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メジャー代理人の「契約交渉」以外の仕事

代理人は選手の契約交渉だけの割り切れた仕事ではありません。おこがましいかもしれませんが、「人生のパートナー」でなければなりません。選手がお金をたくさんもらえたらOKではなく、ケガをしたときには信頼できる医師のもとを一緒に訪れ、リハビリ施設も探します。
(代理人だからこそ書ける 日米プロ野球の契約の謎 /長谷川 嘉宣)


『代理人だからこそ書ける 日米プロ野球の契約の謎』を読んだ感想、第2回です。


前回の感想はコチラ↓


日本のプロ野球にしろ、メジャーにしろ、契約更改のときに登場する『代理人』って、実は契約交渉以外のいろんな場面で、選手のサポートをしていました。

そのサポートが活躍につながれば、年俸に反映されて、最終的には代理人の懐も潤うので、別に代理人が聖人というわけではないのですが。

ただ、たまたまスポットライトを浴びるタイミングが契約更改なだけで、実は『選手の活躍』という目的のために代理人はあの手この手を尽くしているという側面は、今回の本を読んで初めて知りました。


その具体例として、本中に登場した2人の選手を紹介します。

きょうは1人目の、日本ではダイエー(現・ソフトバンク)や阪神、アメリカではマリナーズでプレーした、城島健司さん。

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引用:https://www.jiji.com/jc/d4?p=mlb012-jlp05220610&d=d4_bb


城島さんはダイエーにドラフト1位で入団した後、強打の捕手として活躍。

そして2006年には、FAでマリナーズへ移籍します。

その後、2010年から帰国して阪神でプレーして、12年のシーズン終了後に引退しました。


著者の長谷川さんいわく、城島さんはお金に固執するタイプではなく、期待に応えてプレーすることを意気に感じるタイプです。

実際、2012年に引退した際には、2013年の契約がまだ残っていたにもかかわらず、『期待に応えるプレーをすることができない』という理由で、2013年分の年俸を球団に返して、引退しました。

マリナーズから阪神へ移籍する際も、打撃不振をきっかけに、マリナーズでの出場機会が減少したことが、大きな理由となりました。

だから、阪神を選んだ理由も『阪神が自分(=城島さん)を必要としてくれていたから』なのですが、当時、城島さんが日本球界に復帰するなら、古巣のソフトバンクだろうという空気感が、日本にはありました。

城島さんが日本球界復帰も視野に入れているという情報が流れたとき、もちろんソフトバンクも獲得に動いたのですが、長谷川さんいわく、ソフトバンクの熱量はそれほど高くなかったようです。

動いたのは、『城島さんが欲しかったから』ではなく、獲得の意思を表明して動いているフリをして、ファンからの『どうして城島を獲りにいかないんだ!』という批判を防ぐためでした。

対照的に、阪神は本気で城島さんを欲しいと思っていたので、年俸面でもとても好条件なオファーを出しました。

城島さんへの期待度は明らかに阪神のほうが大きいのですが、そういった熱量の差を、ぼくたちファンがニュースから知るには限界があります。


だから長谷川さんは、もしここで城島さんがソフトバンクではなくて阪神を選んだら、世間から『どうして恩のあるソフトバンクに復帰しないんだ!お金が欲しいからか!』というマイナスのイメージ(しかも事実とは異なる)を植え付けられかねません。

そこで長谷川さんは、城島さんが日本へ復帰する際には『お金ではなく球団の思いに応えて阪神を選んだ』という発信を丁寧にすることに、最も注力したそうです。

金額にかかわらず、城島さんがソフトバンクからのオファーを受けなければ、「裏切り者扱い」されるリスクもありました。(中略)
代理人としても、城島さんが「お金ではなく、球団の思いに応えた」ということをしっかりと発信し、イメージ低下は避けなければなりませんでした。城島さんの日本球界復帰に際し、最も注意を払った点でした。


この箇所を読みながら、『これは年俸交渉の代理人だけじゃなくて、広報の代理人もやってるじゃん!』と思いました。

以前読んだ『戦争広告代理店』を読んだときさながらの緻密な戦略が、そこにはありました。


今回の例で言えば『城島さんの世間からのイメージ』って、代理人の報酬に直接関わる『選手の年俸』とは、だいぶ距離が遠い感じがします。

ただ、単に選手の年俸が上がるから下がるからといった割り切れた理由ではなく、もっと広く、できる限り選手が快適な環境で、少しでも活躍できるよう、全面的にサポートをするのが代理人の役割なのだなと思いました。

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