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家族の精神疾患を受け入れるためのステップ

― 恥ずかしいと思う理由とその克服方法―

「家族の精神疾患が恥ずかしい、受け入れられない」と思ってしまう。
恥ずかしい、ではなくても、他の人には言えない、と思ったことがある方は多いと思います。
何故でしょうか。それは病気に対する誤解が大きく関与しています。
精神疾患への正しい知識を得て、目の前の家族としっかりコミュニケーションをとることで、恥ずかしさを乗り越えて受容することが出来るようになります。


1.精神疾患は恥ずかしくない

①誰でもなる可能性がある病気である

精神疾患には色んな病気があります。うつ病、双極性障害、適応障害、統合失調症、強迫性障害など。
種類が多いだけでなく、今や心臓疾患やがん等と並んで「五大疾病」の一つに「精神疾患」が含まれるほど、国も重視している問題です。
何故なら患者数が年々増え続けているからです。
令和4年のデータでは、入院・通院患者数は419.3万人で、30人に1人は精神疾患にかかっている計算になります。

★精神疾患を有する総患者数の推移 (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000940708.pdf

病院にかかっていない未治療の人も含めればもっといるはずです。
「恥ずかしい」と感じる気持ちのどこかに「他にはこんな人いない」「自分たちだけだ」という認識があるのではないでしょうか。
しかし精神疾患は珍しいことではないのです。

②他の病気に無くて精神疾患にある「恥ずかしい」の正体

例えば心臓病やがん、高血圧、腰痛、骨折など、体のどこかに支障をきたす病気やケガを負ったときに、その人のことを「恥ずかしい」と思うでしょうか。
思わないですよね。心配なだけです。
なのに精神疾患だと、心配なだけでなく恥ずかしさや「他の人に知られたくない」という気持ちが沸いてきます。

何故精神疾患については恥ずかしさを伴うのでしょうか。
それは精神疾患に対する間違った認識のせいではないでしょうか。
耳目を集めるような事件の関係者に精神疾患の既往歴があるとなぜかそれが報道されます。
病気と事件の関連が明確ではなくても、です。
それにより生まれるのが「スティグマ」です。

スティグマとは、
『ある特定の属性や状態に対する否定的な態度や差別的な行動が、社会全体で広がっている状態を指します。これは一般的に、特定のグループや個人が、社会的にマイノリティであるか、異なる属性を持つことに対して受ける否定的な評価や差別です。以下は、社会的スティグマの特徴的な側面』
のことです。

悪意はなくても多くの情報に接して生活する中で出来た精神疾患に対する偏見が、自分の家族へ向けられてしまった状態といえます。

2.なぜ「恥ずかしい」と思ってしまうのか

①周囲にいない

家族に対して「恥ずかしい」と思ってしまう理由の一つに「周囲に精神疾患の人がいない」事が挙げられます。
精神疾患になる人が増えていることは「知識」として知っている。
だけどごく身近にそうした人はおらず、家族が精神疾患になった、という人もいなければ、自分たちは周囲と違う要素、しかも偏見を持たれかねない要素を抱え込むことになります。
多数派ではないこと、少数派であることへのネガティブな感情「恥ずかしさ」として感じられてしまいます。

②誰かから「精神疾患は恥ずかしい」と言われた経験がある

スティグマ、偏見は思い込みに過ぎない場合がほとんどです。
ですが実際に「精神疾患になるなんて恥ずかしい、みっともない」という言葉を身近な人から聞いたことがある、という方もいるのではないでしょうか。
発言者がどういう意図をもってそれを言ったのかは分かりませんが、まるで自分たち家族へ向けられたもののように聞こえて、その見方を取り入れて「恥ずかしい」と思ってしまうこともあるでしょう。

③病気について誤解している

病気についての正しい知識がないせい、ということも考えられます。
例えばうつ病は、心的・身体的・環境的なストレスによってメンタルバランスが崩れ、脳内神経伝達物質の分泌が乱れ、意欲や活動量が大きく減退し、抑うつ状態が一定期間以上続いてしまっているものです。
ほとんどは十分な休養と医師の指導による服薬、生活リズムの改善によって回復します。

ですが
「うつ病は一度なったら治らない」
「うつ病の人は何をするか分からない」
「うつ病は伝染する」
のような根拠のない噂によって、「家族がうつ病になって恥ずかしい」という認識が生まれてしまうことがあるでしょう。

3.障害受容:家族の精神疾患を正しく受け入れるために出来ること

様々な理由はあれど、病気になった家族に対して「恥ずかしい」と思ってしまうことは、患者本人だけでなく家族にとっても辛い問題です。
病気や障害を負ったことを受け入れることを「障害受容」といいます。
通常はなった本人が乗り越える壁ですが、同じことは家族にも当てはまります。
家族も「自分の家族が精神疾患になった」ということを正面から受け入れる必要があるのです。
そのために出来ることは、以下の4つです。

