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ロスジェネブルシットジョバー。カジュアルふぁぼイスト。何でも読みます。月イチくらいで短編小説やショートショートを投稿します。

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    ワタクシkengpongの創作小説たち。短編とショートショート。

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    kengpong作のショートショート小説を集めました。

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    kengpongの創作小説のうち、短編を集めました。

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    三つテーマを設定して、それを基に小説を書きました

最近の記事

[ショートショート] 同じ月が見ている

 僕は君と、同じ場所で同じ月を見ていた。  月はいっぱいに満ち、沈んでしまった夕日を追いかけて静かに滑る。  海岸を囲うように長く伸びるコンクリートの防波堤のちょうどよく出っ張った胸壁に、僕は肘を乗せてもたれ、君は両手を突いて、共に月を眺めていた。  僕が月から目を離して君の顔を見ると、君も僕の方に顔を向けて、はにかんだような笑顔を見せた。そこから一瞬の間を置いて涙が目から溢れ、頬を伝って落ちた。  僕はたまらず君の手に僕の手を重ね合わせた――いや、正確には重ね合わせようとし

    • [短編小説] 千畝川のおせんさん

       あれは、随分昔、私が少年の頃の事です。  郷里の村に千畝川と呼ばれる小川が流れておりました。とても涼やかで澄んだ水がさらさらと淀みなく流れ、何だかとてもやさしい印象を受ける川でした。  私はその千畝川沿いに歩くのが、なぜかとても好きだったのです。幼い頃はそれほど長くは歩けませんでしたが、長じるにつれて次第に沢山歩けるようになってきましたので、川を遡るように上流へ上流へと歩いたものです。上流に行けば何があるのか、この川はどこから湧いているのか、興味が尽きませんでした。  その

      • [短編小説] 紅葉の記憶

         啓蟄間近の、うららかな陽の射す午後。  とある商店街の、表通りから一本入った筋の呑み屋横丁に、小さな店たちの間に埋もれるように『スナックあづま』はあった。  正式な屋号は『軽食喫茶 スナックあづま』で、店先に掲げられた看板には屋号の他に『営業時間 十一時半~、アルコール五時半~』と記されている。  呑み屋横丁の店の大多数の例に漏れず『スナックあづま』はカウンターだけの小ぢんまりとした店だ。常連客はそれなりに付いてはいるものの、それほど流行っているという訳でもく、有り体に言っ

        • [短編小説] 今日もあなたと

           あなたは枕元に置いたスマートフォンの通知音で目を覚ます。  ぼんやりとベッドの上から天井を見上げると、何か違和感を覚えてならない。しかし、あなたにはその正体が分からない。  かつて長らく見上げていたボロ天井とはまるで違う綺麗な天井。まだ慣れないのかな……あなたはそんな風に思いながらベッドを下りる。  都心近くの2DKの単身者向けマンション。寮と称するボロアパートから引越しして来てどれくらいになるだろうか。もちろん家賃はそれなりの値段だけど、収入が上がった今なら何の問題もなく

        [ショートショート] 同じ月が見ている

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          [ショートショート] ラストアナウンス

          「発車します。ご注意ください」  自動アナウンスと共に、○沢駅行きバスは△台駅のロータリーを出た。  その朝はいつになく乗客が多く、立たざるを得なかった。最初は吊革に捕まったが、どうも腕を上げているのが煩わしく感じ、すぐに目の前のポールに持ち替える。  目的の停留所までは少しばかり時間があるので僕はポケットからスマートフォンを取り出した。  通勤時に限らず、手持ち無沙汰になるとついスマートフォンを手にしてしまう――すっかりそんな癖がついてしまった。僕はその癖の命ずるまま、半ば

