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何かあったらよろしくお願いします。

先日、福岡に向かう飛行機に乗るために、新千歳空港にいた。イスに座って、まだかな、まだかな、と時間がくるのを待っていたわけだ。

その時間、私は1人でイスに座っていたんだけど、隣の席に3人組のビジネスマン風の男性たちがいた。

3人とも年齢は50代くらい。見た目はスーツではなく、普通の私服。彼らの会話ぶりからおそらく、3人とも普段は北海道にいて、出張で東京かどこかに行くのだろうと推察される。


そのうちの1人が、おもむろに電話をかけた。

「あの〜すいません。アポイントの時間の変更をね、お願いしたいんです」

え、アポイントの時間の変更?

なぜだろう。飛行機の到着時刻が遅れるとか、そんなやむを得ない事情なのかな。

アポイントの時間を変更するって、社会人生活を数年送ってきた自分から考えると、なかなか考えづらい、というか、めったにない気がする。



理由は?



「そっち着いてからシャワー浴びたいんです。暑くて暑くて。なので、時間を変更してほしいんですね。よろしいですよね」

え、シャワーを浴びたいの?

気持ちはよくわかる。気持ちはわかるよ。暑いもの。汗でびっしょりだよね。特に背中とか、上半身とかね。飛行機に乗って、向こうに着いたら、そりゃ一旦落ちつきたいものだよね。


でも、



そんな理由で?


それでアポイントの時間を変更するの?



電話のやりとりからすると、アポイントの時間は無事変更できたようだった。理由を正直に話すことの大切さは時には大事だったりするのか、それとも、実は裏の理由があったりするのだろうか。

分からない。


50代のその男性は電話を切ると、またどこかへ電話をかけ始めた。次はどこにかけるんだろう。

私はといえば、新千歳空港のロビーで1人、PCを立ち上げて、調べ物をしたりメールを書いたりしている。

この50代の人は次に、どこに、
どんな電話をかけるんだろう。


と思っていると、後ろから「おつかれ」という声が聞こえてきた。おっと思って振り返るといたのは、私の会社の代表である。

今回の福岡出張は、実は我が社の代表と私の2人で行くものだった。ここで待ち合わせをしていたのだ。


彼は私に言う。

「ちょっと待ってて。チケット出してくるわ」


「ほーい」と言いながら、私は内心「ナイス」と思っていた。だって隣の席のおじさんがどんな電話をするのか見届けたい。どこに電話をかけてどんな会話をするのか、なんとなく気になる。


我が社の代表は、チケットを準備するためにカウンターに行ってしまった。その間に、50代の男性の電話はある程度まで進んでしまったようだ。


こんなことを一生懸命に言っているのが聞こえてきた。


「それじゃまた、何かあったらよろしくお願いしますね」

何かは永遠にないぞ。


この「何かあったらよろしくお願いしますね」という言葉。この言葉で結んで会話が終わって、何かがあった試しがほとんどない。

たいていこれは慣用句で、その裏には「(あなたの会社とお取引をすることはおそらくないですが)何かあったらよろしくお願いしますね」という意味になる。

ないない。何もない。


この50代の男性が営業をする側なのか、または営業を受ける側なのかは正直わからない。もしかすると大きなどこかの重役なのかもしれないし、そうでないかもしれない。

いずれにせよ「何かあったらよろしくお願いしますね」という言葉で終わっているということは、きっと何も得るところがなかったのだろうな、と思って、私は席を立った。


やはり営業というのは奥が深い。

<あとがき>
仕事って結局は最後のひと押しなんですよね。恋愛でいうところの「好きです、付き合ってください」が言えるかどうかにかかってるわけです。最強の状態は、そんなことを言わなくても向こうからお願いされるレベルなのですが、私はまだまだその領域にはいけていません。にしても、シャワーを浴びたいから時間を変更したい、は初めて聞きました。今日も最後までありがとうございました。

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