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パーパスモデルでみる都市のブランディング3事例

こんにちは👋きびです。
パーパスモデルの記事も5本目、今回のテーマは『都市のブランディング』です。
世界で注目される強みをもった3都市や地域の事例を取り上げました。

この記事では、共創を可視化する「パーパスモデル」という手法で事例を図解しており、どれも図解した本人が『いい・・・!』と思った事例を紹介しています。

はじめに

今回取り扱うのは土地や地域のブランドを作った取り組みです。
・アートとテクノロジーの祭典を起点に未来社会を考える、オーストリアの都市
・美しい自然と風土を持つ島々をアート通じた交流で活性化する、瀬戸内海の島と港
・時代に合わせて自分たちの強みを常に分析し戦略を立てる、ドイツの地方都市
の3つの事例です。

どれも語りきれない興味深さのある素敵な取り組みです。
ではさっそくいってみましょう!

1.Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)-Linz(リンツ)

汚染が深刻な工業都市“リンツ”を、ボトムアップの動きをきっかけに、アートとテクノロジーによって復興させた公的機関による活動

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概要
Ars ElectronicaとはART / TECHNOLOGY / SOCIETY という哲学を掲げ、常に変化するこの3つに対応する文化機関。リンツ市(オーストリアにある人口約20万人、約96㎢のちいさな街)をフィールドに、未来を考察する社会実験を行っている。

Ars Electronicaはリンツ市が 100%所有・運営する機関だが、確立したビジネスモデルを有し、市が負担する予算は全体の30%ほど。

背景
リンツ市は 1970 年代以前「繊維の街」として知られ、その後産業が鉄に移行してからは、汚染問題が深刻な文化を持たない工業地帯だった。
ウィーンやザルツブルグといった音楽や芸術の文化で栄える近隣の街と対抗し、街として存続していくための対策が求められていた。

具体的に何をしたのか
1979 年テレビ局の社員と地元の社会学者と科学者の3人で「未来志向の文化政策」を行っていくと提言し、第一回”Ars Electronica Festival”を開催。
その後、1987 年に“Prix Ars Electronica”というコンペティション、1996年に「何かしらの未来を体験できるMuseum of the Future」をテーマに2つの組織を組成する。
一つは、普通の学校では教えきれない知識や体験を学ぶ未来の学校“Ars Electoronica Center”。

もう一つは、イノベーティブで創造的な仕組み・メディア表現を探求する専門家グループが約30名在籍し、企業等との共創プロジェクトにより実際にモノを創る場“Ars Electronica Futurelab”。

Ars Electronicaの功績により、現在のリンツ市は灰色の工業都市ではなく、未来志向のクリエイティブ都市かつ地域再生の成功事例として、ヨーロッパ内で認知されるようになっている。
2009 年には欧州文化首都、2013 年にはユネスコのメディアアート・創造都市ネットワークにも選定された。

2.ART SETOUCHI(瀬戸内国際芸術祭)-瀬戸内エリア

美しい瀬戸内の島々や地域を拠点に、アートと交流を通して地域の活力を取り戻す活動

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概要
瀬戸内の島々や地域で、3年ごとに開催される「瀬戸内国際芸術祭」と、取り組まれるアートを通して、地域の活力を取り戻し再生を目指す活動。(HPより一部抜粋)
島ごとに、現代アートが様々な形で設置されている。人口数十人という小さな島も舞台になる中、島内外の「交流」から、継続して地域の活力を生むことに重点を置いている。

背景
当時の福武書店(現:ベネッセホールディングス、以下ベネッセ)社長と直島町長の思いが重なったことに端を発し、1980年代後半よりベネッセが行ってきた、アート中心の文化エリア開発による企業メセナが始まり。
1992年から徐々に、直島で複数の現代美術館が開設され、海岸・路地など島内全体に展示が増えていく。現代美術が集う場として国内外の評価が高まり、2010年に芸術祭が初めて開催された。

これらの活動は、ベネッセ元社長の福武總一郎氏が主導・貢献してきた。福武氏が東京から本社のある岡山に異動・移住した際に、東京にはない自然の豊かさ、人間らしさに気づき、数年後に社名もベネッセ(よく生きるの意)に変更した。2004年には個人寄贈で、瀬戸内のアート活動助成のための現:福武財団を設立。

2019年には118万人が来訪し、海外からの来場者は23%となる。芸術祭のために国際便などの交通インフラも充実し、様々な国の文化庁の助成もあるなど、国際的な名声も高い。

