ゲーム業界・ゲームデザイナー(プランナー)志望者が最初に見るべきFAQ

■著者について

下田賢佑(しもだ けんすけ)
キャリア15年以上のゲームデザイナー(プランナー)です。大手のゲーム会社に就職した後、2010年に自分の会社を作って10年以上様々なクライアントと契約してゲームデザイナーの仕事を続けて来ました。大手パブリッシャーから中小ディベロッパーまで、コンソールゲームからスマフォゲームまで、AAAゲームからインディーゲームまで、規模やジャンルやプラットフォームを問わず様々なプロジェクトを経験して、業界全般への知識があります。

■この記事の対象読者について

これから就職活動を始める大学生のためだけでなく、進路選択に悩む高校生の疑問にも答える内容となってます。

■この記事及び今後の連載の趣旨について

これまで、このnoteのマガジンに限らず、同業のゲームデザイナー向けの話を色々な所でして来ましたが、業界志望者向けの就職指南については話すことを避けて来ました。理由は、この業界が求める人材の特殊性や、就職の難しさを強調することで、就職がゴールだと誤解されてしまう恐れがあったからです。ゲームデザイナーやプランナーになったらすぐに自分の企画を実現できるわけではありませんし、億単位の予算を動かすクリエイティブディレクターやプロデューサーまでキャリアアップするには困難が伴います。現場の最前線で働くゲームデザイナーは皆、自分に任された仕事をする以外にも、日頃からスキルアップやキャリアップのために努力しています。この職業は、就職してから必要とされる努力の方が多いです。それを無視して就職に必要な知識ばかりを教えると就職後の成長に悪影響が出ます。そしてそのような情報発信に積極的に関わるのは業界全体の発展に寄与することにはならないと考えてました。しかし、昨今のSNSの普及、そして主に東京のスマフォゲーム会社を中心とした人材募集の拡大により、経験の浅い業界人によるとても主観的で一般性を欠いた情報や、この職業に関する誤解を拡大するような誤情報を見かけるようになりました。そのような状況で、やはり私には持てる知識を可能な限り共有する責任があり、業界志望者向けの情報をもっと積極的に発信しようという考えに至りました。このnoteでのマガジンの連載は、以前少し書いた後に休んでしまってましたが、私の仕事にも変化があり、継続して執筆できるような体制になった今、このFAQ記事に限らず、今後定期的に情報発信するつもりです。また、ゲーム業界志望者に限らず、現役のゲームデザイナーにとっても役に立つような記事もいずれ書いていくつもりです。また、本記事の内容に疑問がある場合や、事実誤認の指摘がありましたらご遠慮なくコメント下さりますと助かります。その場合は修正の対応をします。よろしくお願いします。

■ゲームデザイナーの定義や仕事内容に関する質問

・ゲームデザイナーとはゲームの絵を描く仕事のことですか?

違います。ゲームデザインをする人だからゲームデザイナーなのですが、英語でGame Designと言った場合のDesignとは「設計」という意味になります。(これに限らず、英語のDesignは日本語のカタカナの「デザイン」ほど、絵を描くという意味で使われることは多くないです。)ゲームのシステムやメカニクスを作り、プレイヤーの体験に対して責任を持つのがゲームデザイナーです。ちなみに絵を描く方のデザイナーは、英語ではArtist(アーティスト)と呼ばれます。詳しくはこちらの記事を読んでください。

・ゲームデザイナーとプランナーってどう違うのですか?

どちらの名で呼ぶかによってその職業の捉え方や価値観が異なるのも事実ですが、日本のゲーム業界における職種としては同じものと考えて良いです。日本では絵を担当する職種のことをデザイナーと呼んでしまったのと、ゲーム会社の出自である玩具産業や広告・出版業での習慣から「企画」と呼ばれる人がゲームデザインを担当することになり、やがてそれをカタカナ語にした「プランナー」という呼び方が定着しました。最近は、日本でも欧米に倣ってゲームデザイナーと呼ぶ会社が出て来てますが、日本のプランナーと欧米のゲームデザイナーを比較した場合、仕事内容や求められるスキルについても違いがあります。詳しくはこちらの記事を読んでください。

・ディレクターやプロデューサーとは違うのですか?

