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外道こそ王道なり。2021年、今だから平松伸二。


はァ。つれえなァ。しんどいなァ。


と、まるで柳沢きみお青年誌移行期の主人公のように冒頭からため息をついてみる。はァ。なんなんでしょうね。「ァ」と語尾につけただけで一気に柳沢調。普通に生きててストレスを感じないことってないと思うんですよね。

矢継ぎ早にくるLINEの返信問題。ZOOMが固まって微妙な気持ちになったり。マスク付会食を推奨される現代社会。朝、席空いてるじゃんと座った瞬間、隣に座ってるおばちゃんに「ここ女性専用車両ですよ」と冷たく言い放たれた時の微妙な気持ち。「個人情報なんで」と携帯番号を教えあうこともなくSNSのアカウントのみでやりとりするのが当たり前になってしまった時代。昭和は完全に遠くなり平成すらうっすら(記憶に)霧がかかりがちになってしまいましたけど、個人的にはYouTuber独特のあの喋り方が苦手というか1番ストレスを感じてしまうんです。はァ。

そのせいなのかボクの嗜好はコロナ禍以降、急に「仁義なき戦い」シリーズとか頭から観たり、やたら韓流ゾンビものを欲したり。「ウォーキングデッド」もそうなんですけど、この手のスラッシャー&ホラー系ムービーのニーズ高まりって皆それなりにストレス溜め込んでるから観るんじゃないかしらん。そしてボクも平松伸二の「ブラック・エンジェルズ」や「マーダーライセンス牙」を欲する夜が増えた(気がする)。荒唐無稽なやつに没頭したいフィーリング。それも「ワンピース」じゃないもの。みーんなトモダチ!じゃないもんね。

平松伸二を初めて読んだのは「ドーベルマン刑事」と言いたいのだけど残念ながら違うんですよね。「リッキー台風」、「ブラック・エンジェルズ」であり、「ラブ&ファイヤー」であり、スーパージャンプ創刊時の看板作品「マーダーライセンス牙」だ。プールに入って全員全裸でミーティングって絵面が凄いじゃないですか。全裸の老人(総理)はサービスカットにもならないだろうに。だけど断じてアリ。

たとえば「リッキー台風」。指四の字に憧れなかったジャンプ読者は当時いなかっただろう。連載初回から登場したあの技は全国各地に生息したバカ小学生男子のハートを鷲掴み。そして少年誌から逸脱した「ブラック・エンジェルズ」の世界観は読んじゃいけない背徳感が作品の魅力を倍増させた。だってこれも初回から雪藤が勤務するラーメン屋の兄妹の不幸っぷり。妹、いきなり暴行受けるの巻ですから。悪人のネーミングも蛭川って素晴らしすぎる。ぱっと見粘着質ってのがわかるじゃないですか。

「ラブ&ファイヤー」はおそらくジャンプのアンケートで打ち切りになった作品だと思うんですが、ボクシングってジャンルにチャレンジした時点でボクは平松ワールドの新境地だと思いましたね。3年は連載続くと思ってたんですが。続く「キララ」では野球にチャレンジでそこに意外性を感じる読者もいたかと思いますが、そもそも平松伸二のデビューのきっかけは野球マンガですからね。なので原点回帰ってことでアリじゃないですか。たしか「勝負」ってタイトルだったはず。あと「キララ」に関しては高校野球と復讐劇をドッキングさせた時点で平松伸二にしか描けない世界になってるわけで実に惜しいマンガなんですよってここまで書いた時点で今年の3月に復刊されてたんですね。やばいな、買わなきゃじゃないですか。買う。断じて買いますよ。

「キララ」終了後、平松さんは本格的に青年誌移行ってことになりますが(途中原作つきの「モンスターハンター」挟んで)見事「マーダーライセンス牙」で復活。個人的には90年代終盤にビジネスジャンプで始めた「どす恋ジゴロ」がもう最高過ぎて。椿藤十郎ってキャラのネーミングも最高いや最強。だいたい誰も相撲取りでジゴロなんてキャラ、思いつかないじゃないですか。マンガでしか成立できない表現ってこういうことだと思う。絶対にありえない、だけど引き込まれる説得力。つい時が経つのも忘れて読み込んでしまう。これって理想的な形だと思いません?マンガかくあるべきって気がします。

クールジャパンで世界に日本のポップカルチャーを発信するのはかまわない。だけどさ、平松伸二の一連の作品発信してますかって話。してないよね?自転車のスポークを武器に悪人抹殺ですよ!「ザ・松田 ブラック・エンジェルズ」なんてリドリー・スコット監督、激賞だと思うんですけどね。もはやタイトルだけじゃ一体この作品は・・?と普通は思うじゃないですか。だけどボクはつい手に取ってしまった(単行本発売当時だから2011年頃か)。だって死んでますよね?ブラック・エンジェルズ本編では。だけどそんなことすらどうでもよくなる「いんだよ、細けえことはよ」的松田イズム。読めばわかるさ。マンガってそういう迫力大事じゃないですか。とにかく手に取れよ、読めよ、と。細けえ理屈を語る前に作品に没頭しやがれ、楽しめよと。あとファイバリット・キャラとしてあえてあげときたいのが羽死夢。あの「ワシ」って言ってるあの感じが好きだったなあ。急所を握りつぶす必殺技ってのもアリだし本編で死んでしまったはずが「THE松田」で復活してたのもよきエピソード。

