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はじめに【魔法の4秒】1

 内容はめちゃくちゃいい本なのに売れなかった本……もあります。もったいないので、一部分ずつ、ここで無料公開します。お気に召したら買ってみてください。
 こちらで紹介するのは『魔法の4秒』という本です。ピーター・ブレグマンという、アメリカの有名なコンサルタントで、自身の経験をエッセー風にまとめたものになっているので、かなり楽しく読めて、タメになります。ではいきましょう。

★★★

はじめに

 マンハッタンのミッドタウンの48丁目界隈を歩いていたら、上等のスーツにぴかぴかの靴、ヘアスタイルもビシッときめ、手には革のブリーフケースをさげた男性が、ぼくを追い越した。次の瞬間、男性は横を向いて、口からぺっとガムを吐き捨てた。
 ぼくは、ガムの塊から目を離さなかった。踏んづけるのはごめんだ。ガムは、ぼくの3フィートほど前方を飛んでいき、街路樹にぶつかって跳ね返り、歩道を転がった。
 止まったところがちょうど、次の一歩を踏み出した男性の足の着地点だった。男性はそのまま歩き続けた。自分が吐き出した鮮やかな青いガムが、靴底にくっついたことには気づきもせずに。ぼくは腹を抱えて笑い出した。そして、考えこんだ。

 じつは誰もが、これと同じようなことをしょっちゅうやっているんじゃないだろうか。自分の得になることをしたつもりが、結局は自分の靴にガムがへばりつく結果になることってよくあるんじゃないか? 結果的に自分が損する行動をとってしまうことって珍しくないんじゃないか? 
 誰の目からみても、そんなことをすれば自分が損するだけだろうと思えるケースもある。それなら危険を避けるのも簡単だ。

 最近聞いた、ウォール街のある銀行幹部の話がある。銀行と同じで、その人もローン頼みの生活をしていた。所持金をはるかに上回る金額のマンションを購入したためだ。ところが、ボーナスの額が期待していたほどではないとわかった。彼はわめいたりののしったりし、同僚に上司の悪口をふれまわった。その結果、ボーナスどころか職まで失った。

★★★

 これに対して、自分が損するかどうかがはっきりしない場合もある。あるときぼくは、妻のエレノアとのディナーの約束に遅刻した。七時にレストランで落ち合う約束だったが、店に着いたのは七時半だった。気がとがめた。
 でも、顧客とのミーティングが長引いて抜けられなかったのだ。ぼくは妻に謝り、遅刻するつもりはなかったんだよと言った。
「最初から遅刻するつもりでいる人なんて、いるわけないでしょう」
 と妻は答えた。やれやれ、お怒りのようだ。
「ごめんよ。でも、どうしようもなかったんだ」
 ぼくは遅れたわけを説明した。顧客とのミーティングについて事細かに話し、とても大事な、どうしても抜けられない会議だったんだと言い訳した。やや誇張もあったかもしれない。だが、ぼくは妻をなだめるどころか、事態をいっそう悪化させただけだった。いまや妻は怒っているだけでなく、イライラしてもいた。そこでこっちまで腹が立ってきた。

「いいかい、こっちは仕事が大変なんだぞ」

 会話はどんどん険悪になっていった。売り言葉に買い言葉だった。願っていることはふたりとも同じだった。つまり、ともに夕食を楽しむことだ。だが互いの反射的な反応のせいで溝が深まり、結局はよそよそしく、腹を立てたまま終わった。まさに、望んでいたのと正反対の結果である。

 遅刻したことに対するぼくの反射的反応は、言い訳することだった。ぼくの言い訳に対するエレノアの反射的反応は、苛立ちをあらわにすることだった。これに対するぼくの反射的反応は、かっとなることだった。
 そうやってどこまでも口論が続き、どちらもろくに考えもせず、本能に駆られて組み立てた、効果のないシナリオに沿って行動した。

 もちろん、ぼくはエレノアと喧嘩するつもりなどなかった。むしろその逆で、遅刻の理由を説明したのも、言い争いにならないようにと思ってのことだった。
 だが結果的には、決め手になったのはぼくの「つもり」だけではなかった。むしろ、「遅刻の言い訳をするというぼくの行動によって、エレノアがどんな思いをしたか」の方が決め手になった。相当に不愉快な思いをしたはずだ。ぼくのやったことは、自分が吐き捨てたガムを自分で踏んづけるも同然の行為だった。

