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メジャーの代理人は、2~3割のクライアントからしか報酬を受け取っていない

先日の筒香選手をはじめとして、今季も多くのプロ野球選手が、ポスティングシステムを活用してMLBへ羽ばたこうとしています。

そして、ポスティングに関連したニュースで、選手名と同じくらいの頻度で登場すると言っても過言ではないのが『代理人』。

日本だと松坂大輔や菊池雄星の代理人を務めた(務めている)、スコット・ボラス氏が一番有名でしょうか。

今回は、日本人ながらMLB選手会公認エージェントを務める長谷川 嘉宣(はせがわ よしのり)さんの著書『代理人だからこそ書ける 日米プロ野球の契約の謎』を読みました。


いまの予定では3回に分けて感想を書く予定なのですが、初回のきょうは『えっ、スポーツエージェント業って、思って感じと違う!』がテーマです。


ぼくの印象では、代理人のビジネスモデルって、選手のほうからエージェントの事務所に『自分の契約を担当してくれないか?』と依頼が来て、実際に大型契約を勝ち取り、その一部を成果報酬として受け取る、どちらかと言えば『少量高単価』な形だと想像していました。

しかし実際のところは、イメージとは大きく異なり、実に『博打感』の強い、かつ非常に泥臭い業種であることが伝わってきました。


というのも、例えば著者の長谷川さんが代理人として所属するオクタゴン社の場合、クライアントとして契約している約200人の選手のうち、オクタゴン者が成果報酬としてお金を受け取ることができているのは、2~3割程度しかいないのだそうです。


本中に書かれていたメジャーとマイナーの給料の仕組みを簡潔に書くと、まずメジャーに上がることができれば、最低年俸が保証されます。

ただ、メジャーに昇格してからメジャーの在籍期間が3年に達するまでは、年俸調停の権利を得ることができません。

つまり、メジャーに昇格してから、3年間は、実質的に球団側の言った値段に従う必要があります。

去年のオフに、大谷翔平の年俸が7,200万と報じられて『安すぎる!』と少し話題になりましたが、あれは大谷がまだメジャーの在籍期間が3年未満で、大谷側に年俸調停の権利がないからです。

また、最低年俸分は代理人の手腕ではなく、単なる制度によって保証された給料なので、最低年俸分から、代理人は成果報酬を請求することができません。

最低年俸+αのαの部分からだけ、代理人は成果報酬を請求することができます。

そして、マイナー選手からは代理人報酬を受け取りません。


こうなると、代理人が成果報酬として大きな額を受け取るためには、マイナーからメジャーに昇格して、3年以上メジャーに在籍して、そして年俸調停の権利を得たときに強気に交渉ができるくらい良い成績を残している選手という、めちゃくちゃハードルの高い条件を満たさなければならないのです。

こうなると契約している選手のうち、大きな額の代理人報酬を受け取れるのは、もう自然と2~3割程度になってしまいます。

一部の人や企業からの売上が、その会社の大半の売上を占めているこのバランス感、ものすごく芸能事務所だったり、VCだったりに近いものを感じました。

とても博打感が強く、かなり属人性も高いビジネスモデルなので、長続きさせることは難しいそうです。

アメリカはスポーツ産業が盛んでスポーツ好きが多いです。投資家にもスポーツ好きが多く、代理人事務所の経営に乗り出しますが、実際は他の業界と違い利益率の少ないビジネスモデルのために長続きせず経営が立ち行かなくなることが多いです。(本中より引用)


それくらい競争の激しい事業領域なので、必然的に『大型契約を勝ち取れそうな若手選手』の見極めが非常に重要になってきます。

そうした選手と一人でも契約することができれば、マイナー時代の先行投資は一瞬で回収できますし、経営的にも助かります。

だから、各代理人事務所は必死に有望な若手選手に対して、営業をかけるのだそうです。

『おれの事務所と契約しないか?』と。


そして、仮に最初に違う事務所と契約しても、代理人契約はルールとして複数年契約が禁止で、契約期間中でも書面で契約を解除することができるので、『事務所の乗り換え』が珍しくありません。

そのため、事務所同士の水面下での非常に泥臭い『営業合戦』が常に行われています。

『他社の悪口を言う』と言った非常に原始的な手口も駆使されていたのは、驚きでした。

将来有望な選手であればあるほど他社からの誘いは多く、たとえば先述のフェルナンデスのケースでは、2005年にメジャーでデビューする前から長期契約を結ぶ前は、遠征地など彼の行くところには常にある大手事務所のスタッフがいて、ヘルナンデスと話をする機会をうかがったり、様々な手を通じて売り込むをかけて、オクタゴン社に対してネガティブキャンペーンをしたしして代理人とかえるようにプレッシャーをかけていました。(本中より引用)


こういった嫌がらせに対して、オクタゴン社は3名のスタッフが交代でヘルナンデス本人に同行して、他社からの接触を阻止するなんていう記述もその後にありました。


ということできょうは、『メジャーリーグの代理人』って、普段のニュースで見ているとものすごく華やかでお金持ちな職業のイメージだったんですが、実際にはとても博打感のあるビジネスモデルで、各社少しでも打率を高めるための努力として、非常に泥臭い攻防戦が行われているんだなという話でした。


栗山監督の本を読んだ感想も、合わせてどうぞ!


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