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銀行業務における行動経済学について

経済学という学問は、多くの大学で教えられていますが、その理論が現実の経済活動と合致しているかについては、常に議論の余地があります。

銀行員の皆さんにとって、経済学の理論が現実の顧客行動と乖離していることは、日々の業務で感じることかと思います。

そこで注目されているのが、「行動経済学」という分野です。

この記事では、行動経済学が銀行業務にどのように応用され、顧客サービスの向上に貢献できるのかを解説します。


経済学と行動経済学の違い

従来の経済学では、「合理的経済人(ホモ・エコノミクス)」という概念が中心となっています。

「合理的経済人(ホモ・エコノミクス)」とは、人は常に合理的に行動し、自己の利益を最大化するように行動するという考え方です。

しかし、実際の人間行動を見ると、常に合理的であるとは限りません。人は感情に流されたり、短期的な利益を重視したりすることがあります。

このような現実の行動パターンを取り入れたのが「行動経済学」です。

現在バイアスとナッジ

行動経済学で注目される概念の一つが「現在バイアス」です。

「現在バイアス」とは、将来の利益よりも現在の利益を重視する傾向を指します。

例えば、長期的な貯蓄よりも今すぐの消費を優先する行動などがこれに該当します。

この現在バイアスに対処する方法が「ナッジ」です。

ナッジとは、人々がより良い選択をするように微妙に促すことで、強制や直接的な命令ではなく、人々の行動をソフトに誘導する手法です。

日本政府も厚生労働省や環境省の施策にナッジを活用しています。

銀行業務への応用

銀行業務において、ナッジは非常に有効な手段となり得ます。

例えば、不要なATM手数料支払いを避けるためにナッジを活用し、顧客満足度を向上させる例を考えてみます。

ユーザーの現在地を元に、手数料が発生しないか、または最も安いATMをリアルタイムで表示するアプリを開発したとしましょう。加えて、アプリはユーザーが特定の銀行の顧客である場合、その銀行のATMを優先的に案内してくれる機能を持っています。

ユーザーが外出先で現金が必要になった際、「近くの手数料無料ATMはこちらです」というプッシュ通知を送り、手数料のかかるATMの使用を避けるよう促します。

また、「今月はすでにXXX円の手数料を節約しました」といったフィードバックを通じて、ユーザーの行動変化を促進します。

アプリを無料で提供し、利用者から直接収益を得ません。銀行は自行の商品をアプリ上でプロモーションし、新規顧客を獲得するチャンスを得ることで将来的な収益を見込みます。

また、アプリによるデータ分析を通じて、顧客行動の洞察を得られます。

ユーザーは不要な手数料を支払わずに済むだけでなく、自身の金融に対する意識が高まります。

銀行は顧客満足度の向上とブランドイメージの強化を図ることができるため、このアプローチは両者にとって有益だと思います。

このようなサービスを展開すれば、不要なATM手数料の支払いを避けることを促し、顧客に価値を提供するビジネスが構築できます。

同時に、顧客エンゲージメントを高め、長期的な顧客関係を築けます。

ナッジの活用について別記事を用意しました。
よろしければ、ご一読ください。

まとめ

行動経済学は、銀行業務において非常に有効なツールとなり得ます。

従来の経済学の枠組みを超え、現実の人間行動に基づいたアプローチを取り入れれば、顧客サービスの質の向上が可能です。

現役銀行員には、この新しい視点を業務に取り入れ、より良い銀行サービスの提供を目指して欲しいと思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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