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アルコール依存症④ 平均寿命50~54歳

今回でこのシリーズはラストです。
わたしはアルコールの缶やビンの下2/3を使って、こう表記してほしい。

「アルコールは、様々な疾病になる危険性を高め、あなたの健康寿命を短くするおそれがあります。アルコールには依存性があります」
「アルコールは依存症になると、ご家族を共依存やアダルトチルドレンという病に陥れる恐れがあります」
「妊娠中のアルコール摂取は、胎児に多大な悪影響を及ぼします」

まだまだありますけど、タバコのパッケージのパクリは難しい(おい)
なんでこれをやらずに「ストロング」だの、逆に「ほろよい」だのと、あの手この手で誘惑するのか。さすがの資本主義だよね。はああ。

アルコール依存症の患者さんたちは、家族に「酒をやめないと離婚する!」とか「もう勝手にして! 私たちは家を出ていく!」とか言われちゃってるわけです。とはいえ、共依存の妻とか、アダルトチルドレンの子供とかは、やはり多いんですよね。

共依存(きょういそん)とは、特定の相手との関係性に過剰に依存し、その人間関係に囚われている状態です。恋愛関係、友人関係、親子関係など、人間関係全般に現れます。

共依存の妻は、夫がアルコールを飲むために嘘をついたり、暴力をふるったり、逆に罪悪感から妙に優しかったりするので、振り回されています。
自分の人生を送れずに、夫中心の家庭になってしまっている。
「わたしがいなければ、この人(夫)はダメになってしまう」と思って、子供たちを守る意味もあって夫の機嫌を損ねないようにふるまってしまう。
夫に酒を買ってこいと言われて従ったり、前もって酒を準備して夫をコントロールしようとしたり、酒を隠したり。妻もまた(妻が依存症の場合は夫も)どんどん病んでしまいます。

アダルトチルドレン(AC)とは、子ども時代に親や養育者との関係の中で負ったトラウマ(心的外傷)が原因で、現在の生きづらさや人格形成への影響を感じている状態を指す概念です。

本人だけではなく家族全体が病んでしまう病気。それがアルコール依存症です。苦しいのは自分だけじゃないんだと理解すると、治療への意欲が向上するかもしれません。しかし、飲酒欲求の巨大さに押しつぶされることは多いです。

アルコール依存症の患者の平均寿命は、50~54歳程度とされています。これは一般人の平均寿命である85歳よりも短く、死亡率も高いとされています。

これは結構衝撃的な年齢ではないでしょうか。ただ、わたしは仕事をしていて実体験として分かります。ほんとに50代くらいの若さでどんどん亡くなるんですよね。まだまだ働き盛り、子供がいたら社会人になったばかりでしょうか。

ただアルコール依存症は長い時間をかけて進行していく病気です。20代から飲み始めて死亡するのが50代。30年の期間の半分はお酒で楽しい思いもしたかもしれませんが、半分は苦しんだと思います。

昔、飲酒運転が原因で三人の子供を死なせてしまった事故がありました。
その後に飲酒運転への世間の目が厳しくなったのを実感されていると思います。ハンドルキーパーなんていう言葉も聞くようになりましたし、代行運転を頼むのは当たり前になってきました。コロナ以降は飲み会自体が減り、若い人達は飲酒自体しない人が増えてきました。

しかし高齢者のアルコール依存症が増えた印象がありました。
病棟でのARPも、高齢者の方にはハードルが高かったりするので、別のプログラムを組んで参加してもらっていました。いわば簡易版です。アルコール依存症への教育というよりも、入院期間くらいは飲酒せず、認知症が入ってきた患者さんの日常ケアをするという混在型です。

ARPでは宿題がたくさんあります。認知行動療法でのレポートや、外出外泊の際のレポートもあります。本を読んだり、文章を書いたりするには慣れが必要ですが、本を一冊読み終えることも大変な高齢者がいます。

プログラムの改変、改善は日常的に行われていました。しかしそれにスタッフの数が追い付きません。地方病院の限界を感じることが多かったです。
というか、医療スタッフの不足は全国共通の問題なのでしょうが。

物価が高いとか、飲み会に行きたくないとか、若い人の環境も変わって飲酒する人口も減ってきています。このままアルコール依存症が社会的要素によって消滅してしまえばいいのにとは思いますが、家飲みはひっそりと増えているのかもしれません。

ARPには家族会も含まれます。当人だけではなく家族の学習やケアも必要だからです。週末に実施していましたが、参加人数はさほど多くはなかったですね。それでも家族会や自助会への参加は家族の治療になるので、常にお勧めしていました。

それと単身の患者さんへは、退院後にアルコール依存症患者さん専用のグループホームへの入居をお勧めしたり、アパート探しのお手伝いをソーシャルワーカーが行っていました。
通院しやすい場所で暮らす。治療の場から遠ざからないようにする。これは大事なことだと思います。退院してしまうと通院しなくなる患者さんは多いので。

医療の側は、ここまでやって、しかしここまでしか出来ません。
断酒三原則。通院、自助グループへの参加、抗酒剤の服用は、なにより守ってほしいことです。


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