お題「Ｉ魚人(あいうぉんちゅ)」

【ちゅーっス】(410文字)

いなせな魚屋など遥か昔に絶滅したのだろうか。
「あいうぉんちゅっ」
『Ｉ魚人（あいうぉんちゅ）』と書かれた看板の下で、どう見ても『男気』とか『粋』からはもちろん『早起き』からも遠く感じる深夜ムードのチャラい若造が呼び込みをしている。
もしかして魚屋ではないのか？
しかしまだ日は高い。おさかなタイムではある。

私は店に近付いてみた。
「ここは魚屋かね？」
「あいっうぉんちゅー！」
てらてら光る薄手のシャツを素肌にまとった若造の胸には金鎖が光る。しかしここはホストクラブではなさそうだ。私の眼下には魚が陳列されているのだから。
「うむ。イキはよさそうだ」
「あいっうぉんちゅーっス！」
元気はいいがうるさい。頭がわるいのかもしれん。
声をかけた手前、私は鮭の切り身を買った。

帰って妻に報告する。
「変な魚屋が…」
「あ、おとうさん、娘の恋人があいさつに…」
「ちゅーっス！」

プロポーズの言葉は『あいうぉんちゅ』だったそうだ。
こいつ、それしか言わんぞ。

おわり

(2023/6/20 作)

『たらはかに』様の6/18～6/24のイベントに参加させていただきました☆
今回は裏お題です☆
表お題で恋物語を書いてしまったので、裏ではオヤジ物語になりました…
(;・∀・)ちゅーっス