ゲームデザイナー、ディレクター、プロデューサーそれぞれ違う役割ですが、兼任するケースもありますし、ゲームデザイナーからディレクターやプロデューサーにキャリアアップできます。ディレクターは、ゲームデザイナー以外の職種も含む開発全ての監督であり、海外では一般的にCreative Director(クリエイティブディレクター)と呼称されます。多くの場合、ゲームデザイナーからキャリアアップしますが、プログラマーやアーティストからディレクターになるケースもあります。プロデューサーはプロジェクト全てに責任を持つ立場であり、宣伝やマーケティング計画も含め、ゲームを作るだけでなく売ることも考えなければなりません。一番最初に企画を通して会社から予算を引き出すのもプロデューサーにしかできない仕事です。ディレクター経験者などが基本的にはゲームの開発の現場にいた人がプロデューサーになるケースが多いですが、スマフォゲームなどジャンルによっては開発経験のないマーケティング寄りの人材がプロデューサーになることもあるようです。

・ゲームデザイナー/プランナーの仕事は新作ゲームの企画書を書くことですか?

違います。もちろん、ゲーム開発のプロジェクトのスタートには企画書が存在しますが、それを書くのは主に前述したプロデューサーやクリエイティブディレクターとなる人で、ほとんどのゲームデザイナー/プランナーには日常的に企画書を書く機会がありません。では何をするかというと、企画書だけではゲームは作れませんので、プログラマーやアーティストと一緒に具体的な開発作業を進めて行きます。プログラマーやアーティストに仕事内容を指示するための仕様書を書く仕事の他、UnityやUnrealのようなゲームエンジンや内製のツールを使うことで、各種データを組み合わせたり、簡易的なプログラミングを自ら行ってゲームをテストプレイできる状態にまで作ったりもします。いずれにせよ書類を書いたり会議をしたりするだけの仕事ではなくて、ツールの操作やプログラミングなど専門的で技術的な仕事が多いです。一つの技術職と認識した方が良いでしょう。

・新卒で入社したらすぐに自分の企画でゲームが作れますか?

まずあり得ない話です。ゲームを作るのに必要な予算額を考えてみましょう。昨今のコンソール向けAAAゲームでは予算が200億円を超えるケースも珍しくないですし、AA規模で数十億という時代です。スマフォガチャゲームでも20億以上は珍しくありません。インディーゲームの規模であっても数千万円から1億円の予算がかかります。まれに大手ゲームパブリッシャーで研修目的で数千万円以下のゲームを一つ作らせて貰えるケースがあるかもしれませんが、その場合は同期入社のメンバーで一緒に企画を考えて、指導担当者から何度も企画内容を修正されるようなものになるでしょう。完成したゲームをリリースしない場合もあります。前述したようにゲームデザイナーには企画以外の仕事がたくさんあるので、あまり自分の企画でゲームを作れるということばかりを期待しない方が良いでしょう。

・新人のゲームデザイナー/プランナーは雑用ばかりやらされるというのは本当ですか?

雑用という言葉の定義によりますが、少なくともゲーム開発と関係ない仕事をやらされることはないはずです。ゲームデザイナーは、他の職種と比べると仕事の範囲がとても広く、また、細かいファイルやデータや情報を整理する機会がとても多いので、そのような作業を指して雑用と言ったのが誤解されて広まったものだと思います。また、チームの中で情報を集約するポジションなので、会議への出席機会が多く、新人の場合は会議室の予約や議事録を任されることもありますので、人によってはそれを「雑用」と感じるかもしれません。もし、ゲームデザイナー/プランナーにばかりゲーム開発と関係ない社内の雑用をやらせる会社があったとしたら、それはゲームデザイナーを専門職と見做していないことになるので、専門的なスキルを追求するのは難しい環境と言えるでしょう。

■労働環境や待遇に関する質問

・ゲーム会社ってどこもサービス残業の多いブラックな環境だと聞きましたが本当ですか?

