サブカルで学ぶ社会学⑥ 『官僚制の逆機能』 ~『シン・ゴジラ』より、官僚組織の繁文縟礼~


はじめに(注意書き)

はじめましての方ははじめまして。そうではない方はいつもお世話になっております、吹井賢です。

さて、『サブカルで学ぶ社会学』第六回です。
今でも哲学や経済学に関する解説本を読んでる類の人間(なんとマジ)であり、そもそもアニメに影響を受けて社会学を勉強しようと決意した吹井賢(なんとこれもマジ)が、社会学やその周辺科学、つまり、政治学・哲学・精神医学・文化人類学・生理学・組織科学・等々に出てくる概念を、サブカルチャーを絡めつつ、分かりやすいが論文で引用すると怒られる程度にはふわっとした感じに、解説していこう、という記事です。

最初にお断りをば。

※あくまでも娯楽として楽しんでください。
※興味を持った概念については、この記事を読むだけではなく、信用に足る文献を読み、講義を受けることをお勧めします。
※そして僕に分かりやすく教えてください。

それでは始めます。


『シン・ゴジラ』で印象に残った緊急事態対処の煩雑さ

皆さん!!
『シン・仮面ライダー』見ました!?

今はもう、アマプラで見れますよ!!

次回は何を作られるんでしょう?
今後の庵野秀明監督の活躍に期待ですね!


では、『シン・シリーズ』で、一番面白い作品と言えば、どれでしょうか?

そうですね!(これに関してはちょっと自信ある)
庵野総監督×樋口特技監督のタッグで製作された、『シン・ゴジラ』ですよね!!

幼い時分、父親が借りてきたウルトラマン(初代)ウルトラセブン、ガメラ平成三部作、ゴジラVSシリーズのビデオで育った吹井賢も、大満足の内容でした。
時代を平成と考えてもチョイスがちょっと古いんだよな……。親父殿、好みで借りてない?

真面目な話、『ゴジラ』って色々なシリーズがありますけど、入り口として滅茶苦茶良い作品だと思います。
「怪獣映画か、見たことないな~」という皆様は、『シン・ゴジラ』から入ってみては如何でしょう?


『シン・ゴジラ』は、ゴジラの話なので、基本的には怪獣映画・パニックモノなんですけど、政治や現場の動きがちゃんと描かれ過ぎてて、なんと言うか、「閣僚や自衛隊のお仕事モノ(※緊急時)」みたいな風でさえありました。

映画を見た全員が「会議シーン多過ぎだろっ!!」とツッコんだと思います。


『シン・ゴジラ』の会議シーンから連想される、ヴェーバーの官僚制とマートンの逆機能

視聴者的には、「法的解釈とかどうでもいいから、この謎の生物(≒ゴジラ)をなんとかしてくれ~!」という感じなんですが、まあ、そこも含めて、制作陣の思惑通りだと思います。

事実、作中冒頭にこんなやり取りがあります。

「総理、これは緊急災害対策本部を設置する案件と考えます」
「分かった」
(会議シーン)
「設置に関する閣僚会議を終了します。では皆さん、これで」
(移動シーン)
「形式的な会議は極力排除したいが、会議を開かないと、動けないことが多過ぎる」
「効率は悪いが、それが文書主義だ。民主主義の根幹だよ」
「しかし手続きを経ないと会見も開けないとは」
(会見シーン)

『シン・ゴジラ』より

ちなみにこの後も、「該当する事態が災害時マニュアルに存在しないので避難指示をすぐに出せない」「自衛隊しか対処できそうにないが、治安出動の要件を満たしていないために意見が割れる」と、官僚主義の悪いところがそのまま出たような場面が続きます。

でも、これが民主主義なんですよねー……。


手元の辞典に『官僚制』の項目があったので、少しばかり、引用しておきましょう。

「複雑で大規模な組織の目標を能率的に達成するための、合理的な管理・運営の体系。」
「官僚制は、①規則の支配、②権限のヒエラルヒー、③人間関係の非人格化(インパーソナリティ)、④職務の専門化、の特徴を備え、能率の論理の貫徹した技術的卓越性をもつ。」

