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なんでJリーグや芸能界にはドラフトがないの?~芸能界、スポーツ界の契約形態の違いと未来を考察する

本日10月17日、プロ野球のドラフトが開催されました。
佐々木朗希、奥川恭伸、森下暢仁、西純矢・・・今年も多くのスター候補がプロ野球の門を叩きました。皆様のひいき球団は欲しい選手の交渉権を得ることができましたでしょうか。

ドラフトにはドラマがあって個人的にはとても好きなのですが、小さな頃から一つとても大きな疑問を持っていました。

「なんでJリーグとか、他のスポーツにはドラフトがないんだろう?」

本稿では一スポーツファンとして、スポーツリーグ別のドラフトの有無という観点から各業界の契約形態の違いと、今夏、吉本興業やジャニーズなどの契約問題が大きく取り沙汰された、日本の芸能界の今後の在り方を考察していきたいと思います。
なお、私はスポーツのプロフェッショナルでもドラフトの関係者でもなんでもないので考察に間違った点があると思います。実態をご存じの方や別の考え方をお持ちのかたがいらっしゃったら是非コメント頂戴できると嬉しいです。

スポーツは米国スポーツと世界スポーツに大別される

スポーツリーグはその性質により、米国スポーツと世界スポーツの2つに大別することができます。ざっくり言うと「世界で唯一無二のリーグ」が存在するか否か、という違いです。

米国スポーツはバスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)、アメリカンフットボール(NFL)、野球(MLB)が有名です。その名の通り、米国に起源を持ち、結果としていまも米国が唯一無二のリーグとして君臨しているスポーツを指します。米国スポーツではリーグが圧倒的な力を持ち、サラリーキャップ制や完全ウェーバー制、ルール改定など、リーグを盛り上げるための施策をガンガン展開することが特徴です。例えば今のNBAのスリーポイントラインはスラムダンクの三井くんの時代より1mも後ろに設定されていたりします。

世界スポーツは≒サッカー(以下、フットボール)と言ってしまったほうが日本人的には理解しやすいですね。フットボールの起源はイギリスにありますが、世界中に有力なリーグが存在しており、リーグ内での争い以上にチャンピオンズリーグやワールドカップなど、国を超えたチャンピオンシップ争いが盛り上がるスポーツです。名目上はFIFAが世界中のリーグをとりまとめていることになっていますが、米国スポーツのそれと比べると影響力は少なく、思い切ったルール変更や戦力は比較的少ないです。

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大谷翔平が7200万円で久保建英は2億円?!

米国スポーツでは戦力均衡を保つため、選手のチーム移籍や契約はリーグのルールによって厳しく制限されています。
チームに入団するにはリーグが指定するドラフトを経由する必要があり、「子供の頃から好きだった球団に」や「より高い契約金をくれる球団に」といった自由はありません。トレードと言われれば翌日には引っ越ししてその日のうちにプレーするということもザラです。選手が初めて交渉権を持つのは数年間活躍して「フリーエージェント権」を得たときです。このため米国スポーツでは選手の交渉力が弱く、「NBA ゴールデンステート・ウォリアーズを記録的な成績でのリーグ連覇に導き2年連続 MVP に輝いたステフェン・カリーがレギュラーで最低クラスの年俸だった」というようなエピソードは枚挙にいとまがありません。
日本のプロ野球も大リーグに倣ってドラフトやFAなど、戦力均衡のための各種ルールを設定しています。一部チームが牽引して立ち上がったという歴史的背景もあり、大リーグと比較するとリーグ側の権限が弱いため、米国よりも順位の変動は少ないという側面はあるものの、基本的には「リーグとしての魅力」を追求したルール設計です。

一方、フットボールは180度違います。フットボールでは最初から選手が好きな球団と好きな金額で契約し、その後も結んだ契約の範囲内で自由に移籍ができます。選手は条件が気に入らなければ違うチームに移籍することができるため、実力さえあれば年齢や実績に関わらず高い年俸を手にする機会があります。当然、チームとしては有望選手を金持ち球団に簡単に引き抜かれないよう、契約期間を長く設定しており、契約期間の途中で移籍する場合は引き抜く側のチームが元のチームに「移籍金(違約金)」を支払うようなプロセスが一般的となっています。