かつてそのような時代もありましたが、ここ10年くらいでかなり改善されて来ています。特に株式を上場しているような大手の会社では、労働基準監督署から目をつけられやすいので、劇的に労働環境が改善されて来ています。最近では必ず定時で帰れる会社も珍しくないです。ただし、ゲームデザイナー/プランナーの専門性が低い会社だと、技術よりも作業量や労働時間で貢献度を測ってしまう傾向にあり、競争のように会社に残り続ける悪しき慣習があったりします。もし、定時で帰れる会社を選びたかったら、その会社がゲームデザイナー/プランナーをどう捉えているかを事前によく調べておくと良いでしょう。

・ゲームデザイナー/プランナーは給料が少ないと聞きましたが本当ですか?

会社によります。これも前述のようにその会社がゲームデザイナー/プランナーという職種をどう位置付けているかの問題と言えるでしょう。専門性を軽視して誰でもできるような作業しかやらせない場合は、替えがいくらでもいるので給与額は低くなります。(逆に言うとそういう会社なら業界未経験でも就職しやすいと言えます。)専門的なスキルや実績あるゲームデザイナーならば、他の職種やゲーム業界以外の業種と比較して給与額が低いということはないはずです。むしろ高い方だと言えるでしょう。

・いつまで経ってもディレクターやプロデューサーになれないと聞きましたが本当ですか?

ある程度事実です。というのもゲーム開発の規模が巨大化したために、プロデューサーやディレクターの席の数に対するゲームデザイナーの数が増えすぎました。そのうえ開発期間も長期化しているうえに、最近だとプラットフォームを問わずリリース後も長期に渡るアップデートで1つの作品を長く育てる傾向があるので、その間プロデューサーやディレクターが交替する機会が少ないです。傾向として、複数の小さなプロジェクトを立ち上げるよりも一つのプロジェクトを大きく長く育てる方が経営効率が良いため、ゲームデザイナーが新しい企画を出してディレクターやプロデューサーに名乗りを上げる機会は確実に減っています。業界全体の問題でもあり、各社これから解決策を模索していくことだと思います。

・女性のゲームデザイナーは多いですか?女性が活躍できる環境ですか?

世界的には女性のゲームデザイナーは増えていますが、日本だとまだ少ないです。さらに女性のリードゲームデザイナーやクリエイティブディレクターとなると非常に少ないです。そのように女性のロールモデルが少ないために新人〜若手の女性がキャリアプランを描きづらいという悪循環があります。また、男性のリーダーを中心とした「Bro Culture(兄弟ノリ)」の中で、女性がキャリアプランの相談をする相手を見つけにくいという問題もあります。(女性向け恋愛ゲームの開発現場だと圧倒的に女性が多いですが、それは当たり前と言えますし、それを指して問題解決したとは言えません。)業界全体として、ジェンダーバイアスやジェンダーギャップは歴然と存在します。改善には時間を要するでしょう。ただ、前述した長時間労働の問題とともに、働き方改革の流れの中で少なくとも女性に対する明確な差別や、セクシュアルハラスメントの問題は確実に減って来たと言えます。また、プログラマーやゲームデザイナーの女性は少ないですが、アーティストの女性は多く、労働環境として極端に女性が少なすぎることはありません。女性特有の問題を相談しやすい環境にはなって来ているはずですので、迷わずこの業界に来て欲しいと思います。女性の数が増えれば環境の改善は加速するはずです。出産や育児に関する問題などは以下の記事など参考になると思います。

・LGBTが活躍できる環境でしょうか?

