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転職したら、脳が退化しかけた話。

わたしは去年転職をした。

それまで、4年半くらいベンチャー企業で馬車馬のように働いていた。

社長と同じ視座で物事を考えて話さないと、その無能さについて2時間説教が始まるくらいには、厳しかった。
超ドブラックな、深夜残業をするようなそういった厳しさやしんどさではなく、
とにかくスキル・能力についてものすごく厳しかった。

簡単に言うと、小学一年生に中学一年生の勉強をさせて、点数が取れなければ
「それはお前が勉強不足だからだ」「もっとできるはずだ」「これができないやつは世の中から淘汰される」と言っているのと同じようなものだった。

普通に考えれば、小学一年生が中学一年生の勉強ができないのは当たり前で、
小学一年生のテストで100点満点を取り続けるだけでも優秀のはずだ。
だけど、社長はそんなことを求めてはなくて、
「小学一年生だろうと、頑張れば二年、三年生の勉強も100点を取れるし、中学一年生の勉強だってやればできるから、できないのはやる気と頭の使い方の問題」
と言っているようだった。
実際にそう言われたわけではないけど、要はそういうことができる人材を求めていた。


わたしは当時、その言葉通り「わたしが無能だから悪いんだ」「もっと頑張らないと」「社長が考えることの上をいかないと提案が通らない」と無我夢中で寝ている間さえも仕事をしていたくらいには、毎日頭をフル回転させていた。


それが4年続いた頃、「もう良いんじゃない?」と思うようになった。

それまで何度も辞めたいとは思っていたけど、辞めなかった。
まだ、この人から学ぶべきことがあると思っていたし、しんどいけど、自分のやっている仕事が絶対に価値あるものだと思っていたから。

でも、ある日気づいた。
「わたし、いつから泣いてないっけ?」と。
昔は喜怒哀楽が激しく、よく怒り、よく笑い、よく泣いていたのに、ここ数年で人前で怒ることも笑うことも泣くこともしなくなった。
どんなに理不尽なことがあっても、どんなに意味のない怒りをぶつけられても
「承知しました」「申し訳ありません」と何の躊躇もなく言えてしまっている自分がいた。

この会社の前に入る前に一緒に働いていた仲の良い先輩と会った時、その状況を話すと、
「お前、全然お前らしくないよ。お前そんなイェスマンじゃなかったじゃん。今日見てて思ってたけど、笑わなくなったし、全てに諦めてるような目してるし、なんでそんな感情無くなったの?俺が知ってるお前は、先輩だろうと上司だろうと、納得しないことにはうんって言わなかったし、噛みついてくるくらい仕事に情熱あったじゃん。なんか、悲しいわ。」って言われた。

その時は、「新卒じゃないからね。フレッシュで世の中に期待を持って仕事してる純粋な人材じゃないからね、もう。」と本気で思っていたし、そう返事した。
彼は「お前がもっとのびのび働けて能力活かせるところで働いてほしいけどな。」と言ったが、「何をまた。笑 わたしには能力もないし、のびのび働ける会社なんてないよ。」と言った。

けれど、そのあとしばらくして、ふと「いつから泣いてないっけ?」と気づいた時に、
「ああ、このままだともしかしたら人間がダメになるかもしれない。」と思った。
先輩が言ってくれた言葉の意味を、本当の意味で理解した。
「ああ、そうだね。わたしがわたしでなくなってることにも気付いてなかったんだね。」と。

そこから、一緒に働いていた同期が先に転職し、その半年後、その同期と同じ会社に転職し、今に至る。

正直、今、昔とは180度違う環境で働いている。
これを世の中はホワイト企業と呼ぶのだろうと思ったし、実際そうである。
昔のように、馬車馬のように働いてもいないし、夢の中で仕事をすることも無くなった。
よく笑うようになったし、泣くこともできるようになった。
本当に転職してよかったと思っている。



でも、一つ言えるのは、確実に脳が退化したということ。


わたしは昔から仕事のできる人間になりたかった。憧れていた。

元大手広告代理店の全国トップ営業マンの社長と、小学一年生なのに中学一年の勉強をさせられるという英才教育の下で働いていたおかげで、
やめる頃には、小学一年にして五年生くらいの能力は身についたと感じている。
それは、実際に勤めていた時には感じていなかったが、外に出てみて、他と比べて初めて気づいたことだった。

英才教育を受けていたわたしには、今また小学一年生の勉強を始めているようなもんだから、脳が全く働こうとしない。
感覚的にはストレスも能力も1/100まで減った気がしている。
いい意味でも、悪い意味でも、すべて1/100になった。


だからこそ、最近のわたしの悩みは
「脳を使わせてくれ。」「これ以上退化したくない。」ということ。


転職は、わたしに人間の感情を思い出させてくれたけど、成長スピードを格段に低下させた。


別に、どちらが正しいとか間違っているとか、そんなことは一切考えていないし、正直どちらも正しいし間違っていない。これでよかったと納得している。

ただ言いたいのは、前職の社長に「英才教育を受けさせてくれてありがとうございました。そして、あなたは本当に、やっぱり、すごい人でした。」ということ。
一緒に働けて、よかった。





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