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秋桜と紅葉 #シロクマ文芸部

秋桜コスモスになれるかな……」
前を歩く彼の背中に、私はそっとつぶやいた。
彼は振り返りもせず歩き続ける。
聞こえなかったようだ。
私は少しホッとして、そして少しがっかりした。

私の姉であるさくらの結婚式に参列した帰り。
秋晴れの雲ひとつない天気の中、紅葉がきれいな道を彼と一緒に歩いていた。

さくらと彼は小学校の同級生。
近所に住んでいたこともあり、さくらは彼とよく遊んでいて、私も時折り混ぜてもらっていた。
私は兄ができたようで嬉しく、一緒に遊ぶのをいつも心待ちにしていた。
その気持ちが、恋心に変わったのは、いつからだったろうか。

しかし、彼はさくらにずっと想いを寄せていた。

さくらがバージンロードを歩く姿を、精一杯の笑顔で見送る彼の顔を見て、私は自分が秋桜になればいいと思った。
桜の花に似ている、秋桜。
私を見ることで、姉のさくらの面影を彼が思い出してくれればいいのだ。

「……じゃないよ」
彼が何か話していると気づき、物思いにふけっていた私は、慌てて顔を上げた。
「え…」
「秋桜じゃないよ」
目の前に、彼の優しい笑顔があった。
「君の名前はこれでしょ。ほら…」
彼が拾い上げて見せたのは、鮮やかな赤色の葉。

私の名前であるかえでの色は、見ているうちに少しずつ、にじんできた。
それが私の涙のせいだと気づいたのは、しばらくしてからだった。

小牧幸助さんの企画に参加させていただきました。

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