有斐閣『社会学小辞典〔新版増補版〕』より

恐らくですが、この解説は、社会学の大家であるマックス・ヴェーバーの近代官僚制論をベースにしたものでしょう。
強いて言うならば、上記の四つに、⑤文書主義を含むと、ほぼヴェーバーの主張と同様です。
(多分、この辞典では「規則の支配」に「文書主義」を含めている)

『シン・ゴジラ』作中では、「効率は悪いが、それが文書主義だ。民主主義の根幹だよ」という台詞がありますが、何故、「文書主義」が”民主主義の根幹”なのか?
これは非常に単純な話で、文書主義はニアリーイコールで、「公職の権限を制限し、権力の暴走を防ぐ」「職員が決まった手続きによって動くことで公平で公正な制度運営を行う」「記録を残すことによって責任の所在と問題点を明らかにできる」というメリットだからです。

これを社会学、特に、組織科学や経営論では『(順)機能』と呼びます。
反対に、本来的には機能(≒メリット)であるはずの特徴や特色が、全体のマイナスになっている場合、それを『逆機能』と呼びます。

これはアメリカの社会学者、ロバート・キング・マートンが提唱したもので、”組織”や”制度”という概念を研究していく上では、絶対に外せない視点です。
(事実、上記の『官僚制』の項目の後半でも、官僚制が引き起こす逆説的な問題について述べられています)


ちなみに。

今回のタイトルの、『繫文縟礼』←これですが、「はんぶんじょくれい」と読みます。

意味は、

「礼儀や規則・形式などがこまごまして煩わしいこと。」

https://dictionary.goo.ne.jpより

文書主義の逆機能の例として出される言葉です。
英語では、公文書を束ねる帯から、「レッドテープ(Red tape)」と言います。


官僚制のプラス点を想像する――順機能と逆機能を考えてみよう

所謂、「お役所仕事」を目にした時、僕達は「なんてバカバカしい」と思ってしまいます。
しかし、どれほど滑稽に見えても、それは本来、何かしらの意図や目的があって構築されたシステムなのでしょう。

ところで吹井賢は、不眠症を患っているので、睡眠薬を飲んだりします。
でも、睡眠薬を飲んだ後は、ボーっとしてしまいます。
例えば車の運転とか、そういったことはできないし、しないように指導を受けています。

……これ、当たり前の話ですよね?

睡眠薬の効能(主作用)は、「眠りやすくすること」。
副作用は「服用後、注意力の低下が起こること」。
主作用と副作用については分かりませんが、少なくとも、順機能と逆機能は表裏一体なのです。


「なんてバカバカしい」――そんなお役所仕事を目にした時、その順機能に想いを馳せ、同時に他山の石として、「自分の仕事は逆機能により能率が低下していないか?」と振り返ってみると、良いかもしれませんね。
なんて、自戒も込めて書いておきます。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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最後に宣伝!

余談ですが、拙作『僕のホームズ、紹介します!』にて、

「それはほら、アルマさん。複数の都道府県に跨っているという事情もあって……」
「複数の自治体に跨っているが為――言い換えれば、複数の警察署が担当することとなった故に足並みを揃えられていないとしたら、それは警察制度自体の欠陥ですよ。マートンが官僚制の逆機能を指摘してから進歩がないようですね、日本の警察は。それともシャーロック・ホームズやファイロ・ヴァンスが警察を無能呼ばわりしていた頃から変化がないんですか?」
「実在の社会学者と創作の名探偵の主張を同等に語るのはどうかと僕は思うんだけどな。それに機能と逆機能が表裏であることはアルマさんくらいなら言われるまでもないだろう?」

こんなやり取りがあるんですけど、ここでアルマが出している”マートン”が、今日紹介したロバート・キング・マートンさんです。

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