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完全失業者数に潜む罠 2023/07/10

「失業率」は景気先行指数と知られ、その国の景気の状況を労働力の観点から見るのに優れている。

しかし、失業率の指数には素直に読むことによって分析ミスを起こしてしまう、いわゆる「数値の罠」がある。

今回は、この「数値の罠」について考えていきたい。

完全失業者とは

「数値の罠」を知るためには、まず、完全失業者数の定義を知る必要がある。

  1. 現在仕事についていないこと

  2. 仕事があればすぐ着くことが出来る

  3. 仕事を探す活動をしていること

上記3つを達成している一定年齢以上の者が完全失業者として失業率に計上されるのだ。

この基準はILO(国際労働機関)が設定している国際基準であり、日本だけでなく海外でも同じである。
ただし、国ごとにその期間に若干の差があることは抑えておく必要がある。

失業率上昇の意味

失業者とは上記項目で述べた3つの条件を達成した一定年齢以上の者(日本では15歳以上)のことであるが、失業率が増加しているということは景気状態の悪化が考えられる。

長期的に景気が厳しくなれば雇用状態の維持、及び新規雇用も厳しくなる。

では、失業率の低下は景気の上昇を示すものなのだろうか。

「YESではない」のだ。

ここに、「失業率に潜む罠」がある。

失業率下降の意味(本題)

失業率の下降にいい印象を持つのは当然のことだろう。
しかし、ここには大きな落とし穴がある。
失業率が継続的な上昇、若しくは急な上昇を見せた後に来る下降はむしろ景気の悪化を示している可能性があるのだ。

長期的に景気が下落した場合、3パターンの失業者が出来上がる。

  1. 就職できた人
    (失業者→就業者)

  2. 就職できず、就職活動を諦めた人
    (失業者→非労働力人口)

  3. 就職を諦めたシニア世代
    (失業者→非労働力人口)


1の就業者として失業者の枠組みから消えるのは、統計上好材料であるが、2.3の場合は違う。

まず、2の場合についてだが、長期的に就職活動に成果が出ない場合、就職活動を諦めたり就職に対する緊要度が低下する人がどの国にも一定数いる。
その結果、就職活動をしなくなった場合、「非労働力人口」として計上される為、失業者の枠組みから消えるのだ。
そのため統計上の失業率は下がるが、経済状況はむしろ悪化している可能性があるのだ。

また、3についても、長期的な就職が困難になると予測した場合、貯金で暮らすことを視野に入れ早期リタイアを選ぶ人も増える。
そうなると、こちらも2同様に失業率が減ることとなる。

つまり、失業率は統計データ上プラスに働いても実際はさらに景気の悪化が進んでいる可能性もあるのだ。

「数値の罠」を見破る方法

最も重要なのはこの章である。
【結論:他の経済指標の傾向を確認する】

イギリスを例に分析していく。
失業率     →4月:4%→5月:3.9%
失業保険申請者数→4月:4.67万件→5月:-1.36万件

どちらも5月にかけて下降しているようだ。
しかし、ここで景気回復に転じ始めたと解釈してはいけない。

失業率と同様、景気に先行する指数とされる製造業PMIは46.2であり、10ヶ月連続で景気の境目とされる50を下回っており、3月からも緩やかに下落している。

このように他の経済指標も参考にすると、断定する前に一歩踏みとどまることができる。

総括

  • 失業率が下落した際は景気の悪化を疑う必要がある

  • 下落した際には他の指数も参考に俯瞰的に判断をする


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