この両スポーツの性質の違いを象徴するのが日本の若きスーパースター、久保建英選手と大谷翔平選手の契約です。サッカーと野球、それぞれのスポーツで日本史上最高傑作とも言われる2選手の今期の年俸(推定)は2億円と7200万円と2倍以上の差が開いています。前年新人王を獲得して実力を証明し、完全にチームの主力となった大谷選手と、移籍当時まだJリーグでも10試合程度しか出場しておらず今期もトップチームでプレーしていない久保建英選手ではチームに対する貢献は全く逆なのにも関わらずです。このように、同じスポーツ選手でもリーグの性質によって選手の権利や自由、実力と報酬の相関性は全く異なります。

※米国のフットボールリーグ(MLS)はドラフト制度を採用いることから、世界スポーツでも選手側が不利な条件を飲むだけの強い魅力がリーグ側にあればドラフトを作ることが不可能というわけではないです。

パワハラ構造が生み出す、米国スポーツの熱狂

昨今ニュースに取り上げられている公然の暗黙ルールによれば、日本の芸能界は大手事務所がメディアと密接に結びつくことで個人の実力に関わらない、芸能活動に対して大きな影響力を持っているとされています。

事務所側が強い交渉力を持つ仕組みはよく批判されるところですが、実は米国スポーツが選手を束縛する構造とよく似ています。前述のとおり、米国スポーツではリーグが選手の契約を厳しく制限しています。このルールを破ったときのペナルティは「リーグの全てのチームとの契約を禁止する」です。米国スポーツは唯一無二のリーグですから、選手にとっては引退宣告に近い超重大ペナルティです。まさに日本の芸能界に於いて事務所が個人の生殺与奪権を握っているのと同じ、超ブラックな業界構造です。

事実、米国スポーツの選手からは年俸に制限をかけるサラリーキャップ制など、契約に制限をかけるルールに対する不満は日常的に発信されており、95年の大リーグストライキな選手たちが待遇改善を求めて試合をボイコットするという事件はたびたび起きています。じゃあ「米国スポーツ叩こうぜ」って話にしてよいかというと、(当然ながら)短絡的と言わざるをえません。前述の通り、米国スポーツは選手の自由に一定の制約を与えることで常に強いチームと弱いチームがその戦略や頑張り次第で大きく上下し、全てのファンが数年に一度は「今年こそ自分の贔屓のチームが優勝だ」と本気で信じて応援できるエキサイティングなリーグを演出しています。

一方、選手側が多数の選択肢を持つが故に、選手側の交渉力が強いフットボールの世界では一度財力とブランド力、ファンを獲得したチームが他チームから有望株を引き抜くというエコシステムが構築され、数十年に渡って覇権を握るような構造となっています。強いチームのファンは勝ち続ける日々を楽しみ、少しでも弱くなることに対して怒る。弱いチームのファンはたまに起きるジャイアントキリングに大喜びする、という米国スポーツとは全く異なるリーグとファンの生態系が形成されています。
つまり、少なくともスポーツの世界ではそれぞれの形態がそれぞれの熱狂を生み出すことに成功しており、必ずしもどちらが良い/良くないと言い切ることができるわけではないことがわかります。

日本のプロ野球と芸能界はよく似ている

実は日本のプロ野球は今回問題となった芸能界の暗黙のルールとよく似たルールを、なんと公に持っています。

日本のプロ野球では、
・プロ契約は必ず日本のドラフトを経由すること
・大リーグに移籍するには海外FAかポスティング制度を使うこと
というルールが存在します。

上記に違反したときには「日本プロ野球でプレーできなくなる」というペナルティがかけられます。例えば、プロを経験していない選手がドラフトを経ずに大リーグに直接入団すると、日本プロ野球に入団しようとすると2-3年間留年したうえにドラフトを経なければならないという通称「田澤ルール」と呼ばれるルールが適用されます。

芸能界とそっくりですよね。

プロ野球ファンも意外と忘れがちですが、今でこそ日本野球界のパイオニアとして英雄扱いされる野茂英雄投手は大リーグに行くために日本プロ野球を任意引退しており、当時は「日本のプロ野球に恩義を感じないのか!」と大きな物議を醸しました。