ゲームデザイナーやプログラマーの女性が少ないという問題がある一方、実はLGBTは職種を問わず多くの会社で目にします。中小のディベロッパーで積極的に採用を行っている会社さんも知っています。恐らく、他業種と比べると個性を尊重する価値観があるのでしょう。(男性/女性というジェンダーの問題に無自覚である一方、「男性の中のLGBT」「女性の中のLGBT」だとその人権や個性を意識しやすいのかもしれませんね。)日本ではまだ見られませんが、海外だとゲーム業界内のLGBTグループがあり、ゲームのキャラクターの多様性についても議論されるようになってます。LGBTの人たちにも迷わず来て欲しいと思います。

■ゲームデザイナーに必要なスキルや特性に関する質問

・ゲームが下手でもゲームデザイナーになれますか?

なれます。ゲームを作る仕事であってゲームをプレイする仕事ではないので、ゲームの上手い下手は関係ありません。ゲームが下手な人の気持ちが分かるのはゲームデザイナーとしては一つの武器となるでしょう。

・ゲーム業界のことに詳しくないとゲームデザイナーにはなれませんか?

これも関係ありません。ゲームデザイナーはゲーム業界アナリストではありません。ゲーム開発の現場で、ゲーム業界の話や他社の話をすることはそんなにありません。あったとしてもそれは雑談レベルの話であって、仕事とは関係ありません。ただし、スマフォゲームとコンソールゲームのビジネスモデルの違いなど、基本的な産業構造の違いは知った方が良いでしょう。また、これは職業と関係なく、生涯のキャリアプランを考えるうえで、自分が就職しようと思ってる会社がどのように利益を上げているのか、そのビジネスモデルに持続可能性はあるのかくらいは意識した方が良いと思います。

・ゲームオタクはゲームデザイナーになれないと聞きましたが本当ですか?

ゲームオタクがゲームデザイナーになれないことはないと思います。色々なゲームをプレイした経験それ自体は必ず仕事に役立つはずです。(ゲームプレイ経験に乏しい、業界知識ばかりの業界オタクだと困りますが。)しかし、あえて言うなら「ゲームオタクだからと言ってゲームデザイナーになれるわけではない。」ということです。既存のゲームのメカニクスやフィーチャーを知っていることや、その改善点を指摘できることは、ゲームデザイナーに求められる能力のほんの一部でしかありません。時にはゲーム以外のメディアや芸術を参照しつつ、学際的なアプローチで複雑なゲームメカニクスやゲームシステムを設計するのがゲームデザイナーの仕事であり、それは既存のゲームのフィーチャーの一つ一つを批評的に取り扱うこととは全く別の能力です。あなたがゲームをたくさんプレイするその時間で、映像心理学を学んだ人がその知識をゲームデザインに応用するかもしれません。そうなった時にあなたがゲームのプレイ経験だけを武器に勝負できるかという話です。また、この業界にはあなた以上のゲームオタクが存在するかもしれません。そう考えると豊富なゲームの知識という一点のみを武器にゲームデザイナーを目指すのは不利と言えるでしょう。

・プログラミングスキルがなくてもゲームデザイナーになれますか?

新卒やアルバイトでの就職時には問題とされないでしょうが、プログラミングが全くできないと仕事の幅が狭まり、就職後のキャリアップに支障があります。海外では仕様書しか書けないゲームデザイナーをDocument Only Designerと呼んで嫌厭する風潮も一部ではあったりします。日本ではそこまででないにせよ、UnityやUnrealの普及に伴い、技術的な仕事ができるゲームデザイナー/プランナーが評価されるようになって来ました。せめてUnityとC#でプロトタイピングができるくらいの技術は身に付けておいた方が良いでしょう。(それができたからと言ってゲームデザイナーになれるとは限りません。)

・UnityとUnrealどっちが就職に有利ですか?

新卒採用やアルバイト採用の場合はどっちでも良いです。即戦力として期待されない限りは、ツールの習得期間を設けてくれるはずですしUnityとUnrealいずれかの操作に習熟していることよりも、ゲームエンジン/ミドルウェアやツールを使ったゲーム開発の進め方を知っていること、技術的な仕事ができることが重要です。業界全体の傾向として、スマフォゲーム=Unity、コンソールゲーム=Unrealといった棲み分けは確かにありますが、コンソールゲームの会社の場合は、Unrealだけでなく内製のゲームエンジンやツールを使うことも多いですし、スマフォゲームの会社の場合はそもそもゲームデザイナー/プランナーは運営スタッフとしての役割を求められてUnityを触らせてもらえないこともあります。とにかくプログラマーでもないし即戦力として期待されてないので、どちらかのツールの使い方を知らなかったからと言って不利になることはないはずです。

■学校選び・学生生活に関する質問

・専門学校と大学どっちが就職に有利ですか?

