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[ちょっとしたエッセイとおしらせ]一寸先にある未来

 昨年末、1カ月ほど、ちょっとしたアルバイトをいた。年の瀬の週末だけの、なんだか特別な時間に働くのはなんだか悪くないといのが、働き終わっての感想だ。
 電車に乗って、各駅停車しか停まらない駅で降りる。仕事場は、住宅街の中にある古い木造の家で、ガラガラと扉を引くと、ミシンの音とシンナーの香りがした。仕事内容は至ってシンプルで、ハサミで革を切り、仮止めのためのテープを貼ったり、たぶん教えられれば誰でもできることを、ひたすら何時間もやり続けた。手袋をはめて、分厚い革にハサミで切れ込みを入れる。数秒単位で繰り返されるが反復作業は、一瞬我を忘れてしまう。気がつけば機械のように、無我の境地で体が動く時がたまにあった。職人のようにきれいにはできないが、仕事としては最小限の役には立ったような気がする。流れるラジオ、時計の進む音、たまに聴これる鳥のさえずりなど、普段サラリーマン生活をしていると聞こえてこない音が、幾重にも重なって、耳に入り、なんだか「働く」ってことと、「生きる」ってことの実感が湧いてきた。こうやって、体を動かし、ひたすら働くのはいつぶりだろうか。

 会社員の僕にとって、常に一寸先のことに気を揉ませながら働くことに慣れすぎていた。夢中で遊ぶことを避けて、帰りの電車の時間を気にしながら過ごしてきた。明らかにすべてのことに「お尻」をつけて、勝手に次の「心配」をするようになってしまった。学生の頃は、「嫌な仕事をするなら、自分が好きな仕事を選んでやる」と息巻いていて、そして何より社会に縛られないと誓って自由を求めていた割に、「それってどうなの?」「そこまでしないとダメなの?」とか思いながら、少し軽蔑していた普通の『大人』になってしまっている。
 社会人になってから、すでに四半世紀近くが経ち、大体が好きでもない仕事に振り回されて、気がつけば首にヘルニアを抱えていた。すべてが後悔の連続のような、ごくつまらない25年のような気もしている。胃をキリキリさせながら、血を吐くように酒を飲み、仕事が好きだという友人がいる。そんな彼と話をすると、お前はもっとがんばれとか、もっと真剣に考えて働けとか言われる。どちらかというと、主張は控えめに、長いものに撒かれるタイプの人間で、組織にいると、「言ったもん勝ち」な部分が多いこともあるので、不満を抱えながらなんとかやり過ごして、すっきりしないまま物事を進めすぎた。だから、すべてが消化不良で、でも次から次へといろいろなものを抱えちゃう。っていう感じなんだなと改めて思う。しかし、これはどこに居場所を持っていてもある程度は同じで、仕方がない。ならいっそのこと、生活と切り離してしまうのがいいのかもしれない。なんて思い始めたのは、30代も半ばを過ぎたころだった。
 会社員としての自分の他に、何か熱中できる自分はいないだろうかと考えた時に浮かんだのは、文章を書くことだった。ちょうどその頃、雑誌編集の仕事をしていて、取材をしたり、原稿を書いたりしながら、なんとなく書くことの楽しさみたいなことに気づき始めた時期でもあった。だから、人生で最初で最後かなと思いながら、小説を書いてみた(未だ自分のパソコンに眠り続けているのだが)。10万字を目標に書いてみたのだが、作品の良し悪しは別として、書き切った時の充実感はとてもよいものだった。そして、今はnoteを通して、週に1度投稿を続けている。毎週の締め切り(自分ルールですが)は、結構きついが、なんとか今も続いているのは、やはりそれが楽しいことなんだという証拠でもある。細々と、毎週続けている自分を褒めつつ、ここから先はどうしていこうかなという課題もあったりする。

 アルバイト先の職人が、こう言っていた。「とりあえず、思いつくものは形にしてみるもんですよ」。それが失敗であっても、いいそうだ。自分の描ける想像と、それを形にする技量のバランスが大事らしい。どちらかに偏っていると、この世界では生きていけないとも言っていた。アルバイトが終わる時、お土産にと出来上がった革のポーチをもらった。この一部には、自分が入れた切れ込みがあって、しっかり機能している、はず。それを見ていたら、ちょっと元気になった。
 働くの原理には、やはり「形」にすることがあるんだと再認識をした。一生懸命に体を動かして、作り上げた結果を見た時に、大きな喜びがある、至極当然のことを人は忘れがちだ。サラリーマンをしていると、会社の歯車に位置するので、どうしてもその実感を感じにくいし、思うようにならない。そのままならなさは、そっと心に留めつつ、自分の手の中で得られる喜びを見つけてみようと思う。

 ここからはちょっとおしらせです。この春に、ZINEを発刊しようと考えていて、現在絶賛編集中です。はじめてのことばかりで、1人でワナワナしてて、わからないことだらけで進めております。もしZINEを作るにあたり、よい情報などありましたら教えてください。また、興味のある方はおしらせください。どうぞよろしくお願いします。

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