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やがて君になる 二次創作「お姉ちゃん、文化祭参加の夢かなう」(燈子パート)

「今回の生徒会主催公演『エジプト女官の雑記帳』は終了しました」
私は、お姉ちゃんの精一杯の演技を見て拍手した。生徒会主催と聞いて不思議に思う人も多いと思うけど、私たちの学校には演劇部がありません。でも文化祭では生徒会が演劇をするのが伝統で生徒会が事実上の演劇部も兼ねています。私は体育館を出て、次はどこの教室回ろっか……とプログラムをざっと読んで廊下に出た。

 私はジリジリジリ……と鳴っている時計を押さえつけて飛び起きた。朝食を急いで食べて家を飛んで出て、遠見駅に着いて、なんとか間に合った電車に乗り込んだ。席に座った私は、先週末の生徒会OB会の打ち合わせでの頼まれごとの件で、さんざん悩んだ。そこでお化け屋敷をやることが決まってしまって何故かお姉ちゃんに白羽の矢が立ってしまった。
「燈子ちゃん、澪さん貸してもらえないかな? この通り頼む。それでウチの出し物は成功間違いなしだから」
会長のこの一言でこの話が始まった。私はそれを聞いた途端びっくりした。あのね、この通りって言われてもね。私のお姉ちゃんを小道具か何かだと思ってそうでしょ。そう思った反面、私の心には引っかかるものがあった。お姉ちゃん、本当に文化祭に出たかったんだって思ったときは。

 あれ以来お姉ちゃんをうちの子供部屋でずっと寝かせているというのは内緒にしていたんだけどね。一応目くらましに墓立てておいて。それを私が知ったのは大学の頃だけど。一体いつあの人たちにまでバレたのだろう? 墓参りのときの表情がいまいち本気じゃないのが読まれちゃったのかな? あれだけ文化祭に出たい出たいと言っていたお姉ちゃんだけどこういう役柄だとかなり複雑だよね。文化祭の直前に車にはねられてしまったことを考慮に入れても。あんなことがなく無事に舞台が成功した夢を昨晩見てしまっただけにね。そして演劇をやることなんて思いもつかなった私の人生ってどうなっていたんだろうってね。そしてもしお姉ちゃんが、あれ以来中断していた後私が再開させて演じた劇を見てどんなふうに感じたかな……と聞きたい気持ちでいっぱいだった。

 それで、夕方、帰宅後に子供部屋に行っていつものようにお姉ちゃんに話してきた。部屋の中に大きな箱が置いてあって、その箱の中でずっと静かに寝ている。そして私はいつものようにふたを開けてお姉ちゃんの寝顔をのぞき込む。今でも式場のスタッフの方の技術と丁寧な仕事のおかげで少し触ったら目を覚ましそうな感じだね。そしてお姉ちゃんが手を組んでいるところの上にアクリルの中ぶたごしに私の手を当てていつも話しかけている。それで今日は、「お姉ちゃんに文化祭の出演依頼が来ているんだけど。でもそれ、お化け屋敷の出し物なんだよね……」
と話しかけた。返事は当然ないけどどうしようか……?と悩み迷った。そして結局次の打ち合わせで会長の押しに負けてお姉ちゃんを貸し出すことにした。これで良かったのかな……

 その文化祭当日、私の車でお姉ちゃんを学校まで送り届けた。時期がハロウインということでお化け屋敷になったみたいなんだけど大事で大好きなお姉ちゃんをこんなところに出していいのかともうさんざん悩み抜いた。でも、お姉ちゃんにとっては幻になってしまった文化祭を楽しんでもらいたかったから…… そして学校に着いたら侑たちと一緒にお姉ちゃんが入っている箱を担いで教室の所定の場所に連れていった。
「これで全員揃ったね。先輩ありがとう。本当に感謝してる」
侑はそう言いながら私の肩をぽんぽん叩きました。私は二枚もらったバックステージパスのうち一番をお姉ちゃんの箱のふたの内側に貼ろうとしたら、すでにそこには「伝説の元生徒会長」という張り紙が張り出されていた。一体誰が作ったのだろう。私はその横にパスを貼った。そして二番を私の服に貼った。

 準備も終わり、文化祭の開始時間が始まって客が入り出した。現役生もOBも。彼らがお姉ちゃんを見たときの印象っていろいろだった。どうせ精巧に作られたマネキンなんだろうと思ってそうな顔をした人や、貼り付けた説明書きを見て思わず涙した人まで。私の方は体育館でOB公演を何回かこなして、その合間に屋台でちゃんとお姉ちゃんの分も入れてドーナツを買ってアクリル板の上にそっと置いた。喜んでくれたらうれしいな。

 そして文化祭が終わった後、私は思わずお姉ちゃんを箱の上から抱きしめた。そして行きと同じように車でお姉ちゃんを連れて帰った。私はお姉ちゃんを子供部屋に戻した後改めてアクリル板越しに口づけした。そしていつものように
「おやすみ、お姉ちゃん」
と言った後箱のふたを閉じた。

 翌日、劇団に出勤してみると同僚数人がこっそりうちの学校に来て、私達の劇を見に来たみたいで見事だったよと言った。お化け屋敷の方はと言うとそこまでは行っていないみたいだったね。ある意味での大仕事を無事に済ませた私。今日からは本業の劇団に集中できるかな。そして、市ヶ谷さんにお姉ちゃんの人格データ収集と入力を頼み込んで任せてもらった。本当にありがとう。今はこの間出演したドラマに出てきたような3Dアバター程度のものしかできないみたいだけど、将来義体みたいなものができるようになったらきっと。その時のためにもちろん貯金もして、そして人生最大の涙を出す準備はできているから。



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