弾・打・Done

 弾丸が一発だけ残っている。
 そして、気配というか、息遣いが薄い壁を貫通している。散弾銃の重みを感じながら、その息遣いの多さに辟易する。
 見た。壁に穴が空いているので、奴らの眼がはっきりと見えた。
 獣だ。正確には獣人とも言うべきか。この打ち捨てられた惑星で異常繁殖した 、科学研究の成れの果てである。今さらその遺伝子サンプルを取ってこい、ということで、この様だ。
 そして、囲まれている。農園の仮眠用の家屋。次第に建物全体が揺れ出す。10体以上いるだろうか。 
 調査員の男が足元に両開きの扉があることに気づく。
 男は扉をあけて、階段を下り、暗闇のなかで正体不明の荷物を出入口に積んでいく。だしぬけに壁を突き破るような、衝撃音が響き渡る。
(侵入してきやがった、、)
 下手な打楽器演奏のような足音、明らかに集団の気配、男は息を殺すしかなかった。
(においでバレるかもしれない。万事休すか)
 その時、一階へとつづく扉が粉々に破壊された。荷物とともに破片が階下の男へ転げ落ちていく。薄明かりに、巨体の狼男たちが、ヨダレを垂らしながら近づいてくる。
「撃つぞ!」
 男は、この一発で、事態を凌げるとは思えないが、最後に虚勢ぐらい張りたかった。
 狼男の一人が俊敏な、猿のような動きで銃身を掴み、90度に曲げた。直後に狼男たちが雪崩れ込み、男を抱え上げると、蒸気機関車のような勢いで建物から出て行った。 
 満月が漆黒の空に煌々と輝いているなか、肩に抱えられながら、微かな夜風を感じていた。もうどうとでもなれ、という心持ちであった。
 しばらくすると、炎であろう明かりが視界にはいった。キャンプファイヤーのようになっており、それを取り囲むように、何かの肉や果物がテーブルの上に並んでいる。狼男がさらに三十体以上、それぞれ飲み食いをし、雄叫びをあげる者もいた。
 男はテーブルの前に降ろされた。視線が集中する。
「煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「煮ない、焼かない、人間、友達」
 狼男の一人がそう、言葉を発した。そんな知能があるとは、ブリーフィングでは説明がなかった。男が反応に困っていると、さらに続けた。
「ずっと、待ってた、おれ、人に、育ててもらた」
 どうやら友好的らしい。
 有無を言わさず、四人の狼男たちが太鼓をたたき始めた。
(これは歓迎されているのか。さっさと遺伝子サンプルをとって母船に帰りたいな)
 男の希望など無視をして、宴が続く。太鼓の音は心臓に響く力強さで、料理というより、ただ火をとおしただけのモノを勧められるまま、胃に流し込んでいた。
 翌日男は、彼等から毛髪をサンプルとして採取させてもらい、母船に帰還することになった。
 上官は事の顛末の報告を求めた。
「――なるほど、会話まで出来たと。教育もなしに、自力で発話できるとは驚きだな」
「はい。なかなか友好的で、食事までご馳走になりましたよ」
 その時、上官は怪訝な表情をした。
「それはマズイな。奴らは自分の体液をエサに混ぜるんだ。つまり、その、奴らは、そう。もとは人間だったんだ」


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