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「復活する円安傾向」に関する月末グダグダ雑談

「日銀がマイナス金利解除したら円高になるんじゃなかったの?」って話ですが、むしろ円安方向にかなり振れはじめています。

この記事のトップ画像にしているチャートのように、年始の142円台から今や”150円の壁”を超えて151円台にまでなっています。

そら見ろ!”アベの亡国の行い”のツケによって今に日本円は紙クズになっていくのだウワハハハハ!!

…って感じになってる人もいますが、まあそういう感じでなくても多少は心配になっている人も多いと思います。

ちょっと今回はこの問題について考えてみたいなと。

この現象に関する単純によくある説明は…

・「マイナス金利は解除」したがいまだにゼロに近い日本に比べ、ガンガン利上げしてきた欧も米も5%前後も金利がある。しかもインフレ再燃??みたいな話がちらほらあって欧米の利下げ期待が遠ざかりつつある。

…というのが最大のものとしてありますね。以下の政策金利リストを見ると…

SBI証券のサイトより

世界全体で5%前後まで上げてっているのに日本はこんなん↑なので…(っていうかトルコの数字すごいですね。”日本のトルコ化”とかいう人たまにいますがちょっとさすがに生きてる世界がまだ違いすぎる感じはします)

「金利と通貨」についての基礎的な解説は過去に書いたので以下記事なんかをお読みいただければと思います。簡単に言えば金利が高い通貨と金利が低い通貨を比べると低い通貨はどんどん安くなる影響があって、過去2年のドル円相場を見ているとソレの影響が一番大きいということですね。(さらに言えば、ざっくり言えば”低金利”は”みんないっしょ的弱者救済”路線だとも言えるので、日本だけ誰も置いていかないために”必死にかばいあって”いる状態を続けているとも言える)

そういう「金利差」の話とは別問題として、いわゆる”実需”的な為替変動要因としては、最近になって見えてきた色々な事情として、

・確かに日本は経常収支黒字だが、企業が海外で稼いだ資金を円に転換せずにそのまま放置されている黒字分が多く為替には反映されていない
・逆に貿易・サービス収支はそこそこ赤字のままだし、特にいわゆるデジタルタックスと言われるアメリカのIT企業への支払い分などはガチのドル買いの実需になっている
・新NISAで日本人が外国株を買いまくっている事もかなりの円安要因に

…みたいな事が言われているようですね。

で!これから先の見通しとしては…

・一応アメリカが今後利下げに動くという観測自体はある(今年中に三回はやるという話も)し、日銀ももうちょい利上げしてみせるぐらいはするかも?という予測をする人はいる

…という形で最大の円安要因である日米金利差は今後さすがに狭まっていくので、「天井知らずの円安」にはならずに済みそうではあります。

一方で、さっき書いた

・経常黒字分が円に両替されずに海外に残ったままな一方、デジタルタックスやNISAの株買いなどでドルを必要とする動きは月に兆円単位で残り続ける

…みたいな話は今後も残念ながら長期化しそうなトレンドなので、金利差が縮まったからといってまたドル=100円の世界に戻ったりはしなさそうな感じですね。

自分はこういう為替チャートを毎日分析するようなタイプの専門家じゃないのでざっくりした事しか言えませんが、「際限なく円安」にはならず、かといって「めっちゃ円高に戻った!」って感じにもならないあたりの、140円台とか、行けて130円台とかになるのかなあ、という気持ちになっています。

さて、ここまでは「よくある話」というか「金融のプロの人がよく言ってる事」をまとめただけですが、ここからもう少し踏み込んで、「円は紙くずになるのだ!」っていう説についても真面目に考えてみたいんですね。

たまに元債権トレーダーとかで言ってる人がいる、『金利が上がると日銀が買い入れている日本国債が帳簿上逆ザヤになるから円が一気に紙クズになる』…っていう話は、個人的には全然信じてないんですよね。そこはもう死蔵しちゃえばいいというか。

ただ、こういうのは「誰もわからない」話ではあって、昨日たまたま検索してたら2006年の独立行政法人経済産業研究所の経済評論が出てきて「米国の経常赤字がこれだけひどいのに米ドルが上がるなんてどうなってるんだ」みたいな「そもそも論」を真面目に論じていてすごい時代を感じたんですよね。

米国の経常収支のGDP比は歴史的に以下のようになっていて…

世界銀行のサイトより(70年代後半以後常に0以下=常に赤字状態)

70年代以後「双子の赤字」とか言って大騒ぎしまくってバブル時代の日本叩きとかをしまくったりしたのにさらにどんどん大きくなって(最近は石油輸出をするようになって多少改善しましたが)、それで「ドルなんて紙くずになる」って言われてたけどならなかったですよね。むしろ今は誰も気にしてない。

