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観光は富裕層から学んで*

*令和4年4月10日付 西日本新聞 「オピニオン」欄より転載

自然・歴史資産の再発見

約40年ぶりに故郷の九州に戻り、1年になる。これまで九州・沖縄各県の博物館や名所旧跡を50ヶ所以上訪れた。この地が自然や歴史・文化的資産の宝庫であることを「再発見」し、紀行文に記してきた。

私が生まれ育った大分県の中津市にも、城下町の街並みや薦(こも)神社の生態系、耶馬渓の景観という素晴らしい財産がある。ひいき目はあるにしても、食や温泉も含めて、九州には世界と勝負ができる観光資源が山ほどあると感じた。

現在、新型コロナウイルス禍によって地域の観光は大きな痛手を受けているが、この時期にこうした資源を改めて評価し、コロナ後の将来に備えることは肝要だ。

九州の観光では、外国人や日本人の富裕層向けに、長期滞在型で、体験を重視した旅をどう提供するかが課題の一つだと認識している。私自身は英国で駐在経験があり、また東京では家事支援サービスの会社を経営していたことから、外国人や富裕層のライフスタイルを間近で見てきた。そうした経験から言えば、富裕層向けに旅のプランを考えるには、まず彼らの価値観を理解することが必要だ。

一般化は難しいが、40代から50代の現役層に限ると、お金より時間を大切にすること、自分や家族への投資を惜しまないこと、芸術や文化に興味を示し、健康や美容への感度が高いこと、などが共通項として挙げられる。また、彼(彼女)らは、環境保護や食の安全、社会課題にも敏感だ。

富裕層の顧客のことは分からないという話をよく聞くが、顧客がどんな生活をし、旅では何を望んでいるかに想像力を働かせることは重要である。その上で、旅でどう過ごしたいかを探るには顧客に直接聞くのが一番の近道である、というのが私の持論だ。なぜなら、彼(彼女)らは世界中を旅した経験から、良い体験やサービスを知っており、教えてくれるからである。

新しい顧客層を定めて、顧客を理解し、謙虚に学び続ける姿勢から、付加価値の高い商品やホスピタリティーは生まれる。そして、ワンランクアップした観光は地域経済の底上げや働く人の賃金上昇につながり、その波及効果は小さくないはずだ。

私自身も、そうした地域の事業を後押しして、故郷への貢献をしていきたい。いずれ友人たちが数多く九州を訪れることを楽しみにしながら。

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(略歴)
ゆう・きそん 大分県中津市生まれ。慶応大卒。英国の銀行勤務、富裕層・外国人向け家事支援サービスの会社代表を経て昨年、地域の事業創造に取り組む「クレアティフ」を設立。福岡市在住。

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