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カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote

失恋した私は、傷ついた心を抱え、いきつけのカフェに立ち寄った。

ぼんやりと注文もせずに座っていた私に、マスターが紅茶を運んできた。
「少し待つことになりますが、蒸らすと美味しくお召し上がりになれますよ」
「どのくらい待てばいいんですか?」
心遣いのお礼を言いつつ聞くと、マスターは砂時計を机に置いた。
「この砂が落ちきるまで待ってください。4分33秒かかります」
「……ずいぶん細かいんですね」
「はい。この茶葉は、蒸らす時間として4分33秒が最適なんです」
「そうですか……」
「…そして何か特別な思いを断ち切るのにも、最適な時間です」
マスターがにっこりと微笑む。

私は砂が落ちるのを見ながら、初めて彼と会ったときのことを思い出していた。
初めて映画を見たこと、初めての旅行、それから……。

気づくと砂時計の砂が、残りわずかとなっていた。
まだ彼との思い出はいっぱいある…。
私は慌てて、砂時計をひっくり返す。
隣を見るとマスターが頭を抱えていた。

たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。


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