具体的に何をしたのか
島の自然や多様な風土を活かした「アート・建築」づくり。アーティストが現地で感じたことや各地固有の民俗や産業を取り入れた、島を再発見するような作品も多い。

島外からは、世代・国境などのジャンルを超えた人々が、観光客としてはもちろん、運営のサポート・ボランティアで気軽に参加できる仕組みが作られている。

島内でも、老若男女問わず島民が活動を支え、外部と協働している。瀬戸内の未来を担う若者として、地元の小学生~大学生も課外活動で参加する他、島間の情報交換によるネットワークづくりもされている。

島内外の多様な「交流」が各島の発展が地域再生の機会を育むと考え、大量の観光客が島民のマイナスにならず、プラスになるよう様々な工夫がなされている。


3.Erlangen(エアランゲン)

時代に合わせて経済と文化を発展させるドイツの地方都市

Erlangen City Center

(via - flickr.com Photo by Euro Slice)

エアランゲン

概要
エアランゲンは、ドイツ南部のバイエルン州北部の自治体(州に属さない、権限を持った特別な「市」)で、人口は約10万人、面積は77万平方キロメートル。グローバル企業のシーメンス社の拠点があることで有名だ(いまは医療技術部門のみが在籍)。
ドイツは地方分権型の国であり、都市の独立性が高く、エアランゲンも独自の発展を繰り返してきた。現在は、医療健康都市を掲げ、産官学(民)で協力しながらまちの価値を高めている。

背景
ドイツは都市間の競争がさまざまな形で展開されている。
たとえば、都市の間でどれだけ環境に配慮できているかのコンクールが開催されたり、シンクタンクなどが様々な都市のランキングを発表されたりする。
そうした中、エアランゲンは歴史的に発展の形を何度も変えてきた。近年は、環境都市として大きな成功を収めたものの、2つの課題に直面することとなる。

1つめは、経済の低迷。2つめは、他の都市との差別化だ。
まず前者について。当時は戦後で経済成長期であり、かつドイツの東西統一によって東ドイツの再開発も重なり、景気がよかった。しかし、やがてその景気が落ち着いてくると、老舗企業が倒産するなど、低成長に悩まされるようになった。

次に、後者について。他の地方都市も環境政策に目を向けるようになり、それだけでは差別化が難しくなってきてしまった。
これら2つの課題を解消するために、市が掲げた新しい成長戦略が「健康医療都市」である。

具体的に何をしたのか
当時の経済局長である、シーグフリード・バライス(後の市長)主導で、市内の経済力のポテンシャルを探る調査を行った。
そこで浮かび上がったのが、健康と医療分野だった。もともと大学や、グローバル企業のシーメンスの一拠点だったことや、ハイテク関係のインキュベーター(起業支援施設)が作られるなどのベースがあったことがその理由だ。
そこで、医療分野への投資や取り組みが推進された。たとえば、2003年に市・州・民間が共同出立ち上げた「メディカル・バレー・センター」はその象徴といえる。

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Medical Valley Center(via:deinerlangen.de

また、経済面だけでなく、文化面での取り組みもある。地元のNPOがスポーツ関係のイベントを企業や学校で開催することで、市民の日常環境に健康を維持する場を作っている。
結果、1996年以降、100以上の医療分野での起業が起き、世界的に展開する企業も登場しているという。

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エアランゲンの小学校で行われるスポーツプログラムの様子(via:http://www.gesund-erlangen.de/)

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市のサイトをふらっと見に行ったら↑のイベント(Google翻訳してます)が載っていて、「市長と地区管理者とのライブチャット」でボランティアやクラブの課題について市民との対話の機会をもっていて、行政との距離の近さを感じました・・・うらやましい!

事例の紹介は以上です。

気づき

現在、共通目的には8つのタイプがあるのではないかという仮説を持っています。

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事例を調べていく中で、それぞれが大切にしているポイントや現時点での共創の目的が見えてきます。

今回の事例の共通目的をみてみると、
・アートとテクノロジーの体験を触媒に誰もが未来をつくる素養を培う(アルスエレクトロニカ)→場を通じた体験=場をつくる
・美しい瀬戸内を舞台に、アートと交流を通して地域に活力を生む(瀬戸内国政芸術祭)→交流による関係づくり=関係をつくる
・地域全体で連帯し、医療技術力を活かして都市の新しいブランドを創る(エアランゲン)→都市の強みの発信=認識をつくる