まず明言できるのは「専門学校に行ったから有利になることはない」ということです。また、ゲーム専門学校の「プランナー科」や「ゲームクリエイター科」など、ゲームデザイナー/プランナー向けの学科や専攻は絶対におすすめしません。理由は学費が高いわりに授業のレベルが著しく低いからです。一方でプログラマーやアーティスト向けの学科に通うのは少しメリットがあります。ゲームデザイナーとしてプログラミングスキルがあるのは確かな武器になりますし、現代のゲームはグラフィックスの比重が高いので、アーティストの仕事内容やツールの操作を知っていることはプロの開発現場でも役に立ちます。特にMayaなど3Dのツールの操作に長けているとコンソールゲームのレベルデザイナーとしての適性が高いです。ただし、その場合も「ただそのスキルを得るためだけに年間100万円以上の学費を払うのか」ということは考えた方が良いでしょう。また、将来海外のゲーム会社で働きたいとなった時に、大学の学位がないと就労ビザの取得が難しくなるという事情もあります。ゲームデザイナーは知識の幅が武器となる職業ですので、できれば4年生の大学に行って広く教養を身に付けた方が良いと思います。最近は4年生の大学の中でゲームに関係する学科を備えている大学もありますが、海外の大学の実績ある学部でない限りは、あえてそこを選択する必要もないと思います。日本ではまだ大学におけるゲーム開発教育は発展途上であり、専門学校と比べて大きな差があるとは言えない状況です。ゲーム以外で興味のある学部や学科を選べば良いと思います。

・理系・文系どっちが就職に有利ですか?

海外のゲーム会社だと稀にゲームデザイナーに対して理系の学位を要求する所がありますが、ほとんどの場合文系だからと言って採用を断られることはありません。どんな学部や学科を出たかということよりも、大学で学んだことが思考プロセスや発想の根本に定着しているかどうかが重視されるはずです。なので、自分が向いてそうな学部や学科を選べば良いと思います。

・偏差値の高い大学を出ないとゲームデザイナーにはなれませんか?

そういうわけではありませんが、私立・公立問わずできる限り大都市の有名大学に入った方が良いです。理由は、学生の多様性です。学内でインディーゲームや同人ゲームのプロジェクトを始めるにしても、有名な大学の方が多彩なメンバーを集めやすいです。ゲーム業界の中に卒業生も多いと繋がりが作りやすいです。その他将来の役に立つようなアルバイトやボランティア活動の機会も得やすいでしょう。一方、学費が高く偏差値が低い私立大学だと真剣な学生が少ないのであまり良い影響を受けません。ゲーム業界志望者以外でも将来を真剣に考えて努力している学生が多い環境に身を投じるべきでしょう。志望大学の校風や卒業生の就職先等はよく調べてみましょう。

・海外のゲーム会社に就職したいのですが、海外の大学を出た方がいいですか?

その通りです。というより海外の大学を出ないと無理です。理由は、就労ビザの関係で、日本在住者が海外の企業に直接就職することが難しいからです。ましてや新卒だと絶望的です。地元の人間を一定の数雇用することを条件に行政から補助金を受けているゲーム会社もありますので、海外のゲーム会社は日本以上に求職者の在住地を重視します。「内定したら引っ越します」だとまず無理で、応募時にその会社と同じ都市に住んでいなければなりません。もし、海外の大学に留学するのであれば、ゲーム会社の多い地域(主にアメリカ西海岸など)の大学を選びましょう。

・新卒採用でどこの内定も取れなかったのですが、卒業後にゲーム専門学校に入り直すべきでしょうか?

