第30話:プリッツにチョコレートをまぶしたお菓子が「ポッキー」になったお話

前回のおさらい

前回はマーケティングのブランド戦略の歴史や、学問的にブランドというのはどういう立ち位置であるのかということをご説明しました。その上で、実務としてのマーケティングのブランディングという言葉は、ロゴのデザインなどデザインの話になりがちであるけれどもそうではないというお話をしました。
今日は、単なるロゴではなく、ブランドが生き物であるということをポッキーの例を元にお話できればと思います。

ブランド論の基礎

ポッキーの話の前に、ブランド論の基礎をおさらいしましょう。

ブランドの定義はこのようなものを学問的には指します。

「自社商品を他のメーカーから区別するためのシンボル、マーク、ロゴ、デザイン、色彩、名前などの識別記号(アイデンティティファイア)」

この定義を、拡大解釈するとブランド自体はデザインの話になり勝ちになってしまいます。ただ、ブランディングという言葉を見ていくとそういうことではないことがわかります。

「ブランディング」とは、その名の通りブランド化するということです。価値ある新しいブランドを創造する経営プロセスの事を指します。自社商品にたいして競合ブランドが持っていない優れた特徴を作り出すための長期的なイメージ創造活動を指します。

太字で書いたように、経営プロセスの話を指すわけです。また、競合ブランドが持っていない優れた特徴、すなわちUPSが必要で、そのイメージ作りをするための活動をブランディングというわけです。

私は、ブランディングはデザインしたときに終わるのではなく、だいぶ時間がたった後にあとから評価されてから初めてブランディングが終わるんだと思っています。
どんだけこだわって作ったロゴを作ったりメッセージを作ったとしても、イメージ作りの活動をしないとブランディングではないのです。大げさな話、適当に作ったロゴやブランド名でもこのイメージ作りが成功すればOKなわけなのです。
もちろん、ロゴやネーミングに意味をもたせることや、人に受け入れられやすいデザインの法則はあるのでもちろんこだわって悪いことはないのですが、その後の活動をサボっては意味がないということです。

ブランド戦略と経営の関係

ブランド戦略と経営の関係について考えていきたいと思います。ブランドは単純な名前にとどまらずそれ自体が価値となりえます。90年台半ばからブランドは経営資源(ヒト・モノ・カネ)に続く第4の経営資源であると言われるようになりました。
ブランドは今現在となっては非常に大切な経営資源であることは自明ですが、ちなみに、会計上のブランドの価値はどのように表すことが出来るのかご存知ですか?「のれん代」として計上されるようです。ブランドの価値は大切な資産なのです。

その考え方を使ったのがブランド・エクイティ論です。
ブランド・エクイティと言う考え方はブランドが無形の資産価値を持っているということです。それは5つの構成要素で成り立っています。

①知名度
②知覚品質
③ブランド連想
④ブランド・ロイヤリティ
⑤その他(特許など法律的な制度)

こうして、ブランドは現在は、ただの他社製品の差異を表すためのマークではなく重要資産になったのです。

ブランドの活用〜ポッキーの例〜

江崎グリコが新しい商品開発をして「プリッツ」にチョコレートをふりかけたお菓子というのが原点です。
プリッツチョコと名付ければよいものを「ポッキー」と名付けたのがポイントです。

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ポッキーは、1966年に発売されて2020年現在で54年の歴史を持つ大ベストセラー商品です。ポッキーはずーっとあのイメージだったと思いますか?
答えは違います。


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年表を見てもらえれば分かる通り全然違いますよね。50年間見た目も味も一緒にも関わらず毎年テーマが異なっています。まずは導入期はポッキーの知名度を広げるための時期として「ポッキーチョコ」と謳って宣伝しています。育成Ⅰ期は味の幅を広げ、育成Ⅱ期はシーンの提案をしていました。その後多様化Ⅰ期は消費場面を多様化を図っています。単純に味のバリエーションを変えているのではなく、ポッキーが単なる3時のおやつで食べるモノとして販売されているのではなく、ビターとして夜食べるものとして売ってみたり、夏食べるポッキーとして売ってみたりしています。最後に多様化Ⅱ期は高付加価値化を狙っています。この50年間でいろんなポッキーの顔を見せたわけです。

なぜポッキーが成功した?

ポッキーの成功要因として考えられるのは以下の4点です。

1.製品アイデアの独自性の高さ
2.生産上のノウハウの豊富さ
3.多様なニーズを取りいれた。
4.ポッキーという商品に対して次々にマーケティングを行ってきた。

売れるために製品アイデアの独自性の高さとして、プリッツにチョコをまぶして手を汚さずに食べられるお菓子を開発し、生産上のノウハウの豊富さは、折れずにポッキーを消費者に届けることや、いろんな味の展開ができるノウハウの豊富さをグリコは誇っています。

1と2も大切なのですが、実は、この後の、3と4が重要なのです。
多様なニーズを取り入れるということは大切です。大切とわかっていても多様なニーズを取り入れるのは失敗する可能性があるリスクが存在しています。また、同じくポッキーという商品に対して次々にマーケティングを行うことも大切なのですが、失敗するリスクも存在していたのですが、それのリスクを承知の上でチャレンジできるのはとても勇気がいるのです。

ポッキーはプリッツにチョコレートをまぶしたお菓子なのですが、リッツチョコと名付ければよいものを「ポッキー」と名付けたのがポイントです。仮に、プリッツチョコと名付けた場合、プリッツチョコの売れ行きが悪くなったらすぐに打ち切られてしまう可能性があったのですが、ポッキーとしたことで、打ち切られることもなく次々と挑戦し続けることができました。
つまり、最大の成功要因は「ポッキー」と名付けたことによるものだということなのです。

まとめ

ポッキーの成功要因は以下の4つです。

1.製品アイデアの独自性の高さ
2.生産上のノウハウの豊富さ
3.多様なニーズを取りいれた。
4.ポッキーという商品に対して次々にマーケティングを行ってきた。

ですが、この4つの中で3番目と4番目をすることができたのは、プリッツチョコと名付けずにポッキーという独立した名前をつけたこと、また、ブランディングの活動として、ずっとポッキーの人気に甘んじず挑戦的なマーケティングを行っていったことが成功の秘密なのです。

次回は、ブランドがなぜ価値があるのかということを、なぜお金(貨幣)が価値があるのかという理論を援用しながら説明します。


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