伝わってこない。 しっかり持てないと作業も疲れるし、使いにくい。 でも握り部分がしっかりすると、ヘラ先を薄くするのに長さが必要になる。 お椀の中をヘラつけするのにちょうどいい大きさを考えると大きすぎたらあかん。 小さすぎたらあかん。 ちょうどええにせんとあかん。 しっかり握れて、ヘラ腰

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑦刃物も研がんと仕事できるわけないやろ。一歩進んで・・。

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑥現代の表悦です。ちょっと閑話休題?

          ちょっと休憩 曽祖父の箆(ヘラ)は癖がある。今まで教わった多くの先生とは違う癖がある。祖父のヘラもその癖を受け継いで、父もその癖のあるヘラを使っている。 曽祖父の作った道具を見ているとなんかわかるかと思ったら、めちゃめちゃ使い込まれすぎて、大きいヘラなんて一つも残っていない。 みんな小さなヘラばかり。ただ、見た瞬間に思う。 表悦のヘラ 癖があるので、今まで習った先生には全員にこんなヘラはダメだ!とか、変なヘラ使ってるな。とか言われてきた。 ちなみに、僕の場合は、父とも違

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑥現代の表悦です。ちょっと閑話休題?

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑤手の延長になってこそ 手道具

          延はこのしばらく悩んでいた。 丸ベラがうまく作れない。 お椀の作業の中で身の内側に漆の錆(漆の下地)をつける作業があるのだが、その時の作業がどうにもうまくいかない。 手取り足取りで教えてくれることなどありえない。 出来ないのは努力が足りないという無言のプレッシャーが師の態度からありありとわかる。 そんな時は、作業を続けながら、師の手元を盗み見る。 ヘラを動かさずに椀を動かす。 肘の高さ、椀を持つ角度、そんなに変わらない。 だが、自分と師ではその出来上がりは明らか

          工芸家を目指す若者が経験すること ⑤手の延長になってこそ 手道具

          工芸家を目指す若者が経験すること ④気がつけば一年、一年ぐらいはあっという間。

          気がつけばあっという間の一年だった。 初めて会った時も思ったが、やはり師匠は厳しい人だった。 毎日、仕事場で黙々と仕事をされている。兄弟子たちはその周りで同じく黙々と研いでいる。 漆塗りは丸岡の時にも少しは見ていた覚えもあるが、 とにかく研ぐ時間が長い。 こんなに研ぐものか?と思うぐらい研ぐ。 漆のお椀に布を着せたら研ぐ 下地をつけたら研ぐ 漆を塗ったら研ぐ とにかく毎回研ぐのだ 延はまだ仕事らしい仕事はさせてもらえていない。 少し不満だ。 兄弟子たちが使ったセイ

          工芸家を目指す若者が経験すること ④気がつけば一年、一年ぐらいはあっという間。

          工芸家を目指す若者が経験すること ③帰れと言われても、帰りの汽車賃もない。

          師の木村表斎は厳しい人だった。 呆然とする延のそばで 丁寧に一緒になって弟子入りを願う兄 英吉。 お前もぼーっとしてんとちゃんと師匠にお願いしろ 言われて 延は気を取り直し木村に願った 兄頼って出てきましたが、 丸岡からここまできて、おめおめ帰れません。 兄に迷惑かけることもできません。 一生懸命努めますし、おいてください。 帰りの路銀はもともとない。 兄も修行の身、迷惑かけることもできない。 なんとか! しばらく黙していた木村は ゆっくりと、 明日、もう一回

          工芸家を目指す若者が経験すること ③帰れと言われても、帰りの汽車賃もない。

          工芸家を目指す若者が経験すること ②初めての、蒸気機関車、初めての京都。

          京都についた延は初めての汽車で興奮すると同時に、緊張と不安でいっぱいだった。 父が預けてくれたお金は、切符代を払ったらその大半がなくなっていた。 片道切符だ。 もちろん母が作ってくれたオニギリももうない。 京都駅についた延は、とにかく兄の元にとどりつかなければならない。 兄はその頃、師匠のところで仕事をさせてもらっている。 我が家はもともと丸岡でお抱えの塗師。兄は小さい頃からその仕事を見て育ち早くに京都の木村表斎家に師事する事ができた。 下京の師匠の住所は麸屋町通蛸薬師上が

          工芸家を目指す若者が経験すること ②初めての、蒸気機関車、初めての京都。

          工芸家を目指す若者が経験すること ①漆工芸家になるために京都に出てきた

          今から150年とちょっと前 丸岡という町に 延(のぶる) という少年が住んでいました。 丸岡は今の福井県福井市のチョット北にある町。 町の中心には町を見下ろすお城があって、ちょっと前まではお殿様が住んでいました。 お殿様は「ろうじゅう」されたえらいお殿様で、延が生まれるちょっと前は知事さまも務められたえらいお殿様でした。 延 はそんな丸岡のお城の近くで生まれそだちました。 負けず嫌いな性格で、何に対しても一生懸命。 遊んでも勉強でも負けることは大嫌い。 手先も器用で物を作るの

          工芸家を目指す若者が経験すること ①漆工芸家になるために京都に出てきた

          50歳が見えてきた工芸家のNOTE初投稿

          気がつけば50歳、少しずつ自分の生き方が定まってきた気がします。 京都で生まれ京都育ち。 勉強で少し京都を離れたりもありましたが 今はまた京都で工芸を通じて美しいものを作ることをしています。 そういう人の暮らしの中で美しいものや、共感するものを作ることが好きなのです。 またそういう想いを伝えることも大切にしています。 人によっては50歳はまだまだ若造、 でも人によってはおじいちゃんと呼ばれる年齢。 半世紀ともいえる年齢が近づいたのですが わからないということが「わかり

          50歳が見えてきた工芸家のNOTE初投稿