専門学校卒業時に再び新卒枠に応募できるという以外は、あまり意味がありません。大学卒業時に採用されなかったのは、その時にスキルが足らなかったり適性が合わなかったりしたからだと思いますが、専門学校に行ったからといって足りないものが身に付くわけではありません。最近だと、第2新卒を募集しているゲーム会社も多いですし、ゲーム以外のIT企業に就職してから転職する手段もあります。給与額は下がりますが、卒業後にアルバイト採用に応募するのも良いでしょう。アルバイトから正社員の登用はゲーム業界では珍しいことではありません。

・高卒でもゲームデザイナーとして就職できますか?

最近だと高卒を積極的に募集している会社さんもあるようです。

ただし、これは高卒の新卒採用に限った話であり、高校を卒業してから全然関係ない仕事に就いて何年も経ったあとに中途採用やアルバイト採用に応募してもかなり厳しく判断されることでしょう。また、大学の学位がないと将来海外のゲーム会社で働きたくなった時に就労ビザの取得で困難するリスクもあります。実は私が経営していた会社でも高卒を正社員のゲームデザイナーとして採用したのですが、プロの声優としての活動やその他創作活動の実績があったからで、とても特殊なケースです。特に大変な事情や特殊なスキルがない限りは大学や専門学校に進学することをおすすめします。

・学生時代にゲーム開発の技術以外に学ぶべきことはありますか?

まず、英語を必ずやってください。この業界でも英語を毛嫌いする人や、英語の不要性を主張する人を見かけますが、それは日本国内でよほど恵まれたポジションにいる人か、全く危機感のない人のどちらかなので参考にしないでください。できないと本当に損します。まず、ゲーム開発に関する学習のソースは英語の方が圧倒的に多いです。欧米のゲーム産業には業界全体で知識を共有する文化がずっと前からあったからです。また、今後は国内でコンソールのAAAゲームを作れる会社はずっと減ることでしょう。インディゲームに対する投資環境も欧米の方がずっと恵まれています。スマフォガチャゲーム以外を作りたいのならば、将来的に海外に行くことを視野に入れなければなりません。海外のゲーム会社の日本支社も増えていくとは思いますが、そこでも同様に英語が求められます。

また、英語・日本語に限らず「言葉」の勉強を意識してください。とにかく言葉を知らない、文章を書けない人があまりにも多いです。レポートやエッセイを書くトレーニングを積んでください。人前で発表したりディスカッションする経験も積んでください。人付き合いをしなくても良いので、人に対して話をするスキルだけは絶対に身に付けましょう。逆に友達付き合いの中の会話や言葉遣いだけに慣れないように気をつけましょう。コミュニケーション能力とは社交スキルのことではありません。あなたのことを知らない人にも伝わる言葉を持たないとゲームデザインの仕事は難しいです。

・学生時代にインディーゲームや同人ゲームを作った方が就職に有利ですか?

これに関しては、「評価はされるけどそれだからと言って確実に就職できるわけではない。」と言えます。学生の間にゲームデザイナーの仕事を一通り体験していることや、一つの作品を努力して作り上げたこと自体は評価されると思いますし、やって損はないでしょう。その一方で、同じような業界未経験の学生同士で自己流のゲーム開発を行うことについては、学習効果について疑問もあります。あなたが大学生活の4年間を費やして1つのゲームを作って学んだことを、大手のゲーム会社の最初の3ヶ月の研修で学べる場合もあります。また、業界側からすると、就職したら否が応でもゲーム開発漬けになるので、学生のうちはそれ以外の世界を体験しておいて欲しいと願う価値観もあります。学生のうちからゲーム開発に挑戦してみること、そして途中で飽きずに完成まで続けること、それ自体はゲームデザイナー適性の確かな証拠となるでしょう。しかし決してその成果の上に胡座をかいたり、学生生活の他の可能性を軽視しない方が良いでしょう。

■会社選びに関する質問

・スマフォゲームの仕事はしたくありません。新卒でコンソールゲームのゲームデザイナーになることは可能ですか?

