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無題 -ム・ダイ-



何もかもぶっ壊したい。全部ぶっ壊して、全てやり直したい。時々そんなことを思う。破壊衝動でもなんでもなくて、ただ冷たく、そう思う。


昼が長い。夏至っていつだっけ。いちばん昼が長いんだよね。ってことはいちばん夜が短いんだよね。夜が短いっていいね、昼が長いよりも。
夏はまだこれからなのに、昼はどんどん短くなって、夜はどんどん長くなっていく。変な感じ。


気づけば季節が巡っていて、歳を重ねて、良いことも悪いことも同じくらい経験して、いろんなものを背負っている。
そうして体の中に堆積した塵の山を思いっきり蹴飛ばして、全部無かったことにしたい。


日常のいろんな経験の中を泳いで、たまに息継ぎが間に合わなくって、近くの岸辺に手をかけて、はあはあ言いながらちょっとひと休み。目の前にりんごが落ちていて、ふと見上げるとりんごの木が連なっていて、その奥にはもっと大きな森になっていて、ひと休みのつもりが冒険の始まりみたいにわくわくしてきて、こんなことも日常のひとコマに加えたいんだ。


音楽が苦手。音楽を聴いてるとたまに発狂したくなる。リズムが体の中でパンクする。


痛み止めを飲んでもおさまらない頭痛。気圧だよぉ、なんてつぶやいて。電車に揺られながら広げた新聞が隣の人の顔に当たって舌打ちされる。すみませんって言いながら新聞をたたむ。今日は電車の揺れがひどいから吊り革を半周回して手首でつかむ。頭が痛い。車窓がエロティックに濡れている。


血が青かったら世界はどうなるのだろう。赤よりも青のほうがグロくなさそう。青い血液。それでも世界は変わらない?


医術。手術。技術。美術。算術。学術。読書術。話術。戦術。記憶術。秘術。腹話術。忍術。呪術。錬金術。魔術。芸術。


母にしりとりをしようと言われた。たぶん僕がまだ小学3年生の頃で、できるだけ母と一緒にいたかったのだろう。嘘みたいに空が晴れ渡った午後の、野原で散歩をしていたとき。きっと母は僕のそんな心情を察して、手を繋いでくれた。高く伸びたひこうき雲が、ガラス張りのビルに映る。「ルビーの指環」を口ずさむ中年サラリーマンに、にこりと微笑む母が美しい。いつもと同じ日常の景色。今日はきっと伝えに行く。クラスメイトの香織ちゃんもお母さんと一緒に散歩していた。ただ少しだけ恥ずかしくなって、手を振ることもできずに、握っていた母の手を振り解く。屈折した感情が母にも伝わっただろう。薄く伸ばした絵の具のような、滑らかな線を描いたひこうき雲。戻ることのできない過去。今度はいつ会えるだろうか。鴎が空高く翔んだ。だんだん姿が見えなくなっていく。9月の秋晴れ、連日の雨が止んだあの日の美しい時間。


とくに書くこともないままに、テキトーに打ち込んだテキストが、眠たげな、退屈な文章となって、私を昼寝へと誘う。目が覚めてもまだ外は明るい。夏の昼寝は危険だ。思ったよりも時間は進んでいる。




ではまた。


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