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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第7話 地震発生を予知する発明

 2024年1月1日に発生した能登半島地震は大きな被害をもたらしました。被災された皆さまには心からお見舞い申し上げます。地震発生の予知はなかなか難しいとされており、今回もその前兆こそあったものの、事前の予知には至りませんでした。ただ、地震発生予知関連の発明は、じつは毎年コンスタントに特許出願されています。地殻やマントルの動きに関する信号や応力の変化などから予知しようとするものが多く、なかにはスウェーデン人による「ある領域内のどこで次の大地震が起こるかを予知する方法」(特表2010-509607)など、外国人が特許出願した例も見受けられます。
 地震発生の予知にユニークな手法を用いたものもあります。たとえば植物を使った「地震警報装置」(特開平10-239443)は、柿の木の老樹(古木)の幹の中を流れる微弱な電流を測定して地震発生を予知・警告する発明です。ただ、この特許出願については「過去に発生した地震について電流値との関係を調査したものに過ぎず、将来発生する地震についてどのように予知するのかを具体的に示すものではない」「測定された電流からどのようにして地震の発生を予測し、実際にどの程度の精度で地震が発生したのかについても何ら具体的なデータが示されていない」などの理由から、ネムの木などを利用する従来技術と比較して進歩性がないとして拒絶されています。
 また、動物を使ったものに「ペットで家庭用地震予知器具」(特開2006-349654)があります。ハムスターやリスなどの齧歯目類のペットに回し車を回転させて、その回転数を計測することで、異常運動量から地震発生予知を試みるというものです。
 特許査定にまで至ったものとしては、「地震予知方法及び装置」(特許第4121545号)があります。3匹のトカゲ(フトアゴヒゲトカゲ)を飼育ゲージに入れて微弱磁気を加え、中のトカゲが超低周波音に反応する様子を観察することで、地震発生を予知しようというものです。具体的には、飼育ゲージ内の様子を一定の時間間隔をおいて撮影して、トカゲが45度以上の角度で尾を立てた回数が閾値(あらかじめ決めておいた境界値)以上になった場合に、地震が発生すると推定します。これにより実際に予知できた地震もあったとのことです。本当かどうか怪しいと思われる方もいるかもしれませんが、特許出願の審査では、実際に審査官が同じ手法を使って地震の予知を行うわけではなく、明細書などに記載されている内容から拒絶するかどうかが判断されます。
 なお、地震発生の予知に関する発明には、裁判沙汰になったものもあります。「地震到来予知システム」(特許第4041941号)は3カ所以上に検出器を配置し、検出データを収集した検出センターが地震データを受信機に送信し、受信機が地震の到来方向、予想震度および到達時刻を演算して警報・通報することで、被害を最小限に食い止めるというものです。特許として成立後、特許権者は気象庁の緊急地震速報が特許権を侵害していると主張して、国に対して損害賠償金の支払いなどを求めました。しかし東京地裁は、気象庁の緊急地震速報は単に発表を行うにすぎず、受信や演算といった特許発明の構成要件を満たしていないとして、その請求を棄却しています。

特許第4121545号

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年3月号掲載

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