可能性はあります。コンソールゲームのみを開発をしている会社が新卒採用していますし、両方の開発を行っている会社でも、募集要項にコンソールかスマフォか明記している場合もあるので、よく調べると良いでしょう。また、東京というのは土地柄どうしても利益率の高い産業に流れやすい傾向があるのでスマフォゲームの会社が多くなりますが、その一方で大阪や福岡だと伝統的にコンソールゲームの開発を続けている会社が多いので、そちらでの就職活動を視野に入れると良いと思います。

・コンソールのAAAのゲームが作りたいのですが、海外の会社に行くしかないですか?

日本でも少数ですが、AAA規模のゲームを作っている会社はありますし、海外の大手ゲーム会社の日本支社でも同様にAAAへの参加機会があります。日本の大手のゲーム会社の場合はAAAと同時にスマフォゲームも作っていてそっちに回されてしまうケースもあると思いますので、どちらかというと海外の会社の日本支社を狙うのが良いでしょう。(ただし、2社くらいしかないと思います。)本当にどうしてもAAAの開発に参加したいという場合は、海外に行くしかないと思いますが、現地の大学を出ていないと新卒での就職は厳しいです。AAAにこだわりがなければAA以下の規模のコンソールゲームを開発している会社なら日本にも多いと思いますし、まずはそういうところで経験を積むのが良いと思います。

・スマフォゲームの会社に入ったらコンソールゲームの会社に転職するのは難しいですか?

スマフォゲームの開発しか経験していなかった人がコンソールゲームの開発会社に転職するケースはありますが、仕事内容によります。もし、スマフォゲームの運営よりのポジションでガチャの内容を考えたり、あるいはスプレッドシートの数値を調整するだけの仕事ばかりしていたらコンソールゲームの開発現場に必要なスキルや経験が不足していると判断されるでしょう。一方で、ゲームメカニクスを設計したり、ゲームプレイを実装するのに必要なスキルはスマフォもコンソールも変わりありません。また、UnityとC#による実装などテクニカルなスキルがあれば、コンソールの現場で使われるUnrealやその他ゲームエンジンを用いた仕事で応用可能です。そのような仕事の実績を証明できればコンソールゲームの会社でも歓迎されることでしょう。

・ゲーム会社に就職せずにインディーゲームを作って生計を立てることは可能ですか?

その質問は「バンド活動で生計を立てることはできますか?」という質問や「週刊連載の漫画家になれますか?」という質問に等しいです。いずれも「売れたら可能です。」としか言いようがありませんし、あなたがこれから作るゲームが売れるかどうかは私には分かりません。この日本において就職せずにインディーゲームに全てをかけるのはおすすめしません。稀に成功する人もいますし、そういう人を見ると自分にもできるかもしれないと思うのは分かりますが、その裏には無数の失敗例があることを意識してください。日本における最も大きな問題は、インディゲームの資金調達環境の乏しさです。海外では、産学官の連携により、大学生のインディゲームプロジェクトに資金提供して起業を支援する仕組みなどがありますが、日本では皆無です。インディゲームを取り扱うパブリッシャーも非常に少ないので、ディベロッパー側の自己負担がとても大きいです。ここまでは事実であり、ここから先は私の意見を述べますが、日本の環境の最大のメリットはやはりゲーム会社や雇用機会がとても多いことだと考えます。東京にスマフォゲームの会社ばかり偏りがちだという問題があったりもしますが、少なくともプロのゲーム開発者として経験を積む機会は欧米の先進国と比べても多く、まずこれを利用しない手はありません。働き方改革も進んだおかげで、ゲーム会社に勤務しながらプライベートな創作活動を続けられる可能性も増えています。自分のインディーゲームプロジェクトを立ち上げるのは、「給料を貰いながらゲーム開発を学ぶ」経験をした後でも遅くはないでしょう。海外のゲーム会社に転職して、投資環境の充実した環境に移住してからでも良いでしょう。

・大手パブリッシャーの開発部門に就職するメリット/デメリットは何ですか?

