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140字小説【遠】三本立て

※『夏の星々』にツィッターで参加させていただいた作品を転載します。
(*´ω`*)ツィッターでは行間は詰めてますが、読みやすいように開けました。
課題の文字「遠」を使った日本語の140字の小説です。

その一

ある夏の日、幼い私は母に手を引かれ海へ行った。
海は家からそう遠くない所にあった。
母は季節の果物をおやつ代わりに携える人で、その日は桃だった。
甘いあまい桃。

「これを食べたらいこうか」
と母は言った。
「どこへ?」「遠いところ」。

でも私たちは行かなかった。
桃を見ると思い出す、遠く甘い夏。

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その二

「あれはなに?」
私が遠くを指さすと彼は答える。
「君が見なくていいもの」

「ふうん」。「じゃあ、それはなに?」
私がもっと近いところを指さすと彼は答える。
「君が見なくていいもの」

「ふうん」。「じゃ、あなたはだれ?」
私が彼を指さすと彼は答えた。
「君が見ていいものさ」。ふうん、つまらない。

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その三

『落とし文』。
それは、手渡しでは想いを伝えにくい相手に気づいてもらうため、近くに落として拾わせる置き手紙のことである。

私は書いた手紙を、意中の彼の通り道にぽとんと落とした。

彼は気づいたが、足先でちょんちょんとつつくと、すぐに飽きて遠くへ歩き去っていった。
猫に落とし文は効かない…。


…『落とし文』という言葉は、ミモザさんの作品で出逢って、一緒に楽しませていただきました☆☆☆
ミモザさん、ありがとうございま〜す!


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