一方、大リーグではこのようなルールは存在しません。反射的に「選手が可愛そう!米国みたいに自由にしてあげたらいいのに!」と言いそうになりますが、そう短絡的に考えるわけにはいきません。冒頭で申し上げたように唯一の無二の存在である大リーグは制限を作らなくても選手がプレーし続けることを切望するリーグです。大金を積まれたとしても他のリーグに移籍することはまず考えません。長い野球の歴史のなかで唯一の例外は昨シーズンのソフトバンク。大リーグの有力ドラフト候補であったカーター・スチュワート投手と直接契約した、という一例だけです。自由化すると大リーグの二軍に陥りかねない、日本のプロ野球とは全く立場が違うということがわかります。

芸能界は「フットボール化」していく?

スポーツの世界に於いて試合出場はアスリートの給料を生み出す場であると同時に、実力を伸ばすための非常に重要な機会でもあります。芸能界に於けるそれはメディア出演です。メディアが限られていた時代、スターの原石が自らを磨く機会は極めて限られており、赤字を被りながらも芸に磨きをかけるための場を提供する事務所の機能は必要不可欠でした。
このように大変なコストをかけて発掘し育成したスターに自由に出ていかれてしまっては事務所は収支があわず、スターを育成することができなくなってしまいます。故に、日本の芸能界が育成機能を維持するにはなんらかの拘束は不可欠だったといえます。

例えば、吉本興業が空席目立つ若手劇場を多数運営してきた最大の目的は目の前のチケット代を稼ぐためではなく、金の卵がいることを信じて育成することです。そこまでコストをかけて育成したスターが’(今夏大衆が主張したように)自由に外に出ていくような構造になってしまうと育成機能を維持できなくなってしまいます。そう考えると米国スポーツと同じように、一定の拘束機能は必要悪だったのではないかと私は考えています。

では、これからも今と同じような拘束を続けることが適切かというと、モラルの問題ではなく、時代の流れとして難しいのではないか、というのが私の見解です。前述のとおり、米国スポーツの成立条件は「唯一無二のリーグが存在すること」です。近年の芸能界はメディアの爆発的な増加に伴いテレビの影響力は急速に縮小しています。故に、好む好まざるに関わらず、自然と契約主と被契約者が対等なフットボールと似たような構造になっていかざるを得ないと考えるのが自然かな、と思います。

playgroundと一緒に次の時代を作りませんか?

芸能界では高収入なYoutuberが出てきているほか、吉本興業のキングコング西野亮廣さんを起点にオリエンタルラジオ中田、ジャニーズから新しい地図、元関ジャニ∞錦戸亮さんなど、多くのスターが事務所に縛られない新しい活躍の形を作り出し始めています。
野球界も実は変化の兆しがないというわけではなく最近マイナーリーグの粗悪な環境が取りざたされており、前述のスチュワート選手のように若手のうちは日本の恵まれた環境でプレーしてから大リーグに挑戦しようという選手が出てきてもおかしくありません。また、(少し時間がかかるとは思いますが)野球は韓国や台湾でも人気が上がってきており、選手側の選択肢が多く交渉権が強い、世界スポーツへと変化していく可能性も否定できません。

このようにインターネット等の技術・社会的変化をきっかけに、世界は日々大きく変化しています。今後、スポーツ・エンタメ界でも世界ドラフトが開催されたり、テレビや Spotify に出てこないライブ限定アーティストが出てくるなど、今では想像できないような事象が起こることでしょう。

私は今後、どのような世界になっていくのか、一ファンとして非常に楽しみにしつつ、またplaygroundという場を通じてその変化を牽引するパイオニアたちを支援していきたいと思っています。

新しい時代を作ろうとしているパイオニアの皆様、playgroundと一緒に働いていただけるかた、是非お声がけいただけると嬉しいです。

また、興味持っていただいた皆様、twitter(@kg_play)も最近運用し始めたのでフォローいただけると嬉しいです。

以上、
長文、お目通し戴きありがとうございました!!
ご意見もお待ちしてますのでよろしくおねがいします。

※2019/10/19... 読みづらい点があったので言い回しを編集しました


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