人口減少と土地利用
ヴェネツィア共和国が1000年続いた最大の理由は、そのほとんどの時期で共和制が機能し続けたこと。どんな組織も外部環境の変化に常に応じていかなくてはならないけど、ヴェネツィア共和国はそれを実に巧妙に、冷徹に、長年に渡り続けてきた国家である。僕は歴史はまったくの門外漢だけど、長く続く組織や制度が存在する理由を知りたいという好奇心は昔からもっていた。
ヴェネツィア共和国も建国当時から危機の連続。建国当初は、何度も本土を攻められたし、共和制を王政に代えようとする計画が実施されそうになったこともあったらしい。それでも建国から数百年がたつと、アドリア海や東地中海に面するありとあらゆる主要な都市を押さえて、通商国家として黄金期を謳歌する。わずか人口150万人で。キプロス島やクレタ島が長いことヴェネツィアの影響下にあったのは有名な話。この時代に確立された通商国家としての制度は美しいといってもよいと思う。
このような美しい政治体制も16世紀には終わりを告げる。最大の理由はトルコ帝国の勢力拡大。陸の王のイメージだったのが、地中海にも進出するようになり、ヴェネツィアをはじめとする西欧諸国とガチンコの戦いを繰り広げるようになる。劣勢なのは西欧諸国。
この原因は冒頭に掲げた人口の違い。いくら効率の良い、美しい政治体制、軍事体制(当時も今もこれは表裏一体だろう)であっても、兵士の補充が無尽蔵にできる国にグリグリと押されると、どうしようもなくなるという身も蓋も無い現実がある。一時期はやった、アフリカの「人口ボーナス」という言葉の真意とは少し異なるかもしれないが、人が多いことそのものがパワーである現実は、シンプルであるだけにそれに対抗することはとても難しい。
人口減が続く地域は、そういう意味でも本当に困難な状況に置かれているんだと思う。そのような地域の「撤退作戦」を具体的に考えなくてはならない地域が今の日本には多くあるし、能登半島地震ではそのことが一般市民の意識の中に改めて浮上してきている。このような時代の制度設計はどうすべきか、単なる人口の移動だけでなく、それに伴う土地利用のあり方を考えていく必要がある。私も土地利用に関わる研究者なので、そういうことに少しでも貢献できる仕事(研究)をしないとなあ、と思っていたりする。
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