見出し画像

鍋と野菜とサラダと私。

「好きな食べ物は?」

という素朴な質問に、ちゃんと答えられない。具体的にこれが食べたい、というイメージが全く浮かばないのだ。

「甘いもの全般です」

なんていう回答をしてしまう。ふざけているわけでも、かっこつけているわけでもなくて、好きな食べ物として具体的にあげられるものがそもそも無いのである。もっというと食べ物に関する語彙がほとんどない。学校の給食に出ていないものはわからないし、テレビのCMで2010年くらい以降に取り上げられたものは、ほとんどわからないと言っていい。

しかも食事のカテゴリーも、ナベとか、カレーとか、お米とか、区分がバラバラである。関西でありがちな「お好み焼きはご飯と一緒に食べるのか問題」以前に、カレーとお米は分けて考えるのか問題や、肉ともやしだけで栄養バランスを全部解決できるわけねぇだろ問題など、色々な問題が立ちはだかる。

一応、野菜は食べておこうと、コンビニでカットサラダを買って食べる習慣は続いているのだが、正直そんなに栄養がないことにも気がついている。野菜ジュースも味が好きで飲んでいるのだが、あれもあんまり栄養がないらしい。

バランスの良い食事とか、体作りなどというが、そもそも健康的な食事はどこから始めればいいのか取っ掛かりがわからない。何を見ても怪しい気がするし、誰から進められても「えー!? マジでー!?」という気分である。

それに加えて最近困っているのは、語彙の少なさが仇となって料理のレシピを検索できないことである。食べたい料理も、料理名も浮かばない。

「ほら、あれだよ、あれ」といって、食べたいものが出てくるほど、まだAIは進歩していない。

そこで、手近にいたTさんに助けを求めた。

「僕の今日の夕食を決めてください」

Tさんは言った「ジャージャー麺とかどう?」

私は「あ、それいいっすね」と言って、結局スパゲッティを買って帰った。タラコスパゲッティは美味しい。

「今日は何がいいですかね」

「んー、まぐろのたたきをご飯にかけて、そんでそこにゴマかけよか」

「おー、なるほど」

私はその日、ハマチのお刺身を買って帰った。Tさんのアドバイスを一切合切無視しているのは本当に申し訳ないと思う。でも、ジャージャー麺の素は売っていなかったし、マグロはちょっと高かったのだ。それぞれ、麺類、魚類というカテゴリーはズレていないので、大目に見てほしいと思う。

そんな気持ちで過ごしていたところTさんから晩御飯の進捗を聞かれた。

「俺のアドバイスどんくらい採用されてるの?」

「まー、ほぼゼロですね」

「ゼロかーい!」

その後、三度目に夕食を決めてもらったときに、鍋を推奨された。

「ナベなら、多めに作って翌日も食べられる。便利」

というので、私は休憩時間に近くのスーパーで鍋の素と豚肉と白菜を買って帰ってきた。それをTさんにも報告する。二度もスルーしているので「流石に三回も無視することは無いですよ、今回は作りますよ」というアピールである。

帰宅後すぐに鍋を用意して、白菜と豚肉を重ねてからザクザクと切り、鍋の素を入れて煮込んだ。今度こそ、Tさんとの約束は守れそうだと思いながら、ポン酢で食べた。

ところが、鍋は一度食べると止まらなくなる。その日は翌日の分も考えて2人分作った鍋とお米を全て一日で食べきってしまった。普段の倍くらいの量だ。でも、白菜と豚肉の鍋は本当に美味しかった。おいしいおいしい、と言っている間に気がつけば雑炊でシメて食べ終えていた。

「明日のメニューを考えなくていいから鍋は楽」と言っていたTさんに「すみません、一日で食べきっちゃいました」という報告と謎の謝罪を済ませる。本来二日目の鍋になるはずだった日は、豆腐とサラダとキムチを買ってインスタント味噌汁を作って食べた。

好きなものが無いのなら、せめて健康的な食事を心がける。しかし、その全てが健康に向かっているかと自問自答してみると、確信を持って首を縦に振ることができない。

サラダの袋を開けてドレッシングをかけ、お豆腐に醤油をかける。

仮にこれ、野菜が取れているとしても塩分、めちゃくちゃ多いのでは……。そんな思いが頭をよぎった。

「まぁ、食べないよりはマシか」

元も子もない理屈で自分を納得させながら、ドレッシングの味しかしないカットサラダを口に運んだ。

ーーー

今回のテーマ「サラダ」

もくじはこちら

ここまで読んでいただいてありがとうございました。 感想なども、お待ちしています。SNSでシェアしていただけると、大変嬉しいです。