見出し画像

忌まわしき児童会選挙

私が小学生のとき、「児童会選挙」なる物があった。「児童会選挙」とは、「児童会会長」に立候補した児童を、他の児童が投票して決めるやつだ。

立候補した児童は、自分に投票してもらえるように大人同様に「選挙活動」もする。
確か、朝の登校時や朝の会、給食の時間、昼休みなどに昇降口で呼びかけたり、各クラスを回ったりしていた。なかなか本気の選挙活動。

選挙当日には最後の演説があり、体育館に全児童が集まる。応援演説もあった。最後の投票は、各クラスごとに教室で行われていた。

そーいや昔、子ども達に大人気だった児童書の「ズッコケ三人組シリーズ」でも、児童会選挙の話があったなぁ。なので、それくらいメジャーなイベントだったんだよね。

今でも、全国の小学校では普通に行われているのかしら。
と、いうのも、ウチの子ども達が通った小学校では「児童会」自体が無かったんだよね。当然、選挙も選挙活動も無かった。
私は、子どもにとってなかなか嫌なイベントだと思ってたので、「無くて良かったー!」って思ったのが正直な感想。

忘れもしない、あれは私が小学校6年生のとき。
学校で「児童会選挙」があった。
そこで、私の双子のカタワレが「児童会長」に立候補したのだった。6年生は全部で4クラスあり、各クラスから一人づつ、計4名が立候補するシステムだった。

そう、私には双子のカタワレがいた。
同じ学校に双子は何組かいたが、私たちはその中でも珍しい「男女の双子」だった。

兄でもあるカタワレは、幼い頃から私より、いや、世間的にも「デキ」が良かった。

幼稚園の時の「演劇」での演目「ブレーメンの音楽隊」では、カタワレは主役級の「犬」を演じたが、私はその他大勢の「盗賊」。

たくさんセリフや動きがある犬と違って、盗賊にはセリフも無く。大勢で円陣を組んで座った中で、手拍子しながら歌を歌い、酔っ払って眠り、カタワレたちが演じる動物たちに驚いて舞台からハケる。
そんなその他大勢の盗賊の一人だった。なんたる格差。


カタワレは小学校へ入ってからも目立つ存在で、運動も勉強もできた。
双子なので同じクラスになることはなかったが、校庭をたくさんの友人達と賑やかに走り回る姿や、100点だらけのテストの答案用紙や、「よくできました」ばかりの通知表を持って帰ってきたことは良く覚えている。

そんなカタワレが立候補した「児童会長選挙」。
私のクラスからは、当時私が好意を持っていた男子が立候補した。タカタマくんだ。
彼の事は好きだったが、「児童会長」に向いているかどうかといえば、適任ではないと感じていた。そういうタイプじゃないやん?って。

なんで立候補を決めたのかは分からないが、担任のカシムラ先生が推薦して話が進んだんだったと思う。先生の意見って子どもは影響されるよね。ましてや「男の怖い先生」だったしさ。

カシムラ先生は人気の先生だったが、私はちょっと嫌なところがあって微妙だった。面白いし人気があるから、尚更複雑な気持ちだった。

ある日の席替えのとき、「隣になったらいいなと思う、女子と男子の名前を書いて提出しよう」と先生は言い出した。
悩みに悩んだが、私は正直に書いた。先生が言うんだし、書かなきゃいけないと思っちゃったからさ。

そしたら、翌日からカシムラ先生は何かっちゃーと私をからかい出したのだ。席替えした隣にタカタマくんはいないのにさ。ちくしょう。書き損じゃん。
大人もこんな嫌な事するんかとムカムカした。


そんなこんながあってからの「児童会選挙」。我がクラスでも先生をはじめ、タカタマくんへの応援に熱が入っていた。
いよいよ選挙演説の日を迎える。体育館のステージの上で、4人の候補者が一人一人演説をした。そこにはカタワレもいた。

カタワレは、いかに自分が「児童会長」に向いているか、をとうとうと語った。真面目だった。
私は「あー、こういう真面目な意見って、ガキんちょには一般的に受け入れられないんじゃないかな…」って、ちょっと内心思って聞いていた。
内容的には、正に的確な意見ばかりだったんだけどね。

その後、各クラスに戻ってからの投票。投票用紙を一枚づつ配られ、候補者の名前を記入する。自分の名前は書かなくていい。大人の選挙と一緒だ。
私は、これまた悩みに悩んでカタワレの名前を書いた。

いくら好きな男子だろうが、クラスの仲間だろうが、適任なのはカタワレなのだ。そこに忖度など存在しない。最終的に、私は自信を持ってカタワレの名前を書いたのだった。


その翌日だっただだろうか。児童会室の前に投票結果が貼り出され、みんなで見に行った。
カタワレもタカタマくんも落選だった。カタワレは最下位だった。私はダブルでショックを受けていた。
それは、タカタマくんが落選したからではなく、カタワレが落選し、かつ最下位だったからだ。

「くっそぅ…みんなアイツ(カタワレ)の良さを分かってないな…」
って思っていた。口には決して出さなかったが。


教室に戻ると、クラス中は落胆の声で溢れていた。先生の下、みんなしてタカタマくんを一丸となって応援していたから当然だ。
すると、カシムラ先生はとんでもない事を言い出した。

「このクラスに、タカタマに入れなかったやつが二人いるんだよな。」
「一人は〇〇、もう一人はカタワレの名前が書いてあった。」

私は耳を疑った。投票は無記名で行われる。開票結果は秘密にされるはずだった。酷い裏切り行為だ。

カタワレの名前があがった後、クラス中が騒ぎ出して一斉にみんなが私を見た。カシムラ先生は追い討ちをかけるように

「まぁ、一人は大体分かるけど。」
と、言った。クラスの男子は
「キクトモさ〜ん!大好きなタカタマくんじゃないですか!!」
とか言い出した。

私はずっと前を向いて、黙って座っていた。一言も言い返さなかった。

地獄のような時間だったが、先生が授業を始めたので終わりを迎える。
まぁ、休み時間中もちょこちょこ男子に言われたけどね。うるせぇって。黙れって。


そんな訳でさ、私は「児童会選挙」には嫌な思い出しかない。
先生が人間できてなかったのもあるし、子どもが大人みたいに選挙活動するのも変な行為だと思う。もしかすると、「裏金」じみた、大人と同じような「ワイロ」を渡して選挙活動やってる子だっていたかもしれないしさ。

そういう意味じゃ、子どもの頃に「選挙」を体験して学ぶのはいいかもしれないよね。「不正」を肯定できるような学びになるだろうしさ。(嫌味)


とはいえ、現代の教育現場では、こんな酷い事はもう起こらなくなっている、と信じたい。
だって幼過ぎたよね、私の担任は。
今でも児童会選挙がある学校は、子ども達が将来間違った方向に行かないように、正しい選挙のあり方を教えておくれよと思う。

まぁ、「正しい選挙」ってなんなのか、ちょっと私には分からないけどね。

#この経験に学べ


この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?