まず、AAA規模の開発に関われる可能性が高いです。人気のあるゲームに関わることができるのもモチベーションが上がることでしょう。また、大手パブリッシャーの社内にはR&D(研究開発)を専門に行う部署があり、門外不出の開発技術を目にする機会が多いです。新しいハードを目にするのも早いと思います。人材の質に関しても、大手の会社には超一流のプログラマーやアーティストが集まるため、その人たちと一緒に仕事をすることで良い影響を受けるでしょう。上場企業の場合は、コンプライアンス意識も高く労務管理もしっかりしているため、無理な残業や休日出勤で疲弊することも少ないです。一方、デメリットとしてはゲームデザイナー/プランナーの数が多すぎるため、プロジェクトの中で中心的な仕事を任せて貰える機会に乏しいです。また、会社によっては「プランナー=管理職候補」という位置付けで、アーティストの仕事の管理などゲームデザインとは関係ないマネージメント寄りの仕事ばかり振られるリスクもあります。安定したキャリアパスと引き換えにチャレンジの機会は減ってしまうかもしれません。平均的にはメリットが上回ると思いますので、会社を選べる実力や入れる機会があるならば、迷わず大手に入った方が良いでしょう。

・中小ディベロッパーに就職するメリット/デメリットは何ですか?

一番のメリットは「社長や組織の中心との距離が近い」ことです。努力が認められればすぐにプロジェクトの中心的な仕事を任せてもらえるようになるでしょう。また、大手ほど厳密に分業しないので、幅広く様々な仕事をできる可能性もあります。例えば、プログラミングスキルのある人ならプログラマーの仕事と兼任できるケースもありますし、小規模なプロジェクトでディレクターに抜擢されるチャンスもあるでしょう。一度ディレクターを経験すれば大手パブリッシャーのディレクターの中途採用に応募することも可能になります。とにかく社長や中心メンバーとに実力が認められれば大手ゲームパブリッシャーに入るよりも早く出世できると言えるでしょう。一方で、デメリットもその「社長や組織の中心との距離が近い」ことです。社長や古参社員の影響力が大きすぎるため、広く通用するゲームデザインの理論よりもその人たちの主観を教えられてしまうリスクがあります。また、そのような中心メンバーとの人間関係がうまく行かなかった場合、仕事に対する悪影響が大きすぎます。距離が近すぎる上下関係の中で、残業や休日出勤に付き合わされるケースもあります。中小ディベロッパーでゲームデザイナーとしてキャリアアップできるかどうかは相性や運に左右されると言えるでしょう。

■最も重要な質問:学生は業界人とどうやって知り合えば良いですか?

結局のところ、本記事を読むより最も確実なのは自分が入りたい会社、自分がなりたい職種の人に直接話を伺うことです。しかし、昨今のコロナ禍において学生と業界人が交流できるイベントの数も減っております。また、地方在住者の場合、普段からゲーム会社の社員との接触の機会が限られます。そこでTwitterやFecbookなどのSNSで交流するしかありませんが、ただTwitterで有象無象のゲーム業界人をフォローしていっても価値ある交流の機会は生まれないでしょう。また、学生がいきなり業界人に声をかけるのは失礼だと感じて、躊躇する人もいるでしょう。一つポイントがあるとしたら、プロフィールを見て実名と実績を公開している人を中心にフォローすることです。私も含めて実名でSNS活動している人は、交流に積極的な傾向、他人からの質問に対してオープンな傾向があると見て良いです。そういう人に対して自分の作ってるゲームやその他創作物について意見を伺うところから交流を始めたら良いのではと思います。少なくとも私はそのようなアプローチを失礼だと思いませんし、可能な限りは反応すると思います。 

■質問をお寄せください

今回のこの記事で全ての疑問に答えられているとは思いません。ここに書かれている以外にも聞きたいことがありましたらお気軽にコメントください。重要な質問についてはあとから記事に追記するつもりです。                                                                 

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