ごちそう走馬灯#1【マグロで1杯やるまで帰れま10 -前編-】
ところで、出張中のご飯って困るよね。
ご飯の回数が全然足りない問題。
限られた滞在時間の中で食べたいものが多すぎる。
最近はよくお仕事で和歌山に行っておりまして。
神戸から片道2時間半かかるけど、食べ物が美味しいから全然苦にならない。
物理的な距離が仕事の妨げになるかと思ったけど、そんなこと全然ないよね。
これは最近仕事でよく行く和歌山での話。
取材対応のはざまでお昼ご飯を食べてないことに気づき、現場をそっと抜け出した。
食べる場所も時間もないので、とりあえずコンビニでプロテインを買い、帰り道でそれを吸いながら空を見上げた。
「うまいマグロで一杯やりてぇなぁ…」
しっとりしたマグロをアテに地酒を飲みたい。
前回来た時にたまたま入った何の変哲もない普通の居酒屋。そこで頼んだお造りの盛り合わせ(という名の完全な舟盛り)がとにかくレベルが高かったことを思い出す。
特にマグロは、神戸・大阪の何の変哲もない居酒屋で食べるソレとは別物。
くすみのない鮮やかな色合い。口の中に吸い付くような独特のなめらかさとフレッシュな甘み。私が知ってるマグロと違う。
今までの人生でマグロだと思って食べてたアレは一体何やったの?
あの日から私は和歌山のマグロに魂を乗っ取られている。
プロテインを吸い終わり、すでに心はマグロ一直線!
ここで重要なのは店選びやけど、そんなこともあろうかとアタリはつけてある。
地元の人から聞いたオススメのお店や、食べログ上位の気になるお店をGoogleマップにリスト化してあるのだ。このなかに地元の魚が食べられるお店もいくつかあったはず。
無事仕事を終え、ホテルにチェックインしてから和歌山のリストをチェックする。
ちょっと待って?なんか嫌な予感する。
この日は日曜日。
行こうと思ってブックマークしてた酒場たちは軒並み日曜定休で全滅だった。
ホテルの部屋でいつまでもネット検索してても埒が明かない。
こちとらもう腹ペコの限界を超えているのだ。
とにかく街に出かけよう!
ホテルを出発し、とりあえず駅前を目指す。
駅前には馴染みのある全国チェーンの居酒屋なんかが軒を連ねてる。地方の街づくりって結局こうなっちゃうのかなー。いや、チェーン店があかん訳ちゃうねん。最近はチェーン店の企業努力に思いを馳せながら味わうのも好き。
ただな。ご当地グルメに使うべき大事なカードをここで差し出すわけにはいかんのや。
ご飯のチャンスは1日最大3回。仕事の場合は1回飛んだりもするからさらに貴重なのだ。
駅前を離れ、みその商店街に向かう。
旅先の魅力は商店街に集結してると言っても過言ではない。行先に困ったら商店街を目指せ。
じゃーん。
人がおらん。
おらんけど、アーケードの入り口に「がっつり昼呑みできる店」とある。
昼呑み勢はきっと今ごろ完全に出来上がっていてすでに夢の中なのか?幸せかよ。
今がお昼やったら惹かれるところやけど、夜に「昼呑み」のキーワードはイマイチ響かない。
商店街の中にも入ってみる。
人がいなーい!
意外と明るいが逆に閉まってるシャッターが煌々と照らされ物悲しさが倍増する。
よくよく目を凝らすとやってるお店もありそうやけど、目当てのマグロがあるかは外から見てもわからない。
たまに地元のおじさんたちで賑わう活きのよさそうな赤提灯を見つけるも立ち飲み。今、立ち飲みに耐えられる体力がない。ライフが100%あれば4時間でも5時間でも立ち飲みできるんやけど、もう2%くらいなので無理なのよ。
時間は既に20時過ぎ。
マグロ食べたいだけの欲求に脳みそを支配されたソンビがアテもなく歩いてるこの状況。確かウォーキングデッドってこんなんだっけ?(観たことないから知らん)
飢えと寒さでどうにかなりそう&和歌山の夜は早く終わりそうな気配を感じて一旦マグロ欲を手放すことにする。
もうご当地グルメでビール飲めたらなんでもいい。
辿り着いたのは和歌山ラーメンの名を全国区に押し上げた超有名店「井出商店」。創業は昭和28年だそう。うちのおかんと同い年や。
普段は県内外からやってくる人で行列ができるほどの人気店らしいけど、日曜日の夜だからかうまい具合にスッと入れた。
ついてるっ!(切り替え早い)
店内に入ると独特の豚骨臭に包まれる。匂いにカロリーを感じてちょっとだけライフ復活。
普段ラーメンを外で食べないので何を注文したらわからんけど、こういう時はまずノーマルよね。
一番シンプルな「中華そば」と「煮卵」をオーダー。
注文してからよくよくメニューを見る。
「特製」気になるね。
なにが「特製」なのかとても気になる。
ノーマルにはない特別な何かがあるって事よね?
ここでちゃんと疑問を解決しとかないとあとで後悔する。
お店のお兄さんに聞いてみると「特製中華そば」とはチャーシュー麺のことらしい。
チャーシュー麺ならチャーシュー麺って書いてー!
チャーシュー欲しいに決まってる!
ラーメン好きはこのメニュー名から察するものなのかしら。
「間に合えば」と前置きした上で「特製中華そば」に変更した。
それで?ビールは?
卓上から壁の隅々まで見渡すけれどドリンクニューがない。
もちろんビールサーバーもないし、瓶ビールが入ってそうな冷蔵庫も見当たらない。
もしかしてビールないのー!
この豚骨臭をアテにビール飲もうと思ったのにー!
マグロを諦めた時にのんだ涙が再び溢れそうになった。
麺よりも先にきた煮卵が悲しい。
この煮卵をつつきながらぐびー!といったらどんなに気持ち良かろう。
煮卵に手をつけずに大人しく待っていたら「特製中華そば」がやってきた。
濃い茶色のスープから立ち上る湯気がかぐわしい。
なんか壁に貼ってあるうんちくを見たら、「昔はもっとあっさりやったけど、ある時店主が偶然スープを炊き込みすぎておいしなった」みたいなことを書いてあった。(うろ覚えです。間違ってたらごめんなさい)
まずはスープを一口。
熱々のスープが冷えた体に染み渡る〜!
さっきまでマグロ欲に支配されてたはずやのに、気づけばこの一杯のために今日の仕事を頑張った感すらある。
茶色いスープは見るからに濃厚やけど意外とあっさりしていて、スイスイいける。
チャーシューもしっとり柔らかく、麺も程よいコシでスープがよく絡む。メンマの歯ごたえもいいね。
煮卵も早々にインして、割ったところから黄身がホロホロと溶け出したスープもまた良し。
ビールがないおかげで、ラーメンに集中できたな。(負け惜しみ)
あったかいラーメンのおかげでウォーキングデッドからなんとか復活。
帰り道は足取り軽く、無駄に遠回りしてコンビニでビールを買い、ホテルで一杯やりましたとさ。
後日談
井出商店からホテルに帰る途中、コンビニで見つけたインスタント麺を帰ってから即食べた。
チャーシューがないので、激辛タレ漬けサムギョプサルをサッと焼いてトッピング。萎れかけの九条ネギもファサッと。
茶色いスープから、あの時暖簾をくぐって店内に一歩足を踏み入れた時の香りがした。ご当地グルメを家で復習するまでが旅。
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