①病気についての正しい知識を得る

偏見や間違った認識は、正しい知識が無いからこそ生まれます。
ですので、何はともあれ病気についての正しい知識を手に入れましょう。
この場合の知識をどこで手に入れるか、も重要です。
発信元の怪しい情報はあてにしないほうがいいでしょう。
まずは

  • 本人の主治医

  • 厚生労働省や病院、専門家のホームページ

  • 専門書籍

から得ていくことをお勧めします。

②患者本人とのオープンなコミュニケーション

病気についての知識は、患者理解の基礎部分です。
あくまで一般論なので、隅から隅まで自分の家族に当てはまるとは限りません。特に精神疾患は個人差が大きいです。
ベースの知識を得られたら、患者本人とオープンなコミュニケーションをとって、本人が今どんな状態か、を知りましょう。
オープンなコミュニケーションとは、隠し事をせず、相手を批判せず、嘘をつかないコミュニケーションです。
嘘や批判があるとコミュニケーションは成立しません。相手が精神疾患なら尚更です。
目的は「知る」ことです。
そして自分の気持ちを「知ってもらう」事です。

★「夫婦の情緒交流」
https://keizenan.net/2023/06/16/emotional-exchange/

③噂や印象ではなく「目の前の家族」を見る

<②>と通じますが、コミュニケーションの場以外での観察を指します。

例えばうつ病について「何もやる気が起こらない」という特徴を知ったとします。
本人と話をして、その通りで仕事も趣味も家事も、やらなきゃいけないと分かっているけどどうしても出来ない、と言われた、とします。
その後生活状況を見ていたら、とあるテレビ番組だけは欠かさず見ていることに気づきました。
一般的な「やる気」や「活力」はないままでも、興味がまるでないわけではない、ということに気づけます。

それは患者への理解であり、病気への偏見を減らす手がかりにもなります。

④家族会などへの参加

自分の家族が精神疾患になった、という経験は、他の家族の人生や価値観にも大きな影響を与えます。
影響のほとんどは、残念ながらネガティブな影響です。
誰に相談すればいいのか、解決策はあるのか、この先どうなるのか。
<①>の正しい知識を得ることで解決できる疑問もありますが、リアルな経験談から得られるものは大きいです。
他の家族の事例を参考に出来ますし、安心も出来ます。
更に「自分たちだけが特別なわけではない」と思えます。
「恥ずかしい」と感じる理由の一つが「自分たちだけだ」という認識なら、「自分たちだけじゃない」と思えることは恥ずかしさを覆すための強力な要素となるでしょう。

4.今すぐ出来ることは?

①入門書を1冊熟読する

いきなり専門用語バリバリの専門書を読むのはハードルが高いですよね。
最近はイラストやマンガを使って説明してくれる入門書がたくさん出版されていますので、まずは1冊手に取ってしっかり読み込むことをお勧めします。
たくさんあって選べない、という場合は、著者は誰か、を確認しましょう。
医師、カウンセラー、研究者、支援機関の運営者などの書いた書籍は安心できると思います。

②専門家の支援・指導を受ける

自分の家族の病気を受け入れられない、病気になったなんて恥ずかしい、という悩みを相談する、という方法もあります。
またはどういうやり方で家族の障害を受容すればいいか、という点について、指導を受けるのもいいでしょう。
専門家はたくさんのケースに出会ってきた経験を持っていますから、「家族のことを恥ずかしいと思っているなんて言ったら変な目で見られるのでは…」のような不安は感じる必要はありません。

③受容するために、自分自身をケアする

家族が精神疾患になった、という事実は、これまでの人生や予定した未来にとっては「異物」です。想定外の要素ですよね。
それを受け入れるためには、自分の中に余裕を作る必要があります。
余裕がないのに無理やり受け入れれば、自分自身が壊れてしまいます。

そのためにはまずは家族自身が健康で安定している必要があります。
安定のために、自分自身をケアしましょう。
疲れていれば休む、辛い時は誰かを頼る、趣味を楽しむ、必要ないことまで頑張らない、規則正しい生活リズムを守る。
自分自身をケアするために専門家を頼る、という方法もアリでしょう。

★「ケアラーのセルフケアを考える」https://keizenan.net/2023/08/26/carers-self-care/

5.まとめ:家族の精神疾患は恥ずかしいことではない、と受容しよう

家族が精神疾患になったことは恥ずかしいことではありません。
予定外だっただけです。
だから恥ずかしいと感じる自分を責める必要もありません。
恥ずかしい、受け入れられないと思うとき、そこには誤解があるだけです。
誤解を解くためには正しい知識理解者と、そして受け入れるための自分側の余裕が必要です。

こうした準備を整えることで、恥ずかしいと感じる気持ちは消え、家族を受け入れて、一緒に療養に取り組むことが出来るようになるでしょう。

<こちらも読まれています>
普通と偏見(惠然庵HP)
https://keizenan.net/2023/07/30/normality-and-prejudice/


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