「経常収支」みたいなのは非常に「概念的」な指標であって、実需ベースで「一個一個の取引」が破綻しない限りは別に総額でどうなっていようととりあえずはOKなんだ、ってことなのかなと思うんですね。

日銀のバランスシートを時価評価する…とかも非常にテクニカルな世界の話で、でも「実際の取引」としてそれが直接問題になる事はほぼないはずなので、「なんかそうなっちゃってるね」という形のまま、”日本経済全体がちゃんと回復していけるなら”という条件つきですがなんとかなるんじゃないかなと。(さっき書いた実需ベースの円安要因でズルズルと円安になっていく話自体はむしろ結構な確率でありえて、その先で日本人が円をさらに見限ったりすると一気にやばくなるので全く無問題というわけではないんですが)

アメリカが堂々と経常赤字を30年とか40年続けて結局平気だったよねとなる前は、「経常赤字が積み上がってしまってその国の通貨が健全でいられるはずはない」って昔はみんな思ってたはずなので、「実態」が積み上がってから「理論」の方が修正されてきたところがあるわけですよね。

日本のアベノミクス的な政策運営も、あれだけあらゆる手段を総動員して金融緩和したのにインフレにならないってどういうこと?みたいなのを結局誰もわからないまま10年たって、やっと今突然のようにインフレになっているこの現象がどういうことなのか?については、これから”あとづけで”「理論」の方をガチなアカデミアの賢い人が色々と理解していく事になるのだと思います。

ただ在野のテキトーな知識人wなりに、この問題をより本質的に考えると、以前MMT(≒日本国債は無限に発行できるのだ説)についてのこの記事↓で書いたように、結局「日本国」が「日本国民」の財産をある程度実質的に”私物化”して流用している状態になっても”一蓮托生”の信頼感が消えない限りにおいては、日銀は破綻しないという事なのだろうと思います。

結局MMTが言っていることの本質は、国がある程度ザツな通貨発行をして自国通貨の価値をちょっとずつ下げることで、その自国通貨を持っている人たちから薄く広く”徴税”し、それを原資に国のお金にしていろんなものを買うということなのだ

(上記記事から引用)

でもこれ、最近NISAで日本人が外国株を買いまくって円安要因になってるみたいな話もそうですし、「いつまでも日本人が日本国を見限らずにいられるか」もちょっとずつ怪しくなってきているので、「永久に無限に」ではなくなりつつあるんですよね。

また、今は一応経常収支は黒字だけどこないだ一瞬だけ赤字になったし、貿易収支は徐々に赤字が定着してきてるので、「円経済圏」の内側で何やってても外国人には関係ない…というバリアも徐々に消えてきてしまっている。

その流れで「日本国民が円を見限る」みたいな状況がもっと明らかになったら、その時はすべてが急激に悪化してしまう危機感は確かにあります。

その入口の入口の手前の手前ぐらいまで、ここ数年の日本は踏み込んでる気がするので、そこは要注意ですよね。

とここまでは「直近の円安」について考えてみて、

・年内にある(はず)のアメリカの利下げがあったら多少はさすがに円高になるはず
・ただ今は実需ベースの話がかなり円安要因に振れているので、ドル=100円時代みたいなのに戻ることは、「日本経済大復活」的な奇跡的転換がない限りは当分なさそう
・アベノミクスの積み重なった副作用で一気に円が紙くずになる!みたいな話はこれもなさそう

…という話でした。

で!

ここからはもうちょっとさらに深堀りして、その先のそもそも論としての「なんで金利が世界的にこんなに上がっても経済がこれほど強いのか」について、一体この現象は何なんだろうね?っていうことを考えてみたいんですよね。

さっきも貼ったこの記事↑(からリンクしているさらに過去の記事)も漁ってもらったらわかるけど、2022年に金利が世界中で上がり始めてから、「こんな上げたら当然不況来るよね」って”ほとんど世界中の”経済ウォッチャーが言ってたんですよね。

Federal funds effective rate(2021年からのチャート)

で、日本はすぐに金利上げられないとしても、世界中がどうせ不況になってくれるだろうからなんとかなるだろう…って僕は以下の2022年9月の記事とかで書いていたんですが…

それが、これは予想はずれたのは僕だけじゃなくて世界中の経済ウォッチャーの大半なんですが、世界中でこれだけ金利を上げまくったのにインフレはなかなか沈静化しないし、不況にもあまりなっていない(ように見える)。

結果として、日本以外の世界中で追従して金利を上げまくっている中で、日本だけマイナス金利維持してたのをやっとやめました…っていう感じなので、果てしなく円だけ独歩安になっていってしまっていたんですが。

