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<SS>過去に自分の心がポジティブになった瞬間を探して、自分の素晴らし歴史を作る 


1.取り越し苦労タイプ

瑛太えいたは大学の図書館で窓の外をぼんやり見ていた。心が重くて、自己肯定感が低いことに悩んでいた。

「なんで俺はこんなにダメなんだろう…」

そんな時、美月みつきがやってきた。彼女は瑛太と同じ大学の友人で、いつも明るく元気な子だ。

「瑛太、どうしたの? 顔色が悪いよ」

「うーん、なんか俺、いろんなことに自信が持てなくて…」

「え、そうなの?瑛太が自信がないなんて、なんか似合わないな」

「俺、いつも元気に振る舞ってるけど、心の中は常にモヤモヤしてるんだよ」

「ほんとうに?」

「うん。なんていうのかな?たとえば、提出したレポートを褒められても、『もっとやらないといけないな』って思って、なんだか不安になるんだよな」

「あー、それって、 “取り越し苦労タイプ” っていうのかも」

「え?なにそれ?」

「子どもの頃にあまり褒められなかった人が、大人になってから、いくら褒められても『もっと頑張らないといけない』と思い続けて苦労するタイプなんだって」

「あー、そっか。俺の両親厳しかったからな。テストで良い点を取っても全然褒めてくれないんだもん。ダメ出しもよくされたし」

「 “取り越し苦労” の人って、もっともっと上を目指さないといけないって思うから辛いらしいよ」

「まさしく俺がそうだよ。だからたまに疲れちゃうんだな」


2.自己肯定感を高める方法

翌日、瑛太と美月は再び大学の図書館で遭遇した。美月はニコニコしていた。

「美月、どうしたの?なんか嬉しそうだよ」

「実はね、瑛太。昨晩、心理学に詳しい友達とLINEで話していて、君の悩みについてちょっと相談したんだ。そしたら、自己肯定感を高めるための素晴らしい方法を教えてもらったの」

「本当に?それって何?気になるな」

「じゃあ、教えてあげるね。瑛太、自分の過去を振り返って、心がポジティブになった瞬間を探してみて。例えば、『私、結構やれるじゃん』と感じた瞬間を」

瑛太は一瞬、目を閉じて思索にふけった。

「瑛太、思い出せた?」

「うーん、いきなりだから難しいな。すぐには出てこないよ」

「大丈夫、何でもいいから。私なんて、小学校で逆上がりができた瞬間を思い出したんだ。あの時は一瞬で自信が湧いたな。『私、できるじゃん!』って感じたの」

「そんな簡単なことでいいのか」

瑛太はしばらく考えた後、遠い記憶を引っ張り出してきた。「幼稚園の頃かな。自転車の補助輪を外す練習をして、最初は全然ダメだったんだ。でも、突然乗れるようになったんだよ。その瞬間、『やった、できた!』って思った。それが自信につながった。今、その時の気持ちを思い出してみると、美月と同じで『俺ってできるじゃん!』って感じだよ」

「そう、まさにその感覚。『私、実は結構できるんじゃない?』と感じたとき、心が軽くなるの。それが自信に変わる。そういったポジティブな瞬間を積み重ねることで、自己肯定感が高まるんだよ」

美月はさらに熱を込めて語り続けた。「だから、思い出を積極的に集めていこうよ。思い出したら、その都度その内容をスマホのメモに入れておくの。それと、時系列で思い出すと、よりスムーズに思い出せるらしいよ。小学校の頃、中学校、高校と、そして現在まで。段階を追って振り返ると思い出しやすいんだって」

ふたりは思い出を集め始めた。


3.ポジティブな思い出集め

「そういえば、中学の頃、英語の定期テストで100点をマークしたんだよね」瑛太が自慢げに振り返った。

「私は高校時代、文化祭での演劇で主役を演じきって、かなりの称賛を受けたわ」美月も続けて自分の誇りに思った瞬間をシェアした。

瑛太が何かを語れば、美月もそれに応える。その逆も然り。この相互作用で、ふたりは次第に多くの思い出を引き出していった。

「頑張った瞬間や褒められた経験を振り返るのも素晴らしいけど、『ありがとう』と言われた瞬間も大事にしてね。『ありがとう』って、実は最高の褒め言葉なんだよ。だって、その人が瑛太に『ありがとう』と言ってくれるってことは、瑛太の行動が評価されてるってことだから」美月は、昨日友達から教わった知識を付け加えた。

ふたりは、思い出した自分たちの「素晴らしい瞬間」を次々と語り合い、それをスマホのメモに入れた。


4.素晴らしい歴史の完成

「かなりの数、思い出せたね。次はスマホのメモに入れたのを時系列に並び替えようよ」美月は自分のスマホのメモを瑛太に見せながら実践した。

瑛太は美月の方法を参考に、自分の人生のハイライトを時系列に並べた。
 ↓ ↓ ↓

幼稚園 - 補助輪なしで自転車に乗れた
小学校 - 泳げるようになった
小学校 - 運動会でリレーのアンカーに抜擢
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中学校 - 英語の定期テストで100点をとった
中学校 - 部活でリーダーシップを発揮した
中学校 - 『字がきれい』と先生に褒められた
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高校  - アルバイトを一生懸命頑張った
高校  - 電車の中でおばあちゃんに席を譲り、『ありがとう』と感謝された
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大学  - 落ち込んでいる友達を励まし、『ありがとう』と言われた
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瑛太の多彩なエピソードが、年表のように整然と並び、彼の「素晴らしい歴史」が完成した。

「瑛太、すごいじゃん。これが君の素晴らしい歴史だよ。これを定期的に眺めることで、自己肯定感が高まるんだよ」

「本当だね。これを見ていると『俺もなかなかやるじゃないか』って思えるよ」

「これが言葉の力だよ、瑛太。君の人生において、過去に受けた言葉が自己認識を形作っているの。だから、否定的な言葉に囲まれると自己肯定感がどんどん低くなってしまう」

「確かに、その通りだね」

「だからこそ、逆のアプローチを取るの。自分に対して肯定的な言葉を掛けることで、心の中のバランスを取り戻すの。実は、瑛太も私も、誰もが過去に数多くのポジティブな瞬間を経験している。その瞬間を忘れてしまっているだけなんだよね。だから、その素晴らしい瞬間を思い出して、それを自分の歴史として認識することで、自己肯定感が自然と高まっていくんだよね」

「うん。なんだか自信が沸いてきたよ!ありがとう!」

「私も瑛太のおかげで、この素晴らしい方法が知れたよ。ありがと。私もこれからもポジティブなことを思い出したらメモに入れる。今後ポジティブなことがあったときもメモに入れようと思う。そして自分の素晴らしい歴史をどんどん更新していこうと思うの」

「おー、いいねー!俺も一緒にやるよ。お互いに素晴らしい歴史をどんどん更新していこう」

「私たちの素晴らしい歴史の始まりだね」美月は目を輝かせて言った。

「なんだかワクワクしてきたな」瑛太も続いた。

ふたりの希望に満ちた旅が始まった!そして、この瞬間から、新たな素晴らしい歴史が刻まれることとなる。お互いにポジティブな瞬間を大切にし、最高の自分を目指していく。それが、瑛太と美月の新しい章の始まりだった。



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