★★★

 どんどん長くなるToDoリストに圧倒されストレスを感じると、人は反射的にどういう行動に出るか。それまで以上に長時間働くか、同じ勤務時間の中に、それまで以上にギュウギュウに仕事を詰めこむ。一度にいくつもの仕事をこなし、会議から会議へと走り回り、会議中にテーブルの下でこっそりメールチェックをし、朝早くから夜遅くまで働く。
 本人としては、ストレスと過重な負担をなんとか減らそうとしてやっていることだ。だが、こういう行動は意図と正反対の結果を生む。つまり、ストレスと負担がいっそう増えるだけだ。
 あるいは、相手が感心しそうな発言をしてみるがあっさり否定される。友人を慰めようとして、なぜか相手をよけい落ちこませてしまう。部下を叱咤激励したら、どういうわけか相手はかえってやる気をなくしてしまう。

 そんなことがあるたび、当人は呆然とする。
 いったいどういうわけだ? と首をかしげる。あげくの果てには何日もかけて、自分の反射的反応が引き起こしたダメージを修復するはめになる。数えきれないほどの時間とエネルギーを費やして、自分の発言を思い返してみたり、自分のとった対策を人に話してみたり、次に打つ手を模索したりする。しまいには、わざわざ回り道をしてトイレへ行ったりもする。こちらとしては悪気はなかったのに機嫌を損ねてしまったらしい相手と、廊下で出くわさずにすむようにだ。

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 うれしいことに、こういうのは決して解決困難な問題ではない。それどころか、たった4秒あれば解決できる。4秒というのはちょうど、ひと呼吸するのに必要な時間だ。たった4秒立ち止まるだけで、自分の間違いに気づき、方向を少し修正できる。本書でこれからご紹介するのは、びっくりするほど簡単なアイデアばかりである。それでいて、自分の望みどおりの結果を実現できる。もう果てしなく空回りを続けなくてもいいのだ。

 ぼくが提案する考え方や話し方や行動のし方─つまりは生き方─は、昔ながらのやり方と比べてシンプルで、しかも効果ははるかに高い。時間もエネルギーも、これまでのやり方ほどかからない。ぼくの提案どおりにやれば、なにも超フル回転しなくても超生産的になれる。遅刻しても口論になることなく、エレノアと過ごす貴重な時間を楽しむためには、ぼくはどうすればよかったのだろうか?

たった4秒

 深呼吸し、立ち止まって自分のものの見方をリセットするには十分な時間だ。遅刻の言い訳をしたい衝動をこらえ、待たされたエレノアがどんな思いをしたかを受け止めてやればよかったのだ。言い訳するのは、遅刻の原因の方がエレノアより優先だと強調するにひとしい。これだと、理由もよくわからぬまま、楽しいはずの夕べが台無しになってしまう。

 これに対して言い訳は一切せず、遅刻のせいでエレノアがどんな思いをしたかを気遣った場合はどうか。ぼくの本能には反するが、こうすればエレノアの気分はよくなる。私の気持をわかってくれた、と感じるからだ。しかも、いかなる事情もエレノアを待たせる理由にはならない、と認めることにもなる。これなら無事、楽しい夕べが過ごせる。
 自分のせいで「エレノアが」どんな思いをしたかを正直に認めた結果、どういうわけかぼくは自分の行動を新たな視点から眺めるようになった。言いかえれば、遅刻に対する自分の反射的な反応パターンが変わった結果、エレノアとの関係が改善しただけでなく、ぼく自身の行動も改善したのである。これぞ、生産的反応パターンのもつ威力である。

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 とはいえ、反応パターンを変えるのは容易なことではない。本能的反応というくらいだから本能的な、自然な反応であって、そう簡単には直らない。たとえ効果がなくても、そうやって反応するのが習い性になっているからだ。

 かっとなると思わずいつもの反応をしてしまう。それまでと違う効果的な反応パターンを覚えただけでは、闘いはまだ半分しか終わっていない。ストレス下でも新たな反応パターンを実践できるようになるまでが、残る半分だ。
 ぼくが『魔法の4秒』を書いたのは、読者の皆さんにはぜひ両方の闘いに勝っていただきたいと思うからだ。自分の損にしかならない習慣や行動を克服するお手伝いをしたい、というのが筆者の願いである。

 靴底にガムをくっつけた例の男性は、きっとまだ気づいていないだろう。きっといまも、鮮やかな青い跡をぺたぺたと残しながら歩きまわっていることだろう。でも本書の読者の皆さんは、彼の二の舞になる心配はない。

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『魔法の4秒』
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