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【映画感想】年ベス候補の傑作『哀れなるものたち』

※結末に触れています。

鈍器で頭を殴られたくらいの衝撃を受けた。はるか昔の、どこかの国の話かと思ったらとんでもない。どこにでもあって昔からずっと続く不条理を、ベラからまっすぐ指摘された。

誰にも所有されず、理不尽に屈しないベラの生き方が好きだった。ロンドンを出て人と出会い、知識を得てから、どんな相手であっても諦めずに対話を続けようとする姿勢がひたすらかっこいい。ベクトルは常に自分に向けられていて、他人を気にしない。自分の欲望のまま行動した結果、時に大胆(だとこちらが感じる)な行動に出るけど、誰かの目を気にして生きにくさを感じながら過ごすよりずっとよかった。

ベラは自分の体の運命を、自分の意志に委ねていて、その生き方は周りの男たちの運命を変えていく。絶望的な男が登場する中でベラの生みの親であるゴッドウィンも最初はその1人であったけど、ベラと関わるうちに彼女の自由意志を尊重して解放する。ゴッドウィンの変化からは、希望のようなものを感じた。

ベラはこれまで(そして今でも)抑圧されてきた女性の代弁者として生きているようでもあった(しかしその自覚はないだろう)。その中には、自分の体の持ち主だったヴィクトリアも含む。ヴィクトリアが命を絶つほど辛くて絶望的だった鎖のような存在を、自分の手で引きちぎる。鎖の結末はあまりにも残酷であるが、これ以上醜い行いを繰り返させないため、体を脳から「解放」したのかもしれない。ベラ的には一種の救いだったのではないかと思う。

ここまでベラの人生にのめり込んで、色々考えられたのはベラを演じたのがエマ・ストーンだったからだなと。本当にとんでもなく凄い役者さん。終わった後に心の中で拍手喝采した。

そして画面に映るもの、特にリスボンの街並みや船内が、数100年前のような、おとぎばなしのようなビジュアルでとても好きだった。ベラが纏うドレスも全てお気に入り。ポンポンと跳ねる音楽も、違う惑星の様子をのぞいているような、不思議な気持ちになって好きだった。

2024年が始まってまだ1ヶ月しか経っていないけれど、早くも年ベス候補の傑作!

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