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なぜ「こだわりの…」と書くことが、ブランディングとしてダメなのか。

食べ物の業界にもすごく多い「こだわりの…」や「特別な…」という表現。

こだわりの○○
生産者(職人)のこだわり
こだわる生産者の○○
特別な○○

などなど。野菜売り場からECに至るまで、この単語が見飽きるほど並んでいますよね。

多くのプレーヤーが同じ言葉を使っている時点で、全く差別化にならない、ブランディング分かってないよね、と広告マンなら一刀両断する気がしますが、未だにマジックワードのように使われているのが不思議でなりません。

僕は、そもそもブランディング以前に、この「こだわりの」や「特別な」という言葉を使う側の「潜在意識、思考パターン」に危うさを感じる一人です。

極論すると、「こだわり」という言葉で飾られたサービスや、そういう言葉を使ってしまう企業や経営者も(ミッションにまで掲げてしまうような場合もありますが)、まずうまく行かないとすら思っているんです。

その理由をいくつか書き出してみようと思います。

①自分に酔っちゃっている。

「こだわりの」は、発信する人の「内側」の話です。自分なりにこだわっているんだとか、こだわっている人の商品を扱っている自分が好きな人が、「自分をイケてると認めて」という潜在意識から、この単語を選んでいます。もし自覚がないなら深刻です。

②お客さんへの説明をサボっている。

本来なら、「誰に対して、どんな価値を提供するために、どんな工夫をしているのか」を丁寧に説明するのがサービス&コミュニケーションです。それに対し、お客様から「私のために、そんな工夫や苦労までして下さっているんですね(こだわって下さっているんですね)」と言って頂く言葉です。
詳細の説明を尽くす意識や、そのスキルがないのかも知れませんが、これはサービス提供者としての資質に関わります。どこか「こだわりの」という言葉で聞き手に良い印象を持ってもらえるという甘えた意識があるのでしょう。

③デザインができない。

企業のビジョン、ミッション、バリューはもちろん、サービスコンセプトやキャッチフレーズに至るまで、「一言でまとめる」「言葉を選ぶ」ことは、ものすごくタイヘンです。難解で冗長な説明をすることなく、分かり易く伝えるよう、場合によっては「新たな言葉を生み出す」作業まで必要になります。
これを「デザイン」と呼びますが、伝える言葉をデザインすることには"こだわらず"、安易に選ぶ人が作る"こだわりサービス"とやらは、推して知るべし、です。

④ブランディングをはき違えている。

ブランディングとは、自分が伝えたいことを言うのではなく、むしろ「相手の頭の中に、自分が伝えたい姿を描いてもらうための活動」です。
こだわりの、特別の、と言っていると、「自分自身のイメージがぼんやり」としており、そもそも相手に描いて欲しい姿がない状態です。そもそもブランディングの入口にすら立っていません。
この状態では、自分はこだわっている(と言っている)のになかなか評価されないと感じるようになり、いずれ、顧客が価値を「分かってない」と批判する姿勢に通じます。

※もし「こだわりが正当に評価されない(正当に評価される社会にしよう)」という表現を見つけたら、全力ダッシュで避け、近付かない方が良いです。

⑤そもそも価値がないというオチ。

そして、これが大半なのですが…やっていることが平凡で、差別化するようなものも実はない、という状況です。本人たちなりの工夫があっても、それが誰かにとっての価値には繋がらない場合を含みます。
その場合、特に書くことはないにも関わらず、良いものだと信じて買ってもらいたいが故に、「こだわりの…」と書く以外にない、ということです。"盛っている"と言っても良いでしょう。

…いかがでしょうか?

商品やサービスに限らず、転職活動の自己紹介でも同じ気がしますね。

「こだわってます」や「特別です」という表現を多用し続けているにも関わらず、伝わらない、浸透/波及していかないと嘆く人や企業に、根深い幼稚さや思考停止があるように思います。

では、本当にこだわっている人は、というと。

「○○というユーザーさんが☓☓☓に困っていたので、アレしてコレしてこんな感じで作ってみたんですが、△△さんにとってはいかがでしょうか??」みたいな会話になります。

彼らは、第一声で「こだわりの」とか「特別な」と口にすることは、習性としてあまりありません。

自分が作ったものすらどんどん捨てますし、学びや気付きを得るごとに言うことも変わり、提案をし続けます。
なぜなら、目に見える形、手にできる型、耳にして理解出来る言葉という「具体性」こそが、誠実なコミュニケーションだと身についているからです。

そういう意味で、優れたデザイナーさんから学ぶことが多いと思います。

ひとまず。

もしブランディングをしっかりやりたいのであれば「こだわりの」や「特別な」というフレーズを商品やサービスに掲げるのは止めて、真剣に「言葉のデザイン」から向き合いましょう。プロの力を借りても良いかも知れません。

そして、もし本当にこだわった仕事がしたいのであれば、そういう言葉を理念やミッションにまで掲げている職場(会社)は避けましょう。

ではでは。

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