          [ショートショート] ラストアナウンス

          [短編小説] 馬耕・五常・デルタロケット

           ザクリッ、ザクリッ。  犁の歯が硬く乾いた田圃の土を起こしていく。  ブルルルッ!  渾身の力で犁を引く老馬の鼻息が、春先の空気を震わせた。 「ようし、アオ、いい子だな。もう少しだぞ」  老馬に付き従うように犁を抑え田起こしを進める男が老馬に声をかけると、老馬はまるでそれに答えるようにまた鼻を鳴らす。  まだ少し冷たさの残る気候だが、男は汗だくだ。きれいに剃髪が成された頭も、鉢巻代わりに巻かれた手拭も、身に纏った野良着も等しく汗と土埃にまみれている。見たところ老年に差し掛か

          [短編小説] 馬耕・五常・デルタロケット

          [短編小説] サーカスティック・オートマタ

           何もかも上手くいかない。  それは、あの麻耶総一郎のせいだ。スクールカーストのリーダー格だったあいつが俺をイジメのターゲットにした。  そうなれば付和雷同、俺はクラス全員から爪はじきさ。先生に訴えても両親に訴えても駄目だった。それでも必死に頑張ったんだ、でも最後は心が壊れて中学校に行けなくなってしまった。  中学校は形だけ卒業という事にはなったが、高校になんか当然行けないし、家の外どころか部屋の外にだって出られやしない。それでもお袋にギャーギャー言われて働こうとはしたんだ。

          [短編小説] サーカスティック・オートマタ

          [短編小説] 戻れメロス

           ディオニスは激怒した。自らを邪智暴虐の王と言い、加えて自らを除く決意をしたと言い放つ者が王城に現れたと聞き激怒した。  聞けば田舎の村の牧人風情、政治など分からぬくせに、そのあまりにも大それた物言いにディオニスの怒りと人間不信は一瞬にして沸騰した。  ところが、警吏によって連れてこられたその愚か者 ――名をメロスという―― の姿を見た瞬間、ディオニスの心臓は大きく鼓動したのだ。こんな事は久しく無い。  メロスは整った顔貌の持ち主であった。普段から羊を連れて野山を歩き回ってお

          [短編小説] 戻れメロス

          [ショートショート] 一番暑い日

           今日はまた、さらに気温が上がった。『災害級の暑さ』なんて言い方があったが、これは完全に災害だ。今がピークと思いたいところだがさにあらず、この先どんどん上がっていくと偉い人が言っていた。  そんな暑さの中、私は麦わら帽子を頭に乗せて表に出たのだった。  特に目的がある訳でもなかったのだが、閉じこもっていては気が詰まる一方だ。暑さにやられるリスクはあれども身体を動かしたい気持ちが勝った。  アロハシャツに短パン、ビーチサンダル。格好だけはバカンスだ。せめて気分だけでもリゾート地

          [ショートショート] 一番暑い日

          [短編小説]その冒険者は、今日もダンジョンをパトロールする

           使用人の声で僕は目を覚ます。  何も言わなくても毎朝起こしてくれる、何とも気の効く使用人たちだ。それはつまり僕が冒険者として敬意を払われているという事を意味する。そう思うと何とも誇らしい気持ちでいっぱいになる。  しかし、どうしてかこの宿屋には慣れない。目を開けると真っ先に天井が目に入る訳だが、どこか他人行儀な気持ちが湧いてくる。半身を起こしてベッドの上から室内を見渡しても実に殺風景だ。しかし仕方ない事だな、と思い直す。なにしろここはダンジョンの中にある宿屋なのだから。  

          [短編小説]その冒険者は、今日もダンジョンをパトロールする

          [短編小説]花園、その永遠たる

           ペルチャー船長は一旦手を止め、端末画面を見つめながら今日の探査を思い返していた。  無人機から送られてきた映像――あれはどう解釈したら良いのだろうか。  このグァン=デ系は、百五十年余りに渡って度重なるビーム状のガンマ線に曝され続けてきた。  あの災厄から逃れ得た生命体などあろう筈も無い。かと言って、あれが、ガンマ線の到来以前から存在したとも思えない。元は貧しい開拓途上の星だったのだから。  思考は堂々巡りを続けるばかりだ。 ■銀河標準暦 七二年 第六四日 グァン=デa

