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ウエールズの森林経営と環境保全

ウェールズのバンゴール大学(Bangor University)で行われた10日間の実習を終えて帰ってきました。僕の専攻は意訳すると持続可能な森林保全及び環境保全学(Sustainable Forest and Nature Management)。この修士課程SUFONAMAを提供しているヨーロッパの5つの大学の1つがバンゴール大学。ゲッティンゲン大学の半分ぐらいの規模でした。

現地のオークの大木

バンゴール大学が得意としているのは環境保全の分野。キャンパスが海のそばにあることから、Ocean Scienceという専攻もあります。今回の実習でも、海岸の防砂林の様子を見学する日程が組まれていました。第一次世界大戦後にマツの植林がはじまり、そして今、その保全方法について2つの目標のどちらを取るかで大きな論争になっている現場です。

土日なしの合宿。到着3日目から8日目まで毎日ウェールズ北部・中部のいろいろな環境保全の現場を歩きまわり、9日目に2500語のレポートをまとめることが要求されるというなかなか過酷なスケジュール。帰ってきてもなんだかボーっとしています。しかも参加者ほとんどが英語ネイティブではないのに、最終日の講評で報告された同僚たちの成績の優秀なことといったらないです。日本ではSUFONAMAのように総合的なカリキュラムを提供する修士課程はほとんどないと思うので比べてもしょうがないのだけど、このレベルの学生をそろえているプログラムはほとんどないだろうなあ、と思う。彼らの多くが、将来この分野で頭角を現すことは間違いないと思う。そうなってくれるのが僕にとって大きな利点にもなる(笑)。

羊の国、ウエールズ

以下、印象深かったことのメモ。

ウェールズで農業というと、羊の放牧のことである。見事なくらい放牧地のみで、畑はない。ウェールズの農業とは、ラム肉の価格変動に100%依存しているというわかりやすい説明が印象的だった。

ウェールズで産業としての林業という考え方はほとんどない。森林は基本的に保全するものとしてとらえられている。もっとも、第一次世界大戦後には森林被覆率が数%まで落ち込んだのが、現在では15%ぐらいまで回復している。

ウェールズでの自然環境保護とは、Nativeの状態に戻すということ。例えば、在来のRed Squirrel が外来種のGray Squirrelに生態域を脅かされて絶滅の危機にあるのだが、それの対策プロジェクトとして後者を根絶(!)することが目標となっている。これが結構徹底していて、日本だとリス=かわいい、となるところが、そんな雰囲気がみじんもないところに、英国人の冷徹さを見た気がした。これが大英帝国を築き上げたリアリズムか、とか大げさなことも思ってしまった。

ウェールズでは(英国他地域でも同じだと思うが)、Forestといえば狩猟の場所。Woodlandが木が生えている場所。なので木がないForestはもちろんある、という定義の話。専門家の説明でもForestという言葉は出ず、Woodlandという言葉が一般的でした。

ごはんがおいしくなかったこと、毎日ひたすら雨でとにかく寒かったことがつらかったけど、こういうプログラムに参加しない限り10日間でウェールズ北中部のいろいろな場所を回ることは不可能に近いので、そういう機会を得られたのは大きな収穫でした。


オリジナル記事公開日:2012年7月19日

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