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#3 本気で社会を変えるにはーシステム思考で見える残酷な一面

複雑な社会を考えるには、システム思考が欠かせません。システム思考とは『独立した事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きをとらえる思考方法』を指しますが、要約するに、ある行動がどのような結果をもたらすのか、ありとあらゆる要素を含めて、総合的に予測する思考法です。

分かりやすい例に「風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる」ということわざを挙げましょう。強い風が吹いて砂ぼこりが舞うと、目に砂が入って失明する人が増え、三味線を弾いて生計を立てる人が増える。すると三味線(しゃみせん)が売れるようになる。その三味線には猫の皮が使われており、猫が捕らえられるようになると、今度はねずみが増え、桶がかじられるようになる。だから風が吹けば桶屋が儲かる、という風に各要素間の影響を考慮して、論理を組み立てるのがシステム思考です。

これは比較的シンプルな部類で、因果関係が一方通行でつながっただけの例になりますが、ある事象が思いもよらぬ結果を生むということを端的に教えてくれます。(そして風が吹いた時に、起こり得るありとあらゆる事象を考えるのがシステム思考です。)様々な要素を意識し、網羅的に物事を考えなければ、「想定外」のことばかりが生じてしまい、失敗ばかりしてしまいます。

物事は見えるものばかりではありません。オーストラリアにあるエアーズロック(ウルル)は、山のように見えますが、表面に出ているのがわずか5%で、残り95%が地中に隠れています。氷山も、海面上に見える部分は、全体の1/8くらいであり、船上からは隠れている姿全体を直接見ることはできません。私達は見えることばかりに囚われず、その裏にどのような側面があるのかを必ず想像し、補わなければなりません。

この見えない関係を大事にする精神として、日本には昔から「三方良し」という言葉がありました。売り手良し、買い手良し、世間良し、という三つの良しを考え、「商売上売り手と買い手が満足するのは当然として、さらに社会に貢献できてこそよい商売」とされ、企業の社会的な意義を伝える考えとして、日本企業のプレスでよく見かけます。

かつて日本では、企業が汚染物をきちんと処理せずに、外部にそのまま廃棄することがありました。足尾銅山や水俣病事件など、汚染された水や魚を飲んだ人々の健康が大いに脅かされた悲しい歴史があります。企業はただ利潤を上げるための存在としてではなく、社会に貢献できる存在を目指すべきという視点は、欠かせてはいけない考えです。

普通ここで話が終わるのですが、ここからが主題です。世間とは何を指すべきなのでしょうか。

技術の進歩とともに、人が環境に与える影響は年々拡大しています。開発活動は何かしらの自然破壊を伴い、生物種の絶滅速度たるや、1年間に4万種に及ぶといわれています。私達日本人が何気なく暮らしている平和の裏には、極めて残酷な暴力が隠れています。

生物として生きている以上、他の動物を殺めることは避けられないという反論はあるでしょう。けれど、生きるためにある個体を殺めることと、種を絶滅にまで追い込むことを同義に捉える考え方には強い違和感を感じます。絶滅した動植物は、2度と地球上に戻ってくることはありません。

生態系を勉強すると、人類は様々な恩恵を自然から受けとっていることに気づかされます。大気や水の浄化作用、洪水や土石流の被害の軽減、食料や天然資源の供給など、人類が豊かに暮らすためには切っても切れない関係です。けれど、今は自然を使い捨てのように利用しているのが現状で、「世界は自然の"恩恵"で成り立っている」というより、「世界は自然の"犠牲"で成り立っている」というのが正しい世界観です。

自然は、たくさんの種の相互作用に成り立ち、特有のシステムを作り出しています。時に、ある生物種の数が爆発的に増大しても、それを減らすような復元力が働き、周期的なリズムを刻みつつも極めて安定的な状態を保ってきました。しかし、ある生物種の絶滅は、他の全ての種に影響を及ぼし、徐々に生態系は安定性を失っていきます。それは様々な部品から成り立っている建物の土台から、少しずつ部品を抜き去っていくようなもので、最初こそ目に見える変化は小さくとも、その変動幅は徐々に大きくなり、やがて建物そのものを崩壊させる恐れがあります。

残念ながら一般的に言われる三方良しの「世間」には、自然であったり、未来を生きている私達の子孫のことは眼中にないか、極めて過少に評価されているのが現状です。あくまで上に立つ側の理論であって、虐げられる側の視点はありません。

かつて最強と言われた古代ローマ帝国は、権力者から無償で与えられるパン(食糧)とサーカス(コロッセオなどの)によって、ローマ市民は政治的盲目になったと言われています。最終的に国内体制が崩壊して滅亡の道を歩むのですが、共通する点が多く、とても他人事には思えません。

(#4へ続きます)

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