          [短編小説]花園、その永遠たる

          [短編小説]まねくねこまねかれざるねこわらうねこ

           夜勤明け、バタンキューで布団に入り、次に目を開けたら昼過ぎだった。  俺はしばらくぼんやりと天井を見上げた。  しんとして物音ひとつない。妙だな。 「おーい、ハルッペ、居るのかい?」  女房に呼び掛けてみたが返事はない。  あ、一応言っておくけど『ハルッペ』ったって別に外人とかではないんだぜ。本当は春恵と言うのだけど、昔からずーっと『ハルッペ』と呼んでいるからすっかり癖になってしまったという訳だ。しかし結婚したからには女房と言わせてもらうぞ、エヘン。  話が逸れた。それで俺

          [短編小説]まねくねこまねかれざるねこわらうねこ

          [短編小説]アバチャ川・保険計理人・山葵

           立派な木目のドアをノックすると、中から「どうぞ」の声。  ドアを開けると、しかつめらしい顔付きをした男性が奥のデスクにいた。  男性の名は央澤龍彦。この大学 ――僕の母校でもある―― の農学部で教授職に就いている。  僕は門外漢なのでよく知らないのだが、植物分野の第一人者で学会でも高名らしい。 「鈴木教授の紹介で参りました、佐古川道朗と申します」  僕はそう名乗り、手にした履歴書を差し出す。 「ああ、鈴木君から話を訊いてるよ。なるほど体力はありそうだ、うん」  教授は僕を応

          [短編小説]アバチャ川・保険計理人・山葵

          [短編小説]二縄墨奇譚

           いいかい、タカ坊、約束だよ。かくれんぼをするならね、二つの事を守っておくれ。  夕暮れ時になったら終わりにする事。「もういいかい」と問われたら必ず返事を返す事――。  諭すように言う祖母の声が、ふいに私の頭に響いた。  これまで一度たりとも思い出したことのない言葉だ。いつ言われたのだろう。かくれんぼなぞするのだから小さな子供の頃だという事は間違いないのだが、どうしても思い出せなかった。  それどころか子供の頃の事、殊に祖母と暮らしていた頃の事が何一つ思い出せない事に気付い

          [短編小説]二縄墨奇譚

          [ショートショート]チモリンシュガー・スノーフィールド

           僕の通う高校はかなり田舎にある。校舎の周りは田んぼと畑に囲まれており、冬になって雪が積もれば辺りは見渡す限り真っ平らな雪原となる。雪かきが及ばない田畑はかなり分厚く積もるのだ。  それを見越してか校舎の床は結構高く造ってある。だから雪面は一階の教室の窓よりも低い位置に止まるのだが、それでも積雪量が多い時には窓のすぐ下まで積もる事があって、初めて見た時は驚いた。まるで校舎全体が地盤沈下したような錯覚を起こした程だ。  今日は、そんな校舎の一階に設けられた家庭科室で調理実習が

          [ショートショート]チモリンシュガー・スノーフィールド

          [短編小説]幻迷夢の画布

           県立大学の裏手には広大な森が広がっている。  ハジメはこの鬱蒼とした森に、週に一度は必ず足を運ぶ。四季折々の豊かな自然を愛用のカメラに収めるためだ。あまりひと気が無いのも気に入っている。人声の無い森の中を歩いていると感性が研ぎ澄まされていくような気がする。  森を貫く道は途中で幾筋にも分かれている。ある道を通れば西南台という小山の麓にある神社の境内に出るし、別の道を進めば西南台の裏側や、さらに連なる他の山々の方面へ抜けるという具合だ。  そんな分かれ道のひとつに差し掛かった

          [短編小説]幻迷夢の画布