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運命 episode4

「運命やと思ってる」

彼はそう言って目の前で小さな箱をくれた。中にはダイヤのネックレス。小さくて、とても品が良かった。

天神のファッションビル7階にあるカフェを選んでよかった。ほどよく人がいるのに、声は聞こえない程度のテーブルの距離もあった。彼が私の後ろにまわって、ネックレスを付けてくれる時も、視線を感じられた。

その日私は、襟開きの白いニットを着ていたのにネックレスは付けていなかった。ドラマのように最高の仕立てだった。

先月が30歳の誕生日だったと言った私に、出会って2日の彼がこんなプレゼントをしてくれるなんて出来すぎたシンデレラストーリー。しかも、背も高くて、顔立ちも好み。テニスでついたほどよい筋肉。社名を言えば誰でもが知る会社員。神様はいたんだ。やっときた私の幸せへの道。

けれど彼は私の夫には、ならなかった。

その年の2010年9月、私は中学からの友人と西新の居酒屋で飲んでいた。福岡から京都の大学に行き、関西で就職した彼女が実家に帰ってきていた。夏休みでもなく、なぜ彼女が、秋の始まりの季節に戻ってきていたのか、その理由は今も知らない。

九州出身の女は酒が強い。これは9割方、私の周りではそうだ。遺伝子の段階で決まっているそうだから、九州の人間は九州の人間同士でくっつくのが、流れなんだろう。

だけど目の前の彼女は、大阪の就職先で知り合った人と早々に結婚していた。子どもはおらず、だからこうやって独身の私に付き合って飲んでくれている。

「誰かいい人おらん?」定例の質問だが期待を込めて言ってみた。「うーん、おるよ」いつもなら、「そやね」ではぐらかされるのに顔を赤くしても意識はハッキリしている彼女が続けた。「会社の人なんやけど…背が低いのと、高いのならどっちがいい?」高い方がいいに決まってる。

「吉野くん、もう結婚したかなぁ」と言いながら彼女は誰かに電話をかけた。すぐにつながったようで、相手は吉野という男性のようだった。「うん、そう、ひさしぶり。今、福岡に帰ってきとうっちゃんね。そうそう、うん。ねぇ、吉野くんってもう結婚した? え、そうなん? あのさ、今さ、目の前にさ、かわいくておもしろくて、いい子がおるっちゃけど。」

私のことを面白いと伝えてくれるのは、相手がどう思うかに関わらず、とてもうれしく、古くからの友人に心でありがとうと言いながら、私はビールのジョッキを手にした。

「そんなヤツおらんって? いや、ほんまにおるんよ。え? そうなん? 2週間後? うんうん、わかった。じゃあ、また連絡するね、ありがとうー、はーい」

電話を切った彼女が言った。

「吉野くん、今度、福岡出張があるらしい」

運命の物語が始まった。

つづく。

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