ラストパス #シロクマ文芸部

文化祭の日、私は憂鬱だった。

昨日、私たちバスケ部は県内の強豪校と対戦していたが、必死にくらいつき、一点差まで詰め寄っていた。
残り一分。ボールを持った私は、シュートのチャンスを窺う。そのとき、キャプテンがゴールの方向に走るのを視界に捉えた。
「カオリ!」
キャプテンが叫んだ。私はパスをキャプテンに出す……と見せかけて、シュートを打った。
シュートは惜しくも外れ、試合終了のブザーが鳴った。

文化祭でバスケ部は、カフェを開いていた。
タイミング悪く、キャプテンは同じシフトに入っている。

なんでキャプテンにパスを出さなかったんだろう?

私は接客で忙しい振りをしながら、ドリンクを作っているキャプテンと少し距離をとっていた。

「結構お客さん入っているんだな」
ひときわ背の高い、男子生徒が入ってきた。
バレー部のエースの人だ。この人はキャプテンの同級生で、確か……。

私は、彼が注文したそうにしているところを視界に捉えたが、別のお客さんに呼ばれた振りをして、
「あちらの注文、お願いできますか?」
とキャプテンに声をかけた。

キャプテンは顔を真っ赤にしながら、バレー部のエースのところに向かっていった。
遠目で分かるくらい、緊張しながらキャプテンは注文を聞いていた。
彼が何やらキャプテンに話しかけている。
昨日惜しかったな、という言葉が聞こえてきたので、もしかしたら試合を見にきていたのかもしれない。

話を終えたキャプテンがこちらに向かってきた。
「カオリ……」
「……はい」
「……ナイスパス」


小牧幸助さんの企画に初めて参加させていただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?