お題「あるべき成仏宴」

【秋刀魚】(410文字)

　ぼくはお葬式なんてきらいだ。
　家に知らない人たちがたくさん来て、お金の話で怒鳴ったり怒ったりしてる。
　おばあちゃんが小さな声で言う。
「これじゃ、おじいさんも成仏できないわ…」

　ようやくお葬式が終わった翌日、一人の青年が訪れた。
「どちらさま？」
　青年はおばあちゃんに微笑みかけながら言った。
「『成仏宴』のご提案です」
「成仏宴？」
「あのお葬式では魂は成仏できません。本当に故人を愛する人が開く宴が必要なのです」

　おばあちゃんは成仏宴を開くことにした。青年が若い頃のおじいちゃんに似てるからって。
　しかし、青年の提案で用意したのは、おじいちゃんの好きな秋刀魚の塩焼きと、新米のご飯、里芋のお味噌汁だけ。
「これでいいのかしら」
「これが、あるべき成仏宴です」
　ぼくたちは三人でご飯を食べた。おじいちゃんが生きてた時みたいに。

　食事が済むと、青年はごちそうさまと言って去って行った。
「やっぱり似てるねぇ…」

　今も、おじいちゃんの命日には秋刀魚を焼く。

おわり

(2023/9/28 作)

『たらはかに』様の9/24～9/30のイベントに参加させていただきました☆
今回は裏お題です。

それにしても今年の秋刀魚は…痩せててお高い(ノД`)・゜・。
秋刀魚までが高嶺の花に…