何なんでしょうねこの謎の世界経済の強さは。

それについて、ちょっと「なるほどこういうことかも」って思ったことがあって、今月アメリカのバイデン大統領の年頭教書演説があってそれを聞いていたんですが…

「感想」とか「ミルクボーイ風関西弁抄訳」とかは以下のxポストをクリックして読んでいただければと思います。「面白い!」っていろんな人に言われてかなり読まれました。

アメリカ経済はマジで謎に今すごい強いんですよね。マクロ指標としては。

「局所的な崩壊現象」みたいな、たとえば

「金利5%にまでなって、●●市場(例えば商業用不動産)なんかはマジで崩壊してる、やばいぜ」

…みたい事を言ってる訳知りそうなコメントはSNSで結構見るんだけど、マクロ指標としてはマジで強い。失業率も低いまま。経済全体としても成長してる。世界中の経済ウォッチャーが不思議に思ってる状況のままが続いている。

バイデンの演説では、いかにバイデン政権の政策でこの「経済の好調」が実現しているか、みたいな話を延々としているんですが、ただ在米日本人の左翼っぽい人とこないだSNSで話したところでは、みんなインフレでいっぱいいっぱいになってるのにあんな「自分たちの政策の成功」を歌い上げられても全然ピンと来ないしむしろ反感感じちゃう…みたいな話があるみたいです。

こないだ(なぜかオススメされてw)ニューヨークで副業のウーバーイーツの配達やってる日本人のYouTube動画とか見たんですが、めっちゃ頑張って働いてるのに「え?収入そんだけ?」って感じで(コメント欄によると日本でウーバーイーツやるのと変わらんぐらいの額だった)…それであの物価だったらマジで暮らしていけないと思いました。

「マクロ指標としての好調」の裏で、かなり「実態的にはすごいダメージを受けている人々」がいたりするんだろうなと感じるには十分でしたね。

実際バイデンの経済政策はめちゃくちゃ強引で、ある意味でトランプ以上にゴリ押し自国優遇策みたいな感じなんですよね。

「CHIPS法」とか「インフレ抑制法」で、「アメリカでモノ売りたきゃアメリカで投資しろ」と世界中に企業に強要するだけでなくすごい額の公的支出も出している。

それで「経済全体としては好調」なんだけど、ある意味で「市場原理」をかなり歪めてる感はすごいあるんですね。

バイデンの演説、「トランプに対するファイティングポーズを見せてる」という意味では良かったんですが、保守派のコメンテーターが「間違った”大きな政府”政策の詰まったカタログ」みたいな批判してたけど、ちょっとそれは言いえてる部分もあるのではないかという感じがする点はどうしてもある。

最近、IMFが、そうやって「産業政策」やりまくると市場機能がおかしくなって良いことないぜ・・・っていう記事を出してるのをたまたま見つけたんですが↓

まあIMFのポジショントークという面もあるだろうし鵜呑みにするべきではないかもしれず、日本も半導体関連とかの政府の後押しは絶対やるべきことだとは思ってるんですけど・・・

でも「日本政府ができること」ってそんな大きくないからまだいいけど、バイデン政権は「世界最強政府のパワー」を遠慮なく使いまくっていて、マジでコレでいいのかな?っていう感じがするんですよね。

トランプが何でもかんでも関税かけろ!とか言い出してた時は「何言ってやがるこのオッサン」と思ったし、安倍政権時代の経済再生担当大臣の茂木さん(マッキンゼー出身らしくて”同窓会”みたいなので見かけたことあります)とライトハイザー通商代表の交渉をかなりハラハラして見てたんですけど。

トランプ時代の日米通商交渉は、まあ結果としてかなり頑張って日本側の意見を飲ませることができた感じがしたんですが、一方でバイデンの経済政策って、日本側の交渉余地など全然ない感じで問答無用すぎるな、という感じがして、そこはなんだかすごい冷めた気分になってるところは個人的にあるんですよね。

そりゃ対中国の覇権競争という意味もあるっちゃあるだろうけど、それにしてもちょっとやり過ぎ感がすごいあるんですよね。トランプのやってたことの方がまだ経済人的納得感があったような?(それも大概だと当時は思ったんだけどw)

じゃあトランプ2024がいいのか?って言われるとよくわかりませんが(前回のトランプ政権が今のバイデンより紳士的に見えたのはただ時代が牧歌的だったからで、バイデンがそこまでやるなれ俺はもっとやってやる!ってなる可能性もあるので)、ただバイデンの経済政策は物凄い「過去20年とかの間見たこと無いほど大きな政府」感があるんだ、っていう話は紛れもない事実だと思うんですね。

…とこんな感じで、「これだけ金利を上げてもなぜ世界不況がこないのか」=「米中ともに”国家のパワー”を使いまくってるからでは?」だという仮説を持った上で、じゃあそんな事はいつまで続けられるのか?今後の世界経済はどうなっていくのか?そこで日本円と日本が取るべき運命の道はどういうものなのか?について考察する記事を、ちょっとした最近の個人的近況報告なども含めて以下では書きます。

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