「都市や地域のブランド」を確立するという目指す状態は同じでも、共通目的のタイプは異なる、というのも面白いですね。

このように、これらの3つの事例を比較してみると

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始まり方はそれぞれ異なり、
・ボトムアップ(行政が支援):アルスエレクトロニカ
・トップダウン(民間主導):瀬戸内国際芸術祭
・トップダウン(行政主導だが市民との距離が近い):エアランゲン

「都市のブランド」を作る上での共通目的のタイプも異なります。
・場をつくる:アルスエレクトロニカ
・関係をつくる:瀬戸内国際芸術祭
・認識をつくる:エアランゲン

一方で、どの事例にも共通していたのは

①「独自性の高い共通目的がある」
②「市民を価値を作る側に巻き込んでいる」

ということでしょうか。

①「独自性の高い共通目的がある」について
共通目的の独自性は a.課題の設定、b.文脈の設定、c.目的のための手法 という3つの視点からみるのですが、今回は文脈の設定に特徴があるなと感じました。
・もとある文脈を活かす:エアランゲン(医療系大企業がある、大学や研究機関が多い、ハイテク産業に強い、スポーツコミュニティなど)
・新しい文脈をつくる:アルスエレクトロニカ(アートとテクノロジーで社会を考える、都市を社会実験の場と捉える)
・ハイブリッド:瀬戸内国際芸術祭(もとからある瀬戸内の風土と美しい自然 × 新しいアート)

②「市民を価値を作る側に巻き込んでいる」について

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企業・行政・大学研究機関専門家以外に、市民との接点が重視されています。
接点になっていたものは
・スポーツコミュニティなど(エアランゲン)
・フェスティバルやセンター(アルスエレクトロニカ)
・芸術祭の運営やボランティア(瀬戸内国際芸術祭)
市民との距離感が近く、共に価値を作る側として巻き込みができていることが図からも伺えます。
都市のブランドができている=そこに生活する人々にもそのコンセプトが浸透している、ということでしょう。

3つのパーパスモデルを通して、優れた都市や地域のブランディングはどんな始まり方をしても、成熟したときには「独自性が高い共通目的をもっていること」「市民との関係を築いていること」が伺えました。

今回は全て、現時点でのパーパスモデルをご紹介しましたが、どの事例も「初期」「転機」「現在」「未来」など時系列で変化を描いていくとさらに考察が深まりそうです。
誰が最初に課題意識に賛同して行動したのだろう?
最初は目的の掲げ方も違ったのかも?
市民の巻き込みはいつから?
なども見られると面白いなと思います。

おわりに

いかがでしたか?
「都市」となると、これまでの「プロジェクト」や「場」の事例よりスケールが大きく、抽象度も上がり、どんなかたちになるか不安ではあったのですが、それぞれの特徴があらわれるものになったなと思います。

都市における共創の成功要因は複雑でたくさんの要素があります。
図に書ききれないのも承知ですが、この図で見たときにどんな特徴が浮かび上がるかという視点で楽しんでいただけると幸いです。

働き方が多様化する今後、自分が関わりたい街を選んで住んだり、関係を持ったりすることが増えていくと思います。
それぞれのまちが万人受けを狙うのではなく、その場所固有の強みを活かし、独自性を発信していくようになるといいなと思いました。

事例に関してはたくさん調べて書いておりますが、もし情報に不足や誤りなどありましたら、できるだけすぐに直しますので、教えてくださいませ。

エアランゲンについては、パーパスモデルを出版させていただく予定の学芸出版社さんから発売されている『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブか?』高松平蔵 著を参考にさせていただきました!

そして、今回の記事も前回に引き続き、同じメンバーで協力してつくりました!

1.Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)まき
2.ART SETOUCHI(瀬戸内国際芸術祭)あすか
3.Erlangen(エアランゲン)きょん
図解作成と監修と多大なるサポートは安定のチャーリーです。

今月のきびはパーパスモデルを元に、よりGOODな共創とはなにかという判断軸づくりや、共通目的の分類などに精を出しており事例担当はおやすみ・・・。みんなありがとう🙏😭❤️こちらもまた共有できるといいなとおもいます。

最後になりますが、現在パーパスモデルで事例をまとめる本の出版のために、いまは事例あつめをしながら、分析をしつつ、こうしてできたものから徐々に公開しています。
「これももしかしたらパーパスモデルでかくといいのでは?」という推し事例があれば、ぜひ教えてください!

以上です。





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