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格好悪いけど、堂々としている

「渋谷に服を買いに行きたいんやけど、好史一緒に行ってくれん?」

大学の同じ部活の同級生で九州出身のOからある日言われた一言。

大学生にもなって一人で買い物行くのが怖いというのも格好悪いだろう。


「買い物ぐらい一人で行けよ」と、僕は僕で彼女との予定を入れたかったこともあり突き返してみるも、「いやあんな怖いところ一人じゃ行けん!センター街入ったら知らん人に暗い店連れ込まれて、高い服買わされるんやろ?絶対一人じゃ行けんわ!」と、やたらと最悪な想定をして話してくるO。

「怖そうな人いればついて行かなきゃいいし、渋谷はそんな怖いとこじゃないよ。怖いと想像してるだけだろ?一人で行って怖さを感じたら次から対処すればいいじゃん」とさらに突き放してみるも

「一人で行くのが怖いからついて来てくれとお願いするんはおかしいか?お願いやって!一緒に行こ!」

と自分の気持ちを惜しげもなくさらし出してお願いのダメ押しをしてくるO。

流石に僕も折れて、じゃあ一緒についていくだけと、結局渋谷に二人で買い物に行くことに。

正直、渋谷に買い物に付き合うのはめんどくさかったけれど、ただこの時、自分の気持ちを素直に語り、そんなことを聞く俺は変なのか?と堂々と聞いてくるOの言葉をとっても不思議に感じたのを覚えてる。こんなふうに自分の言動や行動がおかしいか?とはっきりと聞く人がいるんだなぁと感じたと同時に僕には言えない言葉だなと羨ましさに似た感情を抱いたのも覚えている。

思えば、Oのあの一言を聞いた時から、自分の気持ちを嘘偽りなく、全て明らかにして、相手に伝える行動や言動をできる自分にこれからはなろう!と僕は心に決めたのだった。


なんてことは、まるでない。


買い物当日、Oは、胸に「O2」の大きなスポンサーがやたらと目立つド派手なアーセナルの赤いユニフォームでめかしこみ、渋谷に乗り込むと、背の大きな外国人のお兄さんから「アーセナル!アーセナル!」と声をかけられ、ビビり散らしながらも初めての渋谷での買い物を満喫していた。

正直僕はめんどくさかったし、なんもサポートしてないんだけど「好史に隣にいてもらえてよかったわ〜」とこれまた本音の感想をふと漏らす格好悪くも堂々としているOにやはり感心してしまう僕だった。


『砂漠』を読んだ。この本に出てくる西嶋も堂々と自分の気持ちを恥ずかしがりもせずに語る。その格好悪いけど、堂々としている姿にOの真っ直ぐな気持ちと行動を思い出し懐かしくなった。Oは本を読まないので、奥さんに読んでもらうように『砂漠』を勧めておいた。Oを感じて読んでくれるような気がしてとても楽しみだ。



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