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変な姉妹。 中編①

俺には、姉と妹がいる。 姉の名前は麻衣。 異常と言っていいほどに俺を愛している。 世間一般で言うブラコンというやつである。 姉ちゃんもいい歳なのだから早く弟離れをして良い相手を見つけてほしいものだ。 妹の名前は飛鳥。 こちらは姉ちゃんとは打って変わって、素っ気ない対応をよく取られる。 子供の頃はよくくっついてくれていたんだけど、高校生になってからはそんなことは全くなくなった。何だか寂しい気持ちだ。 ───これは、そんな姉妹のお話。 「〇〇~!」 いつものように

    • Sugar Salt #4

      「遠藤さん?お酒飲んだの?」 抱きつかれたまま問いかける。 すると彼女は顔だけこちらに向けた。 「すこぉーしだけ飲みましたっ」 身長差のせいで自然と上目遣いになる。 あまりにも可愛過ぎる。 …じゃない。今はそこじゃない。 「どうしてお店に来たの?」 「へ、へへっ、それ聞いちゃいますか?」 「う、うん。何なら一番気になるんだけど…」 「この時間に来たらぁ、山下さんに会えるかなぁ〜って思って!そしたら会えました!ばんざぁい!」 この子酔っ払うとこういう感じにな

      • Sugar Salt #3

        遠藤さんを送り届けた翌日、いつも通りに出勤する。 今日は遠藤さんはシフトが入っていないので、来ない訳だが…最近話す事が多かったので何だか物寂しい。 「山下さん!今日も頑張りましょうね!」 そんな折に声を掛けてきたのは優大だった。 「お前はいつも元気だな」 「そうですかね?」 「あぁ、こっちまで元気貰えるよ」 「…俺が女だったら惚れてましたよ」 「お前キショいなぁ…」 「ちょ、酷いですよ!」 そんな会話をしながら仕事に取り組む。 この日はいつもより何故か忙

        • 家族のカタチ ⑧

          “なぁ、祐希───” “本当は、皆大切なんだ。 でも、一番大切な人と一緒にいる為には、こうするしかなかったんだ。 それでも許されるなら、俺はやっぱり、家族に幸せであってほしい。 だからさ、祐希だけは、あの二人と一緒に居てやってくれないか。 あの二人を、支えてやってくれ” 地面に崩れ落ちた私は、何かを言葉にすることさえも、出来なくなってしまった。 死んでしまうんじゃないかというくらい、心が苦しくて。 死んでしまった方がマシなくらい、世界が灰色に見えてしまって。

        変な姉妹。 中編①

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        • Sugar Salt
          4本
        • 家族のカタチ
          8本

        記事

          家族のカタチ ⑦

          お父さんとお母さんの葬儀が終わって、残すところは精進落としのみとなった。 しかし、喪失感が拭えず心がモヤモヤとしていた私は、一旦落ち着こうと傘を持って外に出た。 徐々にその勢いを加速させている雨が、今だけは優しく思えた。 外に出たはいいものの、特別目的があったわけではない。 数分程適当にぶらついたら中に戻ろう。 そんなことを考えて一歩踏み出すと、私の視界に一人の男性の後ろ姿が映り込んだ。 その瞬間心がギュッと締めつけられて、呼吸すらも忘れてしまうくらいに苦しくなっ

          家族のカタチ ⑦

          家族のカタチ ⑥

          良い人達だった。 真っ先に思い浮かぶのは、真っ暗闇を優しく照らし出す月光のような笑顔。 本当の両親のように慕っていた。 脳内を埋め尽くしていく疑問も、 すぐさま悲しみが全てを覆い尽くして、涙が全てを溶かしてゆく。 俺には、涙を流す権利なんてありはしないのに───── ……… 目の前に建っている家を見て、身体が硬直していくのが分かった。 特別大きな家でもないのに、そびえ立っているようにすら見える。 「大丈夫?」 隣に立つ七瀬が心配そうに顔色を窺ってくる。

          家族のカタチ ⑥

          家族のカタチ ⑤

          〇〇を探し始めてから、一ヶ月が経った。 結果だけを言うと、〇〇は見つかっていない。 それどころか、足掛かりすらも掴めていない。 色々と手は尽くしてみたが、全て駄目だった。 LINEを送ってみても当然返ってくるわけがない。きっとブロックされているのだろう。 この一ヶ月間で随分と神経を磨り減らした気がする。 祐希も飛鳥もあの日以来明るく振る舞ってはいるけれど、時折悲しそうな表情を見せる。 何より笑う回数が大幅に減った。 当然だ、こんな状況で笑うことなんてそう出来や

          家族のカタチ ⑤

          家族のカタチ ④

          夢を見ていた。 家族皆で笑い合っている夢を。 全員が幸せそうにしていて、輝くような笑顔を浮かべていた。 七瀬が俺の元へやってくる。 “どうして、私達を見捨てたの?” ───え? それまでとは全く意味合いの異なる不気味な笑みを浮かべた七瀬の姿がスーっと消えていく。 訳が分からず呆然と立ち尽くしていると、今度は祐希が俺の元へやって来た。 祐希は小動物のような可愛らしい笑みを浮かべて俺の目を見つめている。 これは頭を撫でてほしい時のサインだ。 俺は右手を祐希の頭

          家族のカタチ ④

          家族のカタチ ③

          世界が滲んだ。 一滴一滴、滴が落ちては世界の持つ色や輪郭をぼやかしていく。 元に戻すことはもう出来ない。 頑張って似せた物を作っても、 別の美しい世界を作ってみても、 これから先、私の望む世界は訪れないのだろう。 青い空が、黒く塗り潰されていく。 どれだけ泣いただろう。 出尽くしたと思っても、涙が溢れ出してくる。 この世界は真っ暗になってしまった。 すすり泣く声だけが狭い世界に反響する。 私は今、どんな顔をしているのだろう。 きっと酷い顔をしているんだ

          家族のカタチ ③

          家族のカタチ ②

          何があっても、 もうあなたを離さない。 世界の全てが敵になったって、俺だけはあなたの味方だから。 頼りのない両腕で抱きしめるよ。 守るから、隣にいるから。 あなたは独りじゃない。 だからどうか、独りで生こうとしないで。 ─────────────── 正確なリズムで針は時を刻み続ける。 それは不変のものだし、そんなことは分かっていた。 けれど、今だけは時の流れが早くなってはくれないか─── そんなことを願っていた。 23時55分。 残りの五分が待ち遠

          家族のカタチ ②

          家族のカタチ

          ※本編をお読み頂く前に… このお話は変な姉妹。というシリーズの別の世界線のお話です。 先に変な姉妹。シリーズを読んでからこちらのお話をお読みください。 進むしかないんだ─── 歩んできた道は、崩れ落ちた。 後戻りは出来ない。 進むのは怖いけれど、 “あなたとなら” って思った。 茨の道だとしても 一寸先すら見えない道だとしても あなたが隣にいて、手を繋いで、笑っていてくれたら、何処までも行けそうな気がしたんだ。 ────────────────────

          家族のカタチ

          Sugar Salt #2

          休みの殆どを寝て過ごした俺は、翌日職場に出勤していた。 服を着替えてホールに出ると、既に遠藤さんが出勤していた。 「遠藤さん、おはよう」 「あ、山下さん。おはようございます」 心なしか、いつもより彼女の声が柔らかい。 何かいい事でもあったのだろうか。 「遠藤さんがこの時間から来てるなんて珍しいね」 いつもはもっと後に来るはずなのに。 「先月ちょっとお金を使い過ぎてしまったので、シフトを増やしてもらったんです」 「へー、遠藤さんでもそういうことあるんだね」

          Sugar Salt #2

          Sugar Salt #1

          「ありがとうございました〜」 感情のこもっていない声で何人目とも分からないお客さんを見送る。 飲食店で二年も働いていれば、こうなる。 24歳、一人暮らしのフリーター。 このワードを耳にして、一体誰が興味を持つだろう。 こんな生活をしている自分に嫌気が刺すか?と聞かれれば当然答えは “Yes” だ。 かと言って、今更就活をする気も会社員として頑張っていく気もない。 会社員になったって給料は今とさほど変わらないし、責任を背負って精神をすり減らすくらいなら、多少給料が

          変な姉妹。中編

          「あぢぃ…」 どうにかなってしまいそうな暑さと、けたたましいセミの鳴き声。 十八時を過ぎているのに、まだ外は明るい。 家まで残り僅かだというのに、どうにも歩みが重い。 小さなため息が無意識に漏れる。 汗にまみれた身体を少しでも涼ませようとワイシャツをパタパタとさせるが、大した効果はなかった。 これだから、夏は嫌いなんだ。肌も焼けるし。 春や秋の方が過ごしやすくて好きだ。四季と言わず、この二つで充分だ。 …あ、春といえば今年お花見してないな。 綺麗な桜見ておけば

          変な姉妹。中編