梶原一騎の作品なんかもそうですよね。「巨人の星」然り、「あしたのジョー」に現実とフィクションが交錯する「空手バカ一代」もそう。あとは「愛と誠」にサンデーに連載されてた「天下一大物伝」とかどう考えてもマンガでしかなし得ない表現なんですよ。梶原作品(作画は大島やすいち)でかなり過小評価されてる部類に入りますけど、女性にホレっぽい主人公が福岡は小倉のローカル番長から芸能プロモーター、運送会社、さらに商社経営とどんどん成り上がっていく様は本宮ひろ志の「大いなる完」を彷彿とさせるし個人的にはけっこう好き。主人公の名前が無双大介って時点で読むしかないじゃないですか。最終的には「日本のゴッドファーザー」にのし上がるってのもイカす。やっぱマンガって荒唐無稽さが重要だと思うんですよね。実際やれそうで出来ないあの感じ。梶原イズムでいえば消える魔球の理論とか続く新巨人の星での蜃気楼魔球とか。絶対ないしあり得ないけど、マネしたくなるじゃないですか。アレなんだよな。


「呪術廻戦」とか「チェンソーマン」とかってすごく作品として優秀なんだと思います。ワールドワイドで戦える高品質な作品なんだろうし、ライツもしっかりしてて、とにかくコンテンツとして(収支も含めて)実に優秀。単行本の部数もきちんとコントロールし、電子書籍のセールスプロモもばっちり組み立てられていて、隙のない作りになってるんだと思う。だけどね、ボクは思うわけだ。その対極にあるものがちゃんと存在してこそのマンガの活性化はあるんだと。

「ブラック・エンジェルズ」から派生した「マーダーライセンス牙&ブラック・エンジェルズ」、「THE松田」、「大江戸ブラック・エンジェルズ」とその縦横無尽のスピンアウトぶりはもう素晴らしいとしか言いようがない。「いんだよ!細けえことは!!」なる松田イズム。そして作風の変わらなさ。読んでいてひりひり感じる背徳感。これぞマンガじゃないですか。あえて今の小学生とか読んでほしいですよ。昔のジャンプ読者が「ああ懐かしい」で読むのではなく。真夜中、家族が寝静まった時間を見計らいこっそり寝床で読む。平松伸二作品は親の目の前では堂々と読んじゃいけないと思ってた。少年誌じゃ今なら断じてアウトな表現も全部ひっくるめて全国小学生には必読の書にして欲しいですね、「ブラック・エンジェルズ」シリーズ、てか平松伸二作品は。

でも平松ワールド初心者は「ブラック・エンジェルズ」本編一択ですね。まずはそこから始めて欲しい。次が「マーダーライセンス牙」で全巻読破を義務づけたいですね。濃厚な世界観に少々疲れたキミには「どす恋ジゴロ」と「リッキー台風」で小休止。雪藤や松田に取り憑かれるようなファンになってしまったら自伝的作品「そしてボクは外道マンになる」全4巻を読破して欲しいですね。「バクマン。」で描かれるジャンプ編集部しか知らないひとは必読。あ、ジャンプ編集部だけ興味あるひとは本宮ひろ志の「やぶれかぶれ」と車田正美の「実録!神輪会」はもはや教科書レベルで読むべきマストアイテム。ふう、ここまで一気に書いてものすごく疲れてきた。でもさ、今のクールジャパンの代表格みたいなスマートでポップな少年ジャンプが日本のマンガ界に君臨してるのはかつての濃厚かつ濃密で肥大化する自意識と男性ホルモンが毎週爆裂していた時代のジャンプがあってこそ。そんな事実を頭の片隅に置いておきつつ、平松伸二ワールドに身を沈める覚悟を多くの方々には持って欲しいですね。

とここまで長々と書いてきたけど「いんだよ!細けぇことは!!」なんですよね。まずは手に取って読めよと。「オレの世界観に文句は言わせねエエエエ!!」と松田が語ってますもんね。YES!はい、その通り。

なので在宅ワーク中、仕事のグループLINEで止まらぬやりとりにストレス感じてる貴方もスマホ決済のやり方わからなくて煮詰まってる元ジャンプ読者(昭和40年代前半生まれ)、「呪術廻戦」の読み方わかんないし明朗快活な人生送ってると間違った自覚を持ってるSNSが苦手な元サンデー&スピリッツ読者(昭和40年代前半生まれ)も将来の目標はYouTuber&ゲーマーな小学生も、ゆとり教育で妙な個人情報意識を刷り込まれて彼氏も彼女も未だにいないし作れない30代前半の皆様にも、あえて読んで欲しい。雪藤や松田や木葉優児(優子じゃないときね)に椿藤十郎が溜まりに溜まりまくった皆のストレスを代行してくれることは間違いない。そう、マンガってそういう役割を果たしてたんですよ。なので細けえことはいいから読んで欲しい。きっと夢中になるよ。

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