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掌編小説【繰り返し】

お題「本心」

【繰り返し】

よろしいんですの?
あたくし、毎日同じことを繰り返しているだけですのよ。

食事はツナサンドだけで、他のものは食べませんの。
いろいろ試しましたけれど、一番しっくりきましたから。
朝起きて、一日分のツナサンドを作りますの。
半斤のパンにツナ缶一つ分。それを朝昼晩に分けて。
飽きないかって?ええ、毎日美味しくいただいておりましてよ。
あなたも召し上がる?

食事以外のことでは…そうですね、散歩は好きですわ。
これも行先を決めておりましてね。
公園、お店、海辺、の三つですの。
お買い物が必要な時は当然お店ですけれど。
公園と海辺はその日の気分で決めますの。
それくらいのアソビは人生に必要でしょう?
今朝はお天気がよかったから海辺にまいりましたの。
そうそうこれ、太陽のおすそ分けですわ。どうぞ。

家の中にいる時は…本を読むことが多いかしら。
読む本は七冊だけに決めてしまいましたけれど。
その七冊を繰り返し読んでおりますの。
読む本や順番は決めず、目を閉じて『手』に選ばせますのよ。
手は、あたくしのことをよく知っていますからね。
頭を使わなくても、ぴったりのものを選んでくれますの。
今朝手にとったのはサン・テグジュペリの『星の王子さま』でしたわ。
もうすっかり暗記してしまっているのに、毎回発見がありますの。
名著とはそういうものですわね…。

え?同じことの繰り返しで退屈しないのかって?
変わりゆくものは自然に変わっていきますもの。
あたくしはそれを見ているのが大好きですの。
小さな変化は静かにしていないと見つかりませんのよ。


こんな話で、御社の『月刊 健康長寿』の記事になりますかしら?

でもきっとみなさん…
本心では健康長寿なんて求めていらっしゃらないのでしょう?
百二十年も生きていますと、それくらいのことはわかってしまいますのよ。
ふふ。


